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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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みんなでするの楽しい

「さてっ! やりますか!」


 院の横にある新たな畑。ダリアさんの日々管理してくれていたおかげで、すぐに種を蒔くことが出来るようになっていた。ありがたい事この上ない。ダリアさんにお礼を言った時、土を触るのは初めてではないと言っていて、性に合っているのだそうだ。


「何から始めればいい?」


 手袋と帽子を身に付け、新しい鍬を抱えたサラが言った。

 正直サラを店に立たせるか、畑をしてもらうかすごく迷った。サラ的にはどちらでも良いみたいだったので、もう少し大きくなってから店に行っても良いと考えひとまずは畑に居てもらう事にした。サラはわくわくした様子で俺の前に居るので俺は安心だ。この決定は正解だったかもしれない。


「ありがとう。まずは場所を決めて印を付けて分かりやすくしようか」


 春一番の仕事始め。慣れるまでは丁寧にしていこう。

 そこそこ広さのある畑では場所決めが重要だ。夏前に収穫できる物もあれば秋まで収穫出来ない物も、今後同じ畑の中に植えていく。その時期の差も考えながら場所を決める事が必要だ。それにより効率も上がるし、草の処理も最小限に済むはずだ。

 そんな考え方を説明すると、サラもアルタスもダリアさんも、あはれどうだこれはどうかと話し合いながら場所を決めて行った。


「アグリさん、こんな感じでどうですか?」


 3人で決めた提案をダリアさんから聞く。ちょっと緊張している様子だったが、それでもジェスチャーを交えながら真剣に話してくれた。


「うん、良いですね。でもネギは後で植え替えるから場所をずらした方が良いかもしれません」

「そうなんですね、ならネギは畑の中心に寄せて、植え替えたら耕せるようにします」


 俺はみんなを安心させるように頷いた。

 農業に正解はない。ただ、いろいろ教える事も俺の役目だ。失敗もするだろうがそれを踏み台にして、どんどん美味しい物をたくさん作り出してほしい。

 目をキラキラさせながら「はい」と返事をしたダリアさん。サラとアルタスに合図を送っていた。


「なら次は畝を作ろうか!」


 鍬でそれぞれ印を付けると、担当を決めて畝作りを開始した。少しずつだが確実に進めているとサラが近づいてきた。


「アグリ兄ちゃん、これ重い……」


 落ち込みながらサラが見せに来たのは新品の鍬だった。土の汚れも今付いた所の、まだまだ若い鍬だ。


「そうだな。サラにはまだ重かったな。こっちはどうだ?」


 サラの鍬を貰い、俺が使っていた鍬を渡した。この鍬は俺がこの世界に来て初めて握った、思い出の鍬だ。父からのおさがりで元から使い込まれている。握る木の部分は細く丸みを帯びている。また重い爪の部分も土との摩擦で削れて薄く軽い。その事もあり土に刺さりやすくなっていて、新品よりも扱いやすいはずだ。


「こっちの方が軽い! やってみる」

「あぁ、怪我しないようにな」


 元気よく担当の場所に戻っていったサラを見届け、作業に戻る。

 根菜の株や大根を蒔く畝は気持ち高めに作っておいた。やっぱりのびのび育ってもらうのが良いだろう。雨が降ったら畝は小さくなってしまう事もある。

 農業は1人で黙々と作業するのもそれはそれで楽しいが、こうしてみんなでするのも悪くない。そんな事を考えながら畝の片側が完成した所で、誰かが俺を見ている気がした。顔を上げてみるとアルタスが俺の作った畝を見ていた。


「何かコツとかあるんですか?」

「コツかぁ……」


 何を伝えれば良いだろうかと悩む。どんなアドバイスがアルタスの力を伸ばせるだろう。いろいろ考えたがひとまずアルタスの鍬使いを見せてもらう事にした。


 少しの時間見続けると、明らかに違うのが持ち方だった。


「アルタス、鍬を左じゃなくて右側に出してみて?」


 それだけを言っただけだが、先ほどまでとは進むスピードが明らかに違う。


「頻繁に後ろを向くと曲がっていくから、手元に集中して、土の上に自分だけの目印を付けるように見てみると、まっすぐ下がれるぞ」


 良い感じだ。アルタスも作業しやすくなっているのが見て取れる。後は慣れと経験値の問題。時間が経てば力を入れる事なく、体力も温存しながら作業が出来るだろう。

 俺たちは時間を見て休憩に入った。


「どう? みんなお仕事出来そう?」

「思ったより大変かも……」


 ダリアさんがみんなに問うと、サラが額の汗を腕で拭いながら言った。やっぱり大変だったのか。サラの顔を見ても苦しそうだ。


「――でも、みんなでするの楽しい!」


 サラは満面の笑みで言った。

 俺が思ってる以上に院のみんなは強い。これからの成長が楽しみだ。


 休憩を挟みながら畝作りの作業を終えた。3人に種まきの説明をして後は任せてみる。この3人なら絶対大丈夫。俺は明日小麦を買いにジンさんの所へ向かうため、まだ明るいうちに孤児院を後にした。


「もう行っちゃうの?」

「これからは頻繁に来ることになるよ、サラとはもう仕事仲間だからな」

「仲間!」


 サラは仕事を任せられたことを嬉しそうにみんなに話して回ったそうだ。

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