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腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

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続くさ、きっと

「よしっ! 完成」


 俺の目の前にあるのは、立派な木製のソリだ。40センチ程に積もった雪の上に堂々と置かれている。いかにもサンタがプレゼントを乗せ、真っ赤なお鼻のトナカイさんがそれを引いていそうなソリだ。俺が思い描いていた物と大差ない上々の出来だった。


「お兄ちゃん、これがソリ?」

「あぁ、すごいだろう。2人乗れるぞ」

「リユン君に手伝ってもらったくせに」


 胸を張る俺に冷たい目を向けるルツは、ソリの周りをぐるぐると見て回る。「初めて見た」と興味深々だ。


「試しに乗ってみるか? 引いてやるよ」

「良いの!?」


 嬉しそうにルツはソリに乗り込み、前の席に腰掛けた。


 ソリに取り付けたロープを体に巻き付け、体重を掛けながら一歩踏み出す。ゴボゴボと雪が押しつぶされながら、ソリは進み始めた。

 人が乗る場所や、ブレーキ装置は俺が作ったが、雪と接するスキー板のような部分、ここは俺では加工が出来ないのでリユンにお願いした。それをしっかり取り付けて完成したソリ。記念すべき1人目が歓声を上げている。楽しそうだ。その姿を見るだけで作った甲斐があった。


「どうだルツ、乗り心地は」

「楽しい! 雪の音が好き!」


 甲高い声で笑うルツは、とっても幸せそうだ。ときおり後ろを振り返り、ソリの滑った跡を見て面白がっている。


「これで雪の坂道を下るともっと楽しいぞ」

「やりたい!」

「今度みんなが来たらね」


 しぶしぶ了承した声が後ろから聞こえてくる。仕方ないなともう一周回ってやる事にした。




 「はぁ、はぁ、はぁ」と息が上がる。その息は白く、トナカイの気分が十分に味わえた。雪は新雪で、その上を歩くのは簡単ではなかった。すぐに疲労が足に溜まる。


「ルツ、そろそろ限界……」

「やだ、もう一周!」

「勘弁してくれー」


 俺はロープを体から外して新雪の上に倒れこむ。すると真似したルツが俺の隣にバフっと飛んでくる。目の前が一瞬真っ白になった。何が可笑しいのか俺も良く分からないが、2人して大笑いした。


「こんな生活ずっと続けばいいのに……」

「続くさ、きっと。俺もそう願っているから」

「うん……」


 少し落ち着き、辺りがシーンと静かになるのが分かる。その中に自分の呼吸とルツの呼吸が、次第に速度を落としたのが分かった。


「ルツ。俺はどんな時どんな状況、どんな気持でも変わらないものがあるんだ」

「変わらないもの?」

「お父さんとルツにはずっと幸せでいてもらいたい。だから、いつでも頼ってくれていいから。肩くらい貸すよ」

「――うん。――ありがとう」


 ルツが今、何を考えているのかは分からない。それでもルツが話したい事を我慢するような事はしないでほしいと願った。その後、俺たちは体が冷え切ってしまわない内に、家に戻る。

 汗なのか雪なのかは分からないが、濡れてしまった服を脱ぎ捨てて、足早に暖炉の前に向かう。少し体が温まってきたと感じるや否や、指先が痒くなってきた。隣を見ると、ホットミルクを置きルツも指先を擦っていた。


「あんまり掻くなよ」

「で、でもー!」


 そんな妹を見て昔が懐かしくなり笑ってしまった。

 十分に温まると当然のように睡魔が襲って来る。ただ、こんな所で寝るわけにはいかないと戦う。するとルツは俺も肩に頭を乗せ、俺にだけ聞こえるように声を出した。


「仕事は順調?」

「そうだな。順調かな」


 俺がそう答えるとルツは目線を下げ、考えるような表情をした。「どうした?」と聞くとルツは微かな声で言った。


「お兄ちゃんがコポーションを作ってくれたら良いのに……」

「コポーション? なんだそれ?」


 初めて聞いた単語だった。何を意味するものなのか、ルツはこの日教えてはくれなかった。ルツがコポーションなるものを望んでいる。何のために……。でももしそれがルツを救う助けになるなら、勉強しておいて損はないだろう。



 次の日、早速俺は町に出てコポーションのついて調べる事にした。冬は比較的時間があり、すぐに動けるのでとても助かる。

 アリアの店に顔を出そうと向かう途中で、ブロードさんを見かけた。仕事中だろうか、護衛が近くに居ておじさんと熱心に話している。ブロードさんのこんな姿は初めて見た。

 しばらく見ていると、ブロードさんは俺に気付き手を振った。


「久しぶりだね。元気だったかい?」

「はい、おかげさまで」

「少し話そうか。時間、あるかい?」


 ブロードさんは周りの護衛たちに話をしてから、約束の店に1人でやって来た。「困った困った」と頭をかいている。


「母が心配症でね。何かと護衛を付けたがるんだ」


 心配するのも無理はないと心から思った。ブロードさんはかなりマイペースで自由な人だろう。

 その後、ブロードさんの奢りでお茶を飲みながら少しの間、話しを聞いてくれた。母が亡くなってからの事も気にかけてくれ、力になるとも言ってくれて心強い。ブロードさんは国の事に詳しいだろうし、とても助かる。つくづく俺はたくさんの人に支えてもらい、甘えさせてもらっている事を実感した。

 ついでと言ってはあれだが、アリアに聞くつもりでいた事をブロードさんでも知っているかもしれないと、例の事を聞いてみた。


「ブロードさん、昨日妹が言ってたことなんですが。コポーションって知ってますか?」


 ブロードさんは意外そうな顔をしてから言った。


「あぁ、知っているよ。ルツちゃんが言っていたの?」


 そこで俺は昨日の会話を伝えた。するとブロードさんは「なるほどね」と顎に指を置き呟く。


「コポーション。つまり、同じ仕事をする組織みたいな物だね」

「組織……ですか?」

「あぁ。簡単に言うと、雇い主が雇われた人にお金を払って仕事をしてもらう事を組織的に行う。これがコポレーションって言われるものだ」


 俺は、ブロードさんの説明を頭の中で考える。会社のような物だろうか。ルツがそれを作れと言ったのは、俺がこの世界で起業しろと言いたかったということだろうか。ただ、コポーションを俺が立ち上げる事で、ルツに何のメリットがあるのか。まだ、情報が足りなかった。


「詳しく聞きたいかい?」


 ブロードさんは眉を上げて、聞いて来る。俺は身を乗り上げて答えた。


「はい!」


 コポーションがどのようなもので、どんなメリットやデメリットがあり、それが俺の目指す事にどんな影響をもたらし、そしてどのようにルツを救えるのか。これは知る必要がありそうだった。


「じゃあ、後日役所に行こう」

「今日じゃないんですか?」

「今の時期は休みなんだ。みんな故郷に帰るからね」


 年末の休みや正月休みのようなものだろう。何はともあれ伝手は出来た。俺たちは予定を決めて、役所の前で待ち合わせる事になった。

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