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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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条件

 サンドリンに到着して村の人と接触した。リリアンの名を出すと、さらに小屋の中はざわつきだした。だがすでに気力も体力も底をつきかけているほとんどの人は、隅の方で座りこちらの様子を窺っている。


「リリアンは無事なんでしょうか……」


 小屋から聞こえてきた声に耳を澄ます。小屋の中にはいくつかの簡易的なベッドが用意されていて、声の主はそのひとつで横になっている高齢の男性だ。

 安心させるようにリリアンの状態を伝える。


「えぇ、無事です。もうすぐ会えますよ」

「そうか、うちの孫が世話になった……」


 どことなく声が似ている気がしたが、おじいさんだったのか。お礼を言われ俺も頭を下げる。

 さて。何から始めるべきか思案する。救助か、救援か。頭の中で今後の動きをぐるぐると考えていると、駆け足で1人の男性が近寄ってくる。皆の反応を見る限り村長のようだ。着ている服がドロドロで、見るからに顔が疲れている。そんな顔を見て俺はまずするべき事を決めた。


「すまない、バタバタしていてね」

「いえ、ひとまず皆さん。ご飯食べませんか?」


 ほんの少しだけだが村の人と接触して危害は受けないだろうと判断し、村のみなさんにそう提案した。

 その声が聞こえたのか、馬車の中からアリアが出てくる。俺も待機してくれていたアリアたちに合図を送る。


「アリア、お願いできる?」

「うん、分かったわ」


 皆で馬車からスープの材料を出し準備を始める。コバトさんがあらかじめ材料をカットしてくれていて、後は鍋に入れるだけ。この状況でも時短が出来る、本当に感謝だ。具材の準備をしてもらっている間に、コバトさんのお店の大きな鍋に魔石からの水入れる。それから火の魔石を固定し鍋を置いた。こんなキャンプのような使い方をしたのは今回が初めてだが、魔石はこうゆう場面では本当に役に立つ。さらに魔法が使えない俺たちでも恩恵が受け得られるため、大変助かっている。この世界の魔法使いに感謝だ。

 お湯が沸き、野菜に火が通り軽く塩味を付ける。さらにパンを用意をして食べられる人に限って手渡した。簡素な食事で申し訳ないが、体を暖め栄養と水分を補給するのには十分だろう。適当に使えそうな器を集めてきてもらい皆に声を掛ける。


「皆さん、食事が出来ました。各自取りに来てもらっても良いですか?」


 俺も、サンドリンの人たちにとっても、初めての炊き出しが暖かい湯気と一緒に回っていく。誰も食べられていない人が居ないよう確認しながら、慎重に提供した。少しでも温まってくれれば嬉しい。食事を見ていると歓声とも思える声が響き、みんな安心してくれたようだった。ご飯があるのと無いのとでは持てる希望も持てないのだろう。この少しの時間だけでも、来てよかったと思える。


「アグリ君と言ったか。すまない、助かったよ」

「いえ、そう言ってもらえると俺も嬉しいです」


 先ほど駆け足で寄って来た村長。名前はパフトンと教えてくれた。パフトンさんによれば、まだ行方不明の人が何人も居て何とか助け出したいと思っているそうだ。それはもちろん協力させてもらおう。行動する前にまずはメンバー紹介といきたい。そして役割分担だ。それにパフトンさんには話しておかなければいけない事もある。


「アリアは魔法使いです。主に魔石関係や必要に応じて治療も出来ます」

「おぉ、魔法使いさんが! 心強い」


 魔法使いと知ってまた歓声が上がる。

 さらに医者を2人。そして行方不明者捜索と救出に筋肉さん、3人を紹介した。メンバーにはそれぞれ仕事を開始してもらった。治療を受けている村の人を見ると、安堵の表情を浮かべている。とりあえず安心ってところか。


「パフトンさん。今日中に俺の友達も来る予定です。それに後日追加で支援が到着します」

「本当か! 何から何まで……。本当に、どうやってお返ししたらいいのか……」


 それを聞き俺は踏み込んでいく。


「その件でお話があります」


 パフトンさんと2人で話す時間を作る。場所を移し、温かいお茶を一口飲んだ。


「これはお願い……ではありません。条件です」

「条件……、助ける条件かね?」

「そうです」


 少し厳しい言い方なのかもしれない。でも俺たちはここに来るまでかなりのリスクを背負い、この地に入った。自主的にではなく、頼まれてだ。さらに支援費用は俺たちの自腹。無償でこれからも人助けとはいかない、これが現実だ。もし交渉が決裂したとなれば、俺たちはこの村を去る事になるだろう。もっともサンドリンに断る力が無いことも知っての事だ。正直心苦しい、だが、俺にだって背負っている物があるのだ。

 パフトンさんもお茶を一口すすってから、大きく息を吐いた。俺が何かしらの条件を出すかもしれない事を想定していたのかもしれない。少し頭を整理しながら条件を伝える。


「パフトンさん、サンドリンを国にしませんか?」


 それを聞いたパフトンさんはぶぅーっと口の中のお茶を吹き溢した。激しく咳込むと、口元に手を当て落ち着かせている。呼吸を戻しながらパフトンさんは俺の顔を凝視する。


「本気……なのかね……?」

「えぇ、本気です」


 大真面目に伝えた。

 パフトンさんが想定していたのは、トランの正式な村になる事だったそうだ。国の中に国を作る俺の話には驚愕したそうだ。もちろんその案も頭に浮かんだ。それでは俺たちの利益にならない。俺は国を作り、田んぼを作り、サンドリンで作った米をブランド米として販売する。世界が米で動くことになるだろう。それが、サンドリンが救われ、俺たちのコポーションも動き続けられる方法だ。

 俺は続けて本気度を示す事を伝える。


「すでに、国王の孫であるブロードが動いています」

「そんなことが出来るのか……」


 俺たちが美味い米を作る事が出来れば可能だ。さらに国が設立されれば、ブロードさんの交渉結果に応じてある程度の支援も見込めるだろう。


「村の人の家と仕事は俺が保証します。その代わり、死ぬ気で働いてください。それが助けの手を差し伸べる条件です」


 パフトンさんは割れかけのコップを音を立てながら倒木の上に置いた。村長としてどんな決定をすべきなのか、迷っているのだろう。昔から孤立していたのは何か理由があるのだろうが、その理由と村の命を天秤にかけているのかもしれない。パフトンさんの首は曲がり、深く俯いている。俺はそれ以上何も言わず答えを待つことにした。

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