宣戦布告
「今回、田んぼに何か変更が生じた人は居るかな?」
寄り合いが始まってからしばらく経った。正直暇だ。最初は勉強になるかもと思い真剣に聞いてはいたのだが、コポーションを作った今の俺はこの村とは別の組織となるため、あまり意味がない。しかし周りの人は真剣に村長マルゴスさんの話を聞き、時に意見を出している。これから俺も話をするのであまりに失礼な態度は避けたいが、ここは子供の特権を使って時間を過ごそう。
今回のメンバーには、マルゴスさんを中心に、ロットの父ロズベルトさん。リユンの父カウディさん。また、田植えの時に見たことがある、アキタさんやコシカさんにナナボシさん達も参加している。気になったのは、部屋の隅っこの方で、退屈そうに話を聞いてる男の子の存在だ。同年代くらいだろう。村では見た事がない子だった。あとで父に聞いてみよう。
30分程で恒例の寄り合いは終了した。タイミングを見て立ち上がり、マルゴスさんと他のみんなに向かって呼びかける。
「皆さん、少し時間をくれませんか?」
マルゴスさんが俺を見て「どうぞ」と手招きをして場所を変わってくれた。マルゴスさんに会釈をして前に出た途端、緊張が膨張して来るのを感じた。前の世界でもこんな大人たちを前に話した経験は無い。ましてや自分の意見を誰かに納得させるなんて出来る気がしない。でもやるしかないのは分かっている。ここでつまずいてしまっては意味がない! 気合を入れて早速本題に入った。
「ありがとうございます。手短に話します。今、協力してくれる方を探しています。俺たちはメンバーを募ってコポーションを立ち上げる事になりました。その中には魔法使いと白魔女さんも居ます」
言い切ると一気に会場がざわついた。余程珍しいのか、それとも俺みたいな子供に何故と言う気持ちがあるからなのか。みんな隣の人とこそこそ話している。
「ただ、目的を達成するには一年で実績を出す必要があるんです。でも今の畑の収穫量では到底達成できません。それで皆さんの収穫した野菜たちを買い取らせてほしいんです」
そう言うとさらに会場をざわつかせた。突然ロズベルトさんが立ちあがり、まっすぐ俺を見て大きな声を出す。
「アグリ、それはアレか? 俺に喧嘩を売っているつもりか?」
しばらくの沈黙が部屋の空気を凍らせる。でも、躊躇も動揺もせずはっきりと答えを出した。
「そうなります!」
真剣に面と向かって宣戦布告した。
ロズベルトさんからそう言われることは予想できていた。これまで村の野菜を売り、村を守り懸命に働いてきたロズベルトさんに俺は言ったのだ、その場所を奪うと……。それはロズベルトさんも怒るに決まっている。でも俺は後悔していない。次は、俺とロットとリユンとジュリがこの村のために働くんだ。俺達のやり方で、言わば世代交代!
目線でロズベルトさんとバチバチやっていると、マルゴスさんがいつものよれよれの声で言ってくる。
「まぁまぁ、2人とも落ち着いて」
マルゴスさんはさらに続けて言った。
「アグリ君、これは私の意見だが、応援したいとそう思うよ。いつかは私たちも引退する日が来るからね」
「なら!」
「でもね、ここのみんなは妻が居て子供がいる、孫だって。今では村を離れたが、野菜や米を送っている人も居て、守る責任だってある。分かるね?」
「はい……」
「だから私たちは今すぐに『はい、良いよ』とは言えないんだよ」
真剣に言われた。俺には今ここで「それでも大丈夫です」といえる自信も根拠もなかった。言い返せる言葉は無いのだ。つい頼るような気持ちで父の顔をチラッと見ると、想像とは違い、笑っていた。
「しかしみんな、アグリ君の努力には敬意を払う価値がある。アグリ君がお父さんと一緒に楽しく働いている姿は私たちもよく知っている。私たちの仕事を手伝いたいと思ってくれている事も嬉しい事だ。若い子がこうして動いてくれている事も感謝すべき事だとは思わないかね?」
マルゴさんがみんなに向かってそう言うとパチパチと拍手が沸き上がる。
「若い子を育てるのも私達の責任だ。それでアグリ君、君に宿題を出したい」
「宿題ですか?」
「そうだ。この1年間で私たちが納得できる結果を出してみてほしい。そうすれば、私たちの野菜を売ろう。どうかねみんな」
マルゴスさんが俺からみんなへと首を動かすと「頑張れよ」「気合入れろ」「相談は乗ってやるぞ」なんて言葉が飛んでくる。父をもう一度見てみると目が合い、コクリと頷き合図を送って来た。
「分かりました! やってみます!」
俺は深々と頭を下げて、時間を取ってくれたことに感謝した。
「またやる事が増えた気がする……」
「喧嘩を売ったのはアグリだろう」
「そうだけど……。というかお父さん、こうなるの分かってたでしょ」
「さー、どうだろうな」
お得意のはぶらかしを受けながら、帰る道に足を置く。すると後ろから声が聞こえた。
「アグリ君」
振り返ると、片手を上げながら近づいてくるリユンの父カウディさんと謎の少年だった。
俺たちの前まで来たカウディさんは謝ってくる。
「リユンが突然独立するって言ったのはそう言う事だったんだね、納得がいったよ。でももう少しリユンには修行をさせたくってね、少しだけ待ってくれるかい?」
リユンが俺たちのコポーションになれないのはそう言う事だったのかと理解した。リユンの独立するという言い方も少し誤解を生じかねないなとも思う。しかしカウディさんは反対している訳ではないようで安心した。いつかはリユンも入ってくれるだろう。
そんな中、カウディさんは部屋の隅に居た謎の少年を紹介してくれた。名前はコニー。カウディさんの親戚の子供だそうだ。
「両親が早くに亡くなってね。大工仕事は嫌らしくて、土地を貸して好きにやらせてる」
カウディさんがコニーに挨拶を催促すると「どうも」とだけ聞こえた。なんともクールな少年だ……。
「ただ困ったことに去年作った野菜が全く売れなくてね。もし良かったら見てもらえないかい?」
それは願っても無い申し出だった。すぐにその話を受け、今度その野菜を見に行く約束をした。今もあるって事は相当売れなかったんだろうな……。この辺では主流ではない物なのだろうか。少し楽しみになって来た。
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