作戦会議
冬休みが終わりに近づいてきた。雪は容赦なく降り続け、家を出るのも大変なくらいだった。この日ルツをジュリの家に預け、父と共にアリアの店に向かった。ルツをすぐにでも助けたい気持ちは山々だが、俺が出来る事には限界がある。そのため、力を借りられないか相談するのだ。地位が高い相手と予想された。ブロードさんの力も借りる事になるかもしれない。俺が積み上げてきた友情を使ってでも、必ずルツを救う。
「アリア、ありがとう。時間作ってもらって」
「大丈夫よ。ブロードは少し遅くなるみたい」
店に到着すると、アリアはわざわざ店を休みにしておいてくれた。アリアには本当に感謝してもしきれない。
ルツには事前に、学校の話をする事への了承を得た。父も最初は驚いていたが、ルツと2人の時間を取り、話を聞いたそうだ。俺が助けたいと話すと協力してくれることになった。
ルツ、君には味方がたくさんいる。村の人も、孤児院のみんなも、頼めばジンさん家族だって、力になってくれる。俺たちが付いてる。とはルツには言えないでいた。なぜならそう言う俺が、一番心強く感じているのだから。それにここからまた、新しい一歩になる事も明白だ。一筋縄では行かないかもしれない。ルツの事はもちろん、農業も、コポーションも。それを乗り越えたら、アリアに自信を持って!
「ごめん、遅くなった」
店を開けたのはブロードさんだ。1人かと思ったが後ろにもう1人。少し覗き込むと賢治さんだった。聞けば暇だったので来たのだとか。まぁ、魔法を理解する上で何か得られるかもしれない。味方なのは間違いないし、信頼も出来るので問題ないだろう。
メンバーが揃った所で本題に入り、みんなにルツの状況を話す。するとみんなそれぞれの反応を示した。
「ひどい……」
「いじめ……か」
「そんなことが。僕が気付いていれば。すまない」
みんなルツの状況を知り、唇を噛む。
俺はそんな重い空気を断ち切るように、話を切り出す。ルツを救うために俺が出来る事。コポーション申請を出し、実績を出す。これらが、ルツを救う事になる。
「でも、ルツを直接救うのは最低でも1年後。それも俺が失敗したらもっと伸びてしまう」
「その1年の期間をどうするかだね」
そうだ。冬休みが終わり、このまま学校に返してしまえば、ルツが勇気を出して伝えてくれた事が水の泡になってしまう。すぐにでも対策を行動に移す必要があるだった。
俺が考えたひとつの案。それは退学だ。物理的にルツに近づけなくする。幸い学校の出入りは限られている。一度退学にしてしまえば、学校と寮では接触出来ないだろうと考えた。
「おそらく無理ね」
アリアがたんたんと言った。俺を含め、みんなは説明を求めるように続きの言葉を待った。
「絶対不可能ではないけれど、国の法に触れる事以外での退学は認められていないわ。それだけ魔法使いは国によって守られているの」
それを聞いた時、いじめだって人を傷つけているのだから立派な犯罪だろうとも思った。しかしそんなに法が整っているともこれまでここで生きてみて感じない。じゃあ、どうする。どうすればいい。他の対処法があるのか。
「他の組や別の教室で授業を受ける事は出来ないのかな?」
父がアリアにそう尋ねる。
この案はどうだろう。現に、前の世界でそうして毎日勇気を出し、頑張って学校に通った子たちも居るだろう。有効な一手かもしれない。
アリアは、学生時代の事を思い出し答えを出した。
「おそらく可能です。ただ、必ずしも有効とは言えないかもしれません」
「というと?」
「そうやって学校に通う生徒は私の頃にも居たんです。でも基本的に授業はみんなと一緒に受けるので、ルツちゃんの場合、助けになるとは」
アリアは落ち込むように、机の何も無い所を見つめる。有効でない場合、実施したところでルツのストレスが増してしまうだけの可能性だってある。これを簡単に実行する事はしない方がいいかもしれない。
案が出てこなくなり、しばらく間があいた。空気を変えるため、アリアがお気に入りのお茶を持って来てくれて、少し落ち着けた。するとお茶をすすった賢治さんがボソッと呟く。
「アグリ君はルツ君にやられたのが誰なのか聞いているのかい?」
俺は賢治さんに向かって頷いた。
「聞いてます。4人とも」
「そうか。ならこう考えるのはどうかな?」
そう言って賢治さんは話をまとめてくれた。
まず1年間だけの限定的対策で問題ない事。いじめられない状況または出来ない状況を用意すればいい事。先生側の敵を探し、対策する事。それさえできれば1年は安心だ。
「それをどうするか、ですね……」
いじめの最初の対策はやはり先生とのいい関係を持つことだろう。嬉しい事に、アリアを通して知り合った信頼できるシャーロット先生も居る。そこはやはり父の出番だ。
「アリア、お父さんならシャーロット先生に会える?」
「会う前に話を通しておけば、可能よ」
「お父さん!」
父は「分かった!」と立ち上がった。
「シャーロット先生は校長先生だったな。話をしてみるよ」
そうしてやっとひとつの対策が上がった。これは実現可能で有効策だ。
よしっと手を握って次の案も考える。
「次は、いじめられる状況にしない事か」
すると父が気になっていたことをアリアに尋ねる。
「ルツがすべての始まりと言った事故。あれは簡単に起こり得る事なのかい? 第三者が関係していると見て間違いはないのかい?」
「それで間違いないと考えます」
アリアが断言する。それにその事故を起こした人も見当が付いているようだ。
「今学校に居る唯一の白魔女かと」
「白魔女。人の魔力も操れるっていう」
「その人が意図的にルツちゃんの魔法を操り、事故に見せかけた……」
「その通り」
俺は強大な敵にゴクリと唾を飲む。
これは大きな問題だ。強大な力を持つ白魔女が手を貸している事実。どうやっても変えられない。学校の白魔女に対して何かしら行動を起こす必要があるだろう。
アリアが言うには、シャーロット先生と同等の立場を確保しているそうだ。父がシャーロット先生に話を付けても、完全には取り除けない可能性がある。すると賢治さんがアリアに白魔女について尋ねた。ただ、アリアでも魔力を操る事が出来る理由は分からないらしい。魔力を持つ者は本能で自分の魔力、他人の魔力を含め、魔石などの魔力が分かると言うが、白魔女にはそれを感じないと言う。そのため、魔法使いは白魔女に勝つことは不可能と言われているみたいだ。
「なるほど」
ぼそっと呟いた賢治さん、打つ手なしといった感じに、おでこに指を当てた。
皆が下を向き、新たな案が無くなった頃「そういえば」とブロードさんが天井を見上げながら口を開いた。
「学校、臨時魔法使い教員を募集していたな」
何かの糸口になりそうな話、例えば潜入作戦。でもアリアが学校の教員になるのはお店の事を考えると、一時的であっても現実的ではない。さらに、募集が終わらない原因としてブロードさんが言ったのは、給料の安さだと言う。そんな中、協力してくれる魔法使いなんて……、いや。
「シャウラさん」
たまたま頭に浮かんだあの人。俺の命の恩人だ。あの人なら。
「無理ね、シャウラは絶対受けない」
「話だけでも」
そう言っていると、ブロードさんが潜入作戦のデメリットを言ってくれた。先ほども言ったように魔法使いは白魔女に勝てない事だ。しかし俺が思っている潜入作戦は面と向かって戦う訳ではない。
「あくまで、学校にルツの味方が居ると言う事実が欲しいんです。それだけでも心強いと思うので」
俺はその事を前提に、シャウラさんに話してみる事で話が固まった。
その日まとまった対策。父がシャーロット先生にのもとへ行き、話す事。シャウラさんに可能なら学校に潜入をしてもらう事だ。
そしてさらに、俺は個人的にブロードさんとアリアにお願い事をした。2人にだけ聞こえるように耳元で話す。
「ブロードさん。ペンナ、ホシャト、ロン、エミヤを調べる事は出来ますか?」
「その4人なんだね?」
「はい」
「任せて、可能な限り親にも圧力をかけておくよ」
「ありがとうございます」
この4人、ルツをいじめている奴らだ。親の立場が上であれば上であるほど調べが付きやすいだろう。こちらには国王の孫が居る。絶対に逃がさない。
それからアリアには学校が休みの日、出来るだけルツと会うようにしてほしいとお願いをした。手紙だけではまた消される可能性がある。ルツにも外出届を提出し、会いに行くよう言っておくとしよう。
これから俺たちがどうなるのか、俺にも分からない。ただやる事は決まっている。ルツの事はみんなに頼る事になってしまったが、俺が必ずルツの居場所を作る。俺にとって、また新しい一歩となるだろう。この先どんな将来を作って行けるのか。この世界で俺は何がどこまで出来るのか。不安と期待で胸が高まる。
ルツ、信じて待っていてくれ。
アリア、ブロードさん、賢治さんにお礼を伝え家路に着いた。
Next:大丈夫!!!
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