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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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接触

 空気が異様に冷たい。山肌のあちらこちらから水が流れている。かなり危険な状況と誰しもが分かる。そんな中でも安全に馬車を進めていくが、手綱を握る手はいつもより力が入る。途中倒木や落石で足止めを食らったが、ジンさんから託してもらった筋肉さんが道を整えてくれて助かった。

 不安そうな表情で隣に座るアリアは周りを見渡しながら、似合わない細い声を出す。


「ねぇ、この道大丈夫なの……?」

「地図に従って、このまま進むしか……」


 アリアを危険な状況に巻き込んでしまった事に罪悪感を抱きながらも進み続ける。何があってもアリアは守る。

 しばらく進んで行くと悪路で馬が疲れている様子が見て取れた。これでは安全に村まで着けない。少し道の開けた場所を見つけて馬車を止めた。


「少し休もう」


 馬車を固定し、馬を楽にしてから水を飲ませた。馬もほっと一息付けた感じだ。


「ありがとうな。もう少しだ」


 撫でながら呟いていると、筋肉さん二人が先の道を確認しに行ってくると歩きだす。危ないとも思ったが、たぶん馬車に乗っているだけでは体がうずいてしまうのだろう。

 二人に出発時間を伝えて、先の確認をお願いした。これで少しでも安全に進めるだろう。


 水を飲ませ終わりアリアの所に戻ると、付いて来てもらった医者とアリアが話している。


「アグリ君はいつもああやって安全を気にしているのかい?」

「えぇ、一緒に仕事をする仲間にもよく気を付けるように言っていますね」

「何の話?」


 聞くと、俺が頻繁に安全を気にしていることを褒めてくれていたらしい。まぁ自分自身、安全管理を怠ってこの世界に居るのは紛れもない事実なので、素直に褒め言葉を受け入れる事は出来ないのだが……。


「農業は事故が多い仕事なので、みんなで楽しく出来ているときに怪我でもしたら寂しいですし、何よりみんなの事を愛してますから」

「そんな事よく簡単に言えるわよね」


 呆れ交じりにアリアは言った。

 大切な人には怪我はもちろん、命は落とす事なんて絶対にさせたくない。自分の命が大切なのと同じように、仲間の命も同じように大切なのだ。もう、仲間の悲しむ顔は見たくない。


「その気持ち大事にすると良いよ」

「ありがとうございます!」


 この世界でも前の世界でも後悔なんて山ほどある。それでも、これからどう行動するかしか変えられないのだ。自信を持って答えた。

 そんな話をしていると、進む道を確認しに行った筋肉さん達が戻って来て問題ない事を教えてくれた。馬車の準備を整えて俺たちはサンドリンに向け出発した。


 筋肉さんがどこまで確認してくれたおかげだろう。その後は順調そのものだった。それから30ほど進むと、地図にあったサンドリンの村の入口、それが目印になっていたであろう場所に来た。


「これ……だよね。たぶん……」

「えぇ、間違いないわ」




 サンドリン、ジンさん家方面からサンドリンに向けてユーフォニー山脈を登って来た。地図を見ると、山に囲まれた盆地のように見えた。実際に今いる場所から村を見下ろすと、山に囲まれていると言うより山に挟まれた形状に見える。無事に到着したことを喜ぶべきか、リリアンの情報が正しくその点を安心すべきか、俺の心は何故か異様に落ち着いていた。泥の匂いと雨の匂い。埃っぽさはなく、呼吸はしやすい。それでも、ここから村を見渡せば見渡すほど、心臓の脈打つ回数は増え、足が震える。


「アグリ。あそこ見て」

「え?」


 呆然と立ち尽くしているとアリアが村のある方向に指を指した。


「人が集まってる」

「本当だ。避難場所……。いや、集合場所かな……?」


 人だかりが生き残っている建物を囲っていた。

 そこを目指すために見える範囲でルートを決めて馬車を進めた。



 目印であった場所からサンドリンのたくさんの人が居た場所を目指し降りて行く。近くなればなるほど被害の全貌は明らかになっていった。

 小屋、家。水車。さらに畑であったと予想できる場所も土砂により壊滅している。山から流れてきたであろう大木が家のど真ん中に突き刺さっているものも見え、事の重大さを感じる。周りを見渡すが使えそうな建物は山の上から見えたあの建物だけのようだ。


 ふと隣に座るアリアを見ると、自分の手を重ねうずくまっている。


「アリア、大丈夫? 気分悪い?」

「いいえ……。ただ、本当に可哀想で……」

「――そう、だね……」


 変わらない日常を平和な村の中で送っていたんだろう。そんな中、突如自然の驚異に晒された。どうにもできなかったとはいえ、無念だっただろう……。

 もう時間はお昼近くになっている。馬車で村の人たちに近づいていくと、集まっていた人はざわざわしだすのが耳に入った。村の皆は俺たちの事を警戒し、一斉に馬車から離れていく。ほとんどの人は離れた場所からにらみをきかせていた。


「アリアも皆さんも、しばらく中で待機していてください。俺、行ってきます」


 メンバーに声を掛けて俺は馬車から降り、サンドリンに足を付けた。小屋に向かって歩くとあちらからも男の人が俺に向かって来た。緊張の瞬間、俺はアリアに貰った胸の魔石を一度握ってから、声を掛ける。


「初めまして、アグリと言います。リリアンの話を聞き駆けつけました」

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