ようこそ、サンドリンへ
「見つからない……か」
「どうする、村のみんなからも居そうな場所を聞いてみてはいるけど」
この日、昨日から捜索している人をまだ見つけられないでいた。村の人の言葉を手掛かりに思い当たる場所を見に行ったが物音ひとつなかったそうだ。高齢の夫婦らしく希望が薄いか……。
ロットやオイーバさん、村の人の話も聞きながら今日の捜索で見つからなければ断念すると決定した。これだけの災害だ、被害がゼロとはいかないと思っていたが、実際に目の当たりにすると苦しい物がある。今日の残りの捜索にかけよう。そんな気持ちで村の人も捜索に導入し、ご飯を食べ終わった後に動き出した。
俺はこの日、村長のパフトンさんに同行してもらい村を歩いた。これまでどこに家があり、どこを歩いたのかを聞く。昨日村の外周を書いた地図に追記していく。
今はまだ頭の中だけのイメージだが、ジンドリンとシェリンの間に家を建て、ハレウミに向かって棚田を広げていく。そんな感じだろうか。完成したら素晴らしい景色が広がりそうだ。
パフトンさんに村の事を聞きつつ捜索活動をしているとあっという間に時間が過ぎて行った。途中リユンと父が家に戻る時顔を見せに来た。それからはすぐに日が傾き、空が赤くなった。盆地の為か俺の住んでいる場所よりも暗くなるのが早く感じる。
捜索隊を待ちつつアリアと話しているとどこか聞きなれた声が聞こえてきた。
「おーい!」
「この声は!」
アリアと見つめ合って嬉しくなる。だってその声は……。
「ブロードさん!」
「ブロード!」
ジンドリンから馬車荷台で下って来るブロードさんは手を振りながら嬉しそうにこちらを見ている。俺たちも大きく手を振りながら迎えに行った。
「本当に、本当にありがとうございます!」
「大変だったんだからね?」
そうは言うがブロードさんは何だか自信に満ち溢れているような顔をしていた。その理由はすぐに分かった。馬車の荷台にはたくさんの食料や物資が積まれていた。さらに二台目の馬車、見た事のない人が馬を止めた。その馬車には数人が乗っているようだ。
「成功……したんだ」
「あぁ、ルツちゃんもこれで安心だね」
ブロードさんとこそこそ話しているとアリアがブロードさんを呼ぶ。もうすぐ夜ご飯の時間だ、さっそく手伝いを頼まれた様子だった。
「先に行ってて。こっちは俺が」
「うん、任せた」
アリアとブロードさんに晩ご飯を任せ、俺はもう一台の馬車に近づく。相手も俺に気付き続々と馬車から降りてきた。服装はブロードさんのようにしっかりした物を着ている。場違いにも思える程だ。でも無理はない、なんせ今まで快適な場所で働いていたのだから。ブロードさんに引き抜かれると聞いてどう思ったのだろう、何を感じたのだろうか。恨むなら自分の娘を恨むんだな。あの時俺は決めたんだ、絶対に許さないと……。
「ようこそ、サンドリンへ。これから一緒に頑張りましょう」
最大限の作り笑顔でそう言うと、一人の男の人が手を差し出してきて握手を交わす。その後自己紹介が始まった。
まず馬車を操作していた男が口を開く。
「私はガイオと言います。そしてこっちが妻のぺインクで、娘のペンナです」
さらに髪を腰まで伸ばした背の高い女性が俺の前に出てきた。
「お世話になります、私はエホトです。この子が娘のホシャトです」
次に来たのは髪が首辺りまである男が出てきて、無愛想に言い放ってきた。
「デテリオだ、こっちがミスカ。あれがロンだ」
デテリオの言葉はまだ続いた。そうとう自分の置かれた状況が嫌らしい。
「お前の指示には従うつもりは無い」
「そうですか、構いませんよ」
どこまで知っているのか知らないが、俺が心配する事ではない。なんせ住む国が違うんだからな。
デテリオと睨み合っていると、もう一人女の子が俺の前に一人で来た。不安そうな顔で、心細い声で自分の名前を口にした。
「エ、エミヤです……」
馬車に乗っていた人、全員の名前が分かった。エミヤの親がどうしたのかは分からないが概ね予定通り。この時点で復讐は完了する。俺は自分が魔王にでもなったかのように大きな声で名乗る。それはペンナ、ホシャト、ロン、エミヤのいじめっ子の頭でも理解できるように、何でこんな場所に連れてこられたのか理由が明確にはっきりと分かるように……。
「ありがとうございます。学校ではルツがお世話になったと聞いております。ルツの兄、アグリです」
妹が苦しんだ日々をずっと考えていた。どうしたらルツが救われるのか。でもどうしたってやり返してしまっては恨みが生じまた争いになってしまう。復讐は何も生み出さない。そんなことくらい二度目の人生なんだから、分かり切っている。それでも妹が苦しんだ、ルツの心は傷付き、一人で涙を流したんだ。それを許す理由は無い。謝ろうが反省しようが、ルツが大きくなって大人になっても、学生時代に付けられた傷が癒える事はないのだ。
母にルツを任された。その勤めを果たす時がきた。
サンドリンが被害にあったと聞いて対策を考えた時、この復讐を思いついた。ルツから奴ら4人を引き離す策。ただ引っかかったのは魔法使いが国から守られている点だ。魔法使いが生まれたらすぐに国に知らせる。時が来たら訓練学校に無償で招待される。そのため国を変える必要があった。国が変われば決められた法律も変わる。サンドリンに居れば国は奴らを強制的に学校へは招待できないだろう。強制的にルツから離し、金輪際近づけさせない。立場が圧倒的に上のブロードさんには従はない訳には行かない。それに国王のお許しも付いてる。完璧な復讐だ。
リスクは山ほどあったが勝機もあった。懸命に働いてきた俺に、この世界に生まれ変わらせた何方かが味方したのかもしれないと、思うようにした。
「アグリ、あの子たちって……」
「想像にお任せするよ」
「ちょっとさすがに恐怖を覚えるわね」
何のことだかさっぱり分からない、なんて表情をしながら毛布に包まった。
ルツは驚くだろうか……。でももしかしたら良い見せしめになるかもしれない。今回、学校の白魔女には手を出せなかった。その点ここに来る前、ジュリに渡しておいた手紙。そこでシャウラさん宛に今後起こるであろう事を書いておいた。白魔女が学校にまだ存在する事実は変わらない為、シャウラさんにはまだ仕事をお願いしてある。
とりあえずこれで妹ルツのいじめの被害は食い止められるだろう。
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