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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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白魔女

「あ、あの。結婚って、何歳にったらする物なんですか?」

「どうしたんだい? 急に……」


 役所を出て店に向かう道中、そんな事をブロードさんに聞いてみた。何故かと言われると困ってしまうが、前から気になっていたのもあるし、さっきの事も……。多少不自然になってしまったが、ブロードさんならと。

 この国には、結婚して良しとされている歳も決められているのだろうか。ブロードさんは一瞬、不思議な顔を向けたが頬を上げてから答えてくれた。


「どうだろうな、十代で結婚する人も居るし、二十代三十代もたくさん居るよ。親に相手を決められる人も居るかな。僕なんかはそうなると思うけど……」

「そうなんですね」

「大丈夫?」


 役所でのコポーションの説明や、朝の2人の会話で頭がいっぱいになっていた。もう混乱してしまいそうだ。心配そうに見つめるブロードさんに悪かったので「大丈夫です」と答え、別の話に切り替えながら目的地に向かった。


「おかえり、2人とも」

「ただいま」


 店に到着して中に入ると、変わらない笑顔が俺たちを迎えた。無意識の内に顔を下に向けてしまっていたのか、アリアからも「何かあった?」と聞かれてしまった。昔はごまかす事が得意だったのにな……。


「難しい話で疲れちゃったのかも」


 そう答えると、アリアは「休んでって」とお茶とお菓子を持って来てくれた。


「ありがとう……」


 出してくれたお菓子を一口食べる。ゆっくりアリアを見ると、ブロードさんと話している。耳に入ってくるのは役所でフィンと話した内容だ。そんな2人を横目に、俺の頭はぐるぐると回っていた。


 俺はこれからどうしたら良いのか、分からない。今アリアに気持ちを伝えたら、アリアはいったいどんな反応をするだろう。どんな顔でそんな事を言えるのか。ブロードさんと結婚してしまうのだろうか、もしそうなったら俺は素直に応援できるだろうか。アリアへの気持ちは本物だ。これは変わる事のない事実。しかし、アリアの気持ちはどうなのだろう。考えたって答えが出ないのは分かっていて、それでもその追及は止められなかった。

 それにコポーションの件もある。妹を救うには条件が厳しすぎるように感じた。魔法使いを2人も雇うなんて、この俺が可能なのか。農業しかやってこなかった俺に、経営なんて出来るのか。リスクや能力を考えれば、どこか他の魔法使いが居るコポーションに話しを付けて雇ってもらい、そこで妹も見てもらう事も選択肢としてはありなのではないか。俺がしなくても……、俺じゃなくても良いんじゃないのか? 誰かの力を借りて……。経験のある経営者が居れば、ルツの安心感も増すだろう。俺は村でひっそりと農業をしていけば、いつかは美味しい米も作れるだろうし、誰かがバーハルの対策も構築していくかもしれない。陰からルツやアリアを応援してれば、それで良いのかもしれない。


「アグリ、アーグーリ!」

「なっ! なに!?」


 しばらくの間、考え込んでしまった。昔の僕のように。負の思考連鎖……。


「どうするの? コポーションの件」


 口をとがらせているアリアに聞かれ、また頭の中で考えこんでしまう。俺はどうすればいいのか。

 アリアは椅子に座る俺の肩に手を置いて、笑いかける。その言葉は忘れていた事を思い出させてくれた。


「ルツちゃん、お兄ちゃんに助けを求めたんでしょ? お兄ちゃんなら必ずやってのけると思ったから!」


 そうだ、そうだった。ルツは俺に言ったんだ。俺にコポーションを勧めてきたんだ。動機なんて今はそれだけでいい!


「アリア、ひとつ聞きたいんだ」


 俺は口を堅く食いしばる。アリアに今映っている俺は気持ちが固まった事を示せているだろうか。


「白魔女ってなに?」


 魔法使いのアリアなら知っているだろう。ルツを助けるには白魔女を知らなければ。尋ねられたアリアは、聞かれる事を分かっていたかのように話し始めた。


「白魔女。魔力を持たない魔法使いの事よ。持たないだけで操る事は可能よ。でも大昔、白魔女狩りが流行った言い伝えがある。それで今ではほとんど存在を公にしない。訓練学校でさえ1人居るだけよ」

「ルツを助けるにはその白魔女さんの力を借りないといけないらしい。どうやったら白魔女って事が分かる?」


 するとアリアは2つの見分け方を教えてくれた。ひとつは女性の魔法使いである事。白魔女は魔女と言うだけあって、必ず女性だそうだ。さらに2つ目に、紋章が白色である事だそうだ。


「居る……」


 俺は自分の耳にだけ聞こえるくらいの声で言った。


「えっ?」

「俺、知ってるよ。その人」


 俺は知っている。比較的身近に。あの人は白魔女だったんだ。交渉の余地はありそうだ。でもその前に、もう1人。


「アリア!」


 俺はまっすぐアリアを見て頭を下げる。頼れるのはやっぱりこの人しかいない。


「俺の作るコポーションに入ってください!」


 しばらく間があった。しかし、沈黙の間ではない。この部屋の隅から微かに聞こえす笑い声、アリアの物ではないことは確かだ。それはブロードさんの押し殺した声だった。

 それでもここで頭を上げる事は出来ない。ここで断られれば計画は進まないからだ。なんとかアリアに、アリアには!

 それから長いような時間が過ぎた。俺だけが長く感じたのかもしれない。すると聞きたくて、でも聞きたくないようにも思える、アリアのいつもの優しい声が聞こえてきた。それはお願いの答えではあったものの、予想をはるか上を行く言葉だった。


「何よ今更。アグリの野菜を店に置くって時から決めてたわよ、そんなの」

「てことは……」

「良いわよ。ただし……」

「ただし?」


 俺は喉を鳴らす。条件が来る。


「私と一緒に、幸せになる事!」




 ――――――――――




 あの日から時は流れ。みんなを招待した日がやって来た。

 ただ、この集まりは、当初の目的とは違った目的を持っていた。それは集まった人を見ても分かる。呼んだ人以外にも来ているのだ。なぜなら……。


『アグリ! アリアちゃん! 婚約おめでとーーー!』


 と言う事だ。俺たちは婚約した。俺も混乱しそうなくらい急展開だ。まぁ、アリアが出した条件だから、受けない訳にはいかないよな? と言う事は絶対にしないが。これでルツを救う事の第一歩にもなる、だろう。でも今の俺では、自信をもって了承する事が出来なかったのも事実だ。それであの日、アリアにひとつお願いをした。


「正式な結婚の申し込みは俺からしたい」


 アリアは俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、笑顔で「待ってる」と言った。

 それがいつになるのか、俺にも分からない。正直なところ不安でしかない。でもアリアはさらにこうも言ってくれた。


「私が好きになったアグリなんだから、きっと大丈夫。私はそう信じてる」


 アリアは少し顔を赤らめ、でもまっすぐに俺の目を見て言っていたのを映像として覚えている。その目にはどんな俺が映っているのだろう。アリアが信じてくれた俺を、俺が信じないでどうする。「ありがとう、アリア。俺も大好き」と声を絞り出したのは今考えても恥ずかしくなってしまう。


 後から聞いた話。実はアリアのお父さんはブロードさんの側近なんだとか。アリアが彼氏の1人も作らないため心配になり、ブロードさんはどうとかしつこく聞いてくるそうだ。あの日も、その話を店でしていたみたいだ。ちなみにブロードさんは一度断られているのにお父さんから何度も言われるので、あの時も一緒に喜んでくれていた事を覚えている。あの笑いはそれだった。


 でもこれで、思い悩んでいた事に決心が付いた。進むべき道が、ランプに照らされてはっきり見えた。コポーション申請を出し、魔法使いを雇って、畑も増やす。1年間で実績を出し、妹を救う。さらに美味い米を作り、バーハルに耐え得る世界を作る。これが俺の進むべき道だ。


「アグリー! 早く来いよ!」

「分かってるってー!」


 ロットたちに呼ばれた。外は雪がしんしんと降り、雲があっても綺麗な星が輝いていることが分かる。そんな中この部屋はいつもより暖かく感じる。それは暖炉があるからなのか、みんなの熱気か。

Next:楽しい一夜

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[良い点] こここ、婚約ーー!? 突然のことでびっくり! アグリ、おめでとーーー!
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