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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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救出

「アグリ君! 手伝ってくれ、瓦礫の下から音がするんだ!」

「すぐ行きます!」


 パフトンさんに国作りを提言していると、そんな呼びかけが飛んできた。俺は立ち上がりながらパフトンさんを見る。頭を両手で抱え地面を見ている。その頭の中にはどんな考えがあるのだろうか、俺には想像すらできない。そんなパフトンさんに追い打ちを掛けるように、背中を軽く叩きながら言う。


「良い返事待っています」


 すぐに助けを求められた方に駆け足で向かった。

 まるで悪者だ……。そんな思いが心を埋める。それでも、もう後戻りなんて出来るはずがない。俺が悪者になる事でサンドリンのみんなが助かるなら安い物だ。前を向くしかなかった。


 メンバーの、筋肉が自慢のオイーバさん。大きく手を振りこっちだと俺を呼んだ。到着してみるとそこには、小屋だったのか家だったのか分からくなるほど、壊れた建物の残骸が山になっていた。小屋の中には土砂が大量に流れ込んだのが分かる。


「酷いな……」


 生命の存在を疑ってしまうほど酷い状態だ。でも、オイーバさんは諦めていなかった。まだ中に居るかもしれない人を助けて見せる。


「アグリ君、この下なんだけど」


 違和感を覚えるほど落ち着いているオイーバさんは指さした。その場所を覗くと微かに光の通り道があり、確かに命を感じる。大きな声で呼びかけてみると微かにカサカサと音が聞こえる。動かせる指だけで何かを擦っているような音だ。聞える! 生きてる!


「今助けます!」


 俺の声が希望になるように呼びかけた。

 瓦礫の状態と周辺の確認をする。こちらが怪我をしてしまっては本末転倒だ。細心の注意を払う。

 まずは上に載っていて簡単に退かせそうな物を慎重に取り除いていく。2人なら退かせそうな岩も退かすと、残るは建物の中心となっていたであろう大きな柱だけになった。こいつを退かせさえすれば脱出する道が広がるはずだ。ひとりが通る事の出来そううな隙間があれば十分だ。どうしたものかと考えていると、オイーバさんが大きな雄たけびを上げながら柱に手を掛ける。柱はギシギシと音を立てるものの、持ち上げる事はできなかった。


「だめだ。応援を呼んでこようか……」


 さすがにオイーバさん1人では厳しいようだ。こういう時はと、周りを見渡し目的の物を探す。


「手伝います!」


 一度持ち上がってしまえば、オイーバさんの力でしばらく持ち続ける事が出来るだろう。見つけた近くに転がっている木を拾い、さっき一緒に退かした岩を柱の下に転がす。木を唯一開いている隙間に通し、準備完了だ。オイーバさんに合図を送って掛け声を出した。


「せーのっ!!!」


 ギシギシとさらに大きな音を立てながら、瓦礫全体が動いていった。


「いける!」

「もう少しだ! 頑張れ!」


 2人で大きな声を出しながら、人が通れそうな隙間を作り出した。オイーバさんから目線で合図を受けて支えていた木から手を放し、すぐに隙間に体をねじ込んで手を伸ばした。


「この子を……」


 そう微かに聞こえ、手探りに握ったのは細い細い腕だった。少し雑なのは承知の上で引きずり出す。出てきたのはまだ生を受けて間もない赤子だった。日の光が当たると眩しそうな顔を見せ、親から離れてしまったためか大きな泣き声を上げた。でもその大きな声は俺たちにとって安心させてくれる物になったのは間違いない。泣く元気があるのなら命に別条はないだろう。

 赤ちゃんを安全な場所に移動させて、母親であろう人の救出に向かった。


 オイーバさんは苦しそうな顔だったが「まだまだ」とニヤリと笑っていた。案の定瓦礫が持ち上がってしまえば、体全体の筋肉を使って上がった状態をキープ出来ている。想定通りだ。


「もう少し、頑張ってくださいね!」


 中で俺達の助けを待っているであろう母親にも、力の限りを尽くしているオイーバさんにも聞こえるように声を掛けながら、もう一度赤子が出てきた隙間に体をねじ込ませる。すると暗闇の中でかすかに母の顔が見えた。


「今助けます!」


 するとその女性は力なき声で呟いた。


「子供は……」

「大丈夫です、元気ですよ」

「良かった……」


 まずい、非常にまずい状況と察した。母親が助かる事を諦めている……。でもその理由はすぐに分かってしまう。子供と同じように引っ張り出そうとしても体が動かない、そもそも女性も動こうとしていない。動けないのか……。


 落ち着いて状況を確認する事にした。腕は両方目視も出来るし掴むことが出来る。なら考えられるのは足、もしかしたら瓦礫に引っかかっているのかも……。さらに母親の弱り具合が子に比べて激しい、その原因の可能性は出血だ。この状況ではこのまま引っ張っても助ける事は出来ない。どうする、何をしたらいい。今ここで俺が出来る事……。


 頭が真っ白になった、何も案が浮かばない。母が、死んでしまう。俺の力不足が原因で。俺が、俺のせいで……。


「アグリ!!!」

「この声! お父さん!?」


 足元から聞こえる父の声。耳から入ってきたその声は、俺を強制的に安心感を与えてくれた。真っ白だった頭が晴れていく。

 瓦礫の中に居る女性に「すぐに助け出します」と約束をして穴から出る。


「お父さん、なんで!?」

「流石に心配だった」

「そっか……ありがとう!」


 父は少し照れくさそうに言った俺の頭を撫でる。俺は頭を切り替え、中に人が居る事と足が挟まっていることを伝える。体力も限界に近く、時間が限られている事も考慮に入れる。オイーバさんも持ち上げ続ける事は難しいだろう。さてどうする。

 父は女性を信じる事も大切だといつもの落ち着いた声で言う。信じるって……。


「アグリはまず水を飲ませてこい、中に入れるのはアグリだけだからな」

「水?」


 何で……、そう思えたが落ち着いて考えてみると理由は明らかで、延命だと気付いた。出来るだけ命の時間を稼ぐ。父に「分かった」と頷いて準備に取り掛かった。魔石から水を取り、それを届ける。水を摂取できるのと出来ないのとでは雲泥の差があるはずだ。その間に父は状況を確認。必要な箇所だけ瓦礫を取り除いていた。

 俺が今すべき事は俺が出来る事を懸命に行う。水を届け生きる事を諦めさせない事だ。


「今、応援が来ました。水をゆっくり飲んでください」


 そう言って口に流し込む。ほとんどは零れてはいるが、確実に喉を通っているのが見て取れる。


「赤ちゃんにはあなたが必要です。だから俺たちが諦めるまで、あなたも諦めないでください」


 女性の気力が消えてしまわないように声を掛け続ける。大丈夫、俺たちは絶対に諦めない!


 どれほどの時間が経ったのか、何度声を掛けたのかも分からない。父の声と共に俺は母親を抱え、瓦礫の中から救出が成功した。予想した通り足には出血が見られ木の破片が刺さっているようにも見える。すぐ医者に見せに行かなくては。喜びもほどほどに父とオイーバさんが女性を抱え、俺は赤ちゃんを抱き上げた。ここからはスピード勝負、みんなで小屋まで走った。


 その後2人はすぐに医者に診てもらう事が出来た。何とか間に合った。赤ちゃんの方は擦り傷ともう少しで脱水症状が出るところだったが、すぐに対応が出来て回復に向かっている。母親の方も医者の適切な処置とアリアの魔力によって血が止まり後遺症も大丈夫と診断を受けた。数日間は歩けないだろうが時間と共に癒えていくだろう。


「ロット! リユン! それにミルさんも!」

「アグリ、無事だったか」


 父を連れてきたロットたちと無事に合流できた。持ってきた荷物を確認すると、思った以上に物資が多く村のみんなには感謝でしかない。サンドリンのみんなも孤児院から持ってきた毛布に包まり暖を取っている。今晩も乗り越える事が出来そうだ。

 でも……、俺の耳に入ってきたのは、みんなの心を折ってしまいそうな言葉だった。


「偽善者が増えた」

「人の顔をした悪魔だよ」

「自己犠牲のつもりかい?」

「侵略者め」


 村の一部の人が俺たちを睨んでいた。おそらくパフトンさんからあの話を聞いたんだろう。

 その声を聞いたアリアやロットは、今にも殴りかかってしまいそうな勢いで小屋の中に入って行く。


「2人とも、来て。話があるんだ」


 俺は2人の腕を握って制止した。

 ひとつやふたつ文句を言われるのは分かっていた。なんせ何人もの人生を動かすのだから……。


 この日、夜の食事を配り終えて、今後の話をするためメンバーを集めた。


「ブロードさんは来ないのか?」

「そのことなんだ、話したいのは」


 ロットがブロードさんの存在を気にした所から会話が始まった。ちょうどいい、俺が考えている未来を話しておこう。


「でもその前に……、パフトンさんの答えを聞きたい」


 みんなが近くに居た、パフトンさんに視線を向けた。何に対しての答えなのか、みんなは知らないだろうがパフトンさんの答えによっては、明日ここを出る事にすらなるだろう。

 パフトンさんは決意を込め、まっすぐ俺を見て言い始めた。


「村の年長とも話し合ったよ、それで決めた。アグリ君のすべてを受け入れる」


 それを聞き安堵する。


「分かりました、ありがとうございます」


 パフトンさんにとって村の人にとって苦渋の決断だっただろう。でも俺はその決定をした事、絶対に後悔させない。将来、今日この決定をして良かったと思ってもらえるような仕事をすると約束しよう。

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