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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第三章:成長期

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いらっしゃい! いらっしゃい!

 ごろごろごろごろごろと、水の流れる音と一緒に響く。俺はじっとそれを見つめ、気分が高まる。


「おぉ、案外上手くいってる」


 家の近くを流れる小さな川に自作の芋洗い機を設置した。水の力を借りて水車が回り、中に入れた芋が転がり綺麗になる。田舎ではよく見られた光景だ。そんな記憶を頼りに作ったが綺麗になると良いな。


「次はさつまいもだな」


 里芋を洗っている間に、雪の上に盛った籾殻に枯葉を使って火をつけた。微風が味方して、良い感じに燃え広がっていく。


「あっ! アルミ箔無いじゃん!」


 このまま突っ込んでも出来るだろうかと思案する。いや、止めよう。自分で作った物なら失敗しても構わないが、人から預かった物だ。灰の匂いが付いた、焦げた焼き芋なんて食べてもらえない。家にある土鍋で作る事にしよう。


「これは後回しだな」


 火をつけてしまった籾は、後で畑に撒いて耕しておけばいいだろう。

 ゴボウは好きに料理で使うとして、問題はこんにゃく芋だな。

 こんにゃく芋は作るのに時間がかかる上に腐りやすい。事実こんにゃく芋を貰う時にはとんどの物がすでに腐っていた。かなりショックを受けてたコニーは印象的だ。


「たぶん、これだけの量じゃこんにゃく作れないよな」


 こんにゃくなんて作った事も無いが、芋をたくさん使ってこんにゃくを作ってるイメージだ。

 コニーの小屋にはまだ少しだけ残っていたと言え、貴重な物なのでこれからも残していきたい。


「決めた、種芋に残そう」


 こんにゃく芋は育てるのに数年かかるはずだ。その間に保存する環境を整えよう。それでコニーと協力してこんにゃくを作ってみよう。


 春になる直前、俺はコニーから分けてもらった食材を使って料理を作った。味付けの選択肢が少ない中ではあるが、シンプルに素材の味を生かした物だ。正直言えば、焼いたり煮たり、炒めたりして火を通しただけではある。料理が出来ないのではなく、素材の味を引き立てた。そんな料理でも想像以上に上手く行って美味しく食べる事が出来た。腹を壊す事も無く、リユンやコニー、父にも食べてもらったが美味しいと評判だった。ただ、やはり味付けのレパートリーが少ないため、販売するのは難しいかもしれない。その辺りも考えなければならないだろう。

 賢治さんに開発をお願いしている麹菌が完成すれば、確実に料理は豊富になる。そんな美味しい未来も想像しながら、俺は春の準備を開始した。


 時は流れ、ペアダルの月からニサンの月に変わる頃、すっかり平地の雪は解けきった。山の雪も徐々に解け始め、川の水は増していく。風も春の匂いを運び、草花が元気につぼみを膨らませる。

 追肥した野菜たちはすくすくと成長して無事に収穫の時期となっていた。

 朝、まだ暗い時間にコニーから買い取ったさつまいもや里芋、ゴボウをロットの馬車に積む。他にも俺が収穫したほうれん草、小松菜なんかも木箱に丁寧に詰め、馬車に積んだ。


「準備出来たよ」

「それじゃあ、行くか!」


 まだ暗いからと小さくした俺の声とは裏腹に、ロットの朝とは思えない元気な声を合図に馬車は動き出した。俺たち、コポーションにとっては希望の朝だ。たくさん作って、美味しいって言われたい。まだ商品は少ないが、いつかきっとたくさんの人を満足してもらえるように仕事をしていこう。そんな想いだった。


「アグリ、書類はジュリのお母さんに頼んだんだって?」

「うん。事務仕事はこれからもお願いすることにしたんだ」


 俺が決めるべき物のひとつに人事があった。孤児院のメンバーはまだ決められていないが、今考えられるのは店の管理かと畑仕事をお願いする事だ。ミルさんには基本的に事務仕事をお願いしたい。ジュリはアリアから魔法について勉強してもらっていたため店にも立ってもらえるし、融通が利く。嬉しい事にミルさんは快諾してくれた。あの量の書類を俺が畑仕事をしながら書くのは、さすがに途方に暮れてしまっていた。


 さらにロットの馬車の改造計画。出来る事として風通しの良さで温度を下げる事に重きを置いていた。リユンと一緒に話し合った結果、馬車の下に吸気口を開けてフィルターのような物で巻き上がった砂の混入を防ぎつつ、馬車の上に開いている場所を排気口にする。それで籠った熱を逃がしてみる事になった。上下に付けた理由として、暖かいい空気は上に行くからで、さらに対角線上に吸気と排気を置くことで熱が籠りにくくなる作戦だった。

 これは失敗に終わったとしても取り返しがつくように、開け閉めが出来るよう作ってくれるとの事だった。


「ロット、あれ、すごい綺麗」


 ロットは馬車を止め、俺が指さした方に顔を上げる。


「本当だ。すげーきらきらしてる」


 目を奪われたのは、世界に朝を知らせる朝日だ。それは太陽ではないだろうが、俺たちの背中を押してくれるものだった。


「これから楽しみだな、アグリ」

「あぁ! 行こう!」


 ロット目を細めながら再び馬に指示を出し、町に向かった。


 薄暗く、まだまだ人が少ない町中を、商品の入った木箱を抱えて男2人が足早に向かう。想像以上に大変なこの作業はやはりロットだけでは厳しく、人力車の完成を急ぐ。少し休憩しながら運び続け、入り口の横に木箱を置いた。もちろんアリアには言ってあるが、わざわざ起こすのも悪いので静かに作業を進める。


「おはよー、予定通りね」


 もう陳列が終わるという時に、アリアは家の中から顔を出した。

 寝起きだろうか。髪はいつもより無造作で、見てはいけない物を見てしまっているようだ。それでも目が離せないのは、そんなアリアが可愛いからだ。

 ふと頭に浮かんでしまった思いを振り払い返事をする。


「おはようアリア。今日からお世話になります」

「うん、楽しみね」


 売れるかどうかは正直なところ分からない。最初はお客さんが来ないかもしれない。でも、少しで良い。少しずつ美味しいと評判が広がっていけば必ず、結果が付いて来る。


 俺はローラがデザインし、ロイスさんが制作した前掛けを腰に巻き付けた。この前掛けが、俺たちを覚えるきっかけになってくれれば嬉しいと作ってもらったのだ。

 さぁ、始まる。俺達の第一歩だ!

 俺は、大きな声で呼びかける。


「いらっしゃい! いらっしゃい!」

Next:半分こ

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