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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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完成

 孤児院には釘の打たれる音が、休む間もなく響いている。それと共に唸る声も響いていた。


「んー、これ。杭打つ前に板を付けた方が良かったのか?」


 どっちが正解なのか専門分野以外の事だから分からないが、板を杭に付ける時、杭が揺れて、釘を打ち込むのが至難の業だった。しかしもう後戻りは出来ないため、何とか足で抑えながら板を取り付けて行った。多少釘が斜めに入ってしまっても目をつぶる事にした。




「お疲れ様です、アグリさん」


 柵に苦戦しながらも、思っていた通りに完成させる。強度の最終確認をするため、寄りかかったり揺らしてみたりしていた。すると飲み物を持ったダリアさんが、作業着を土だらけにしながら持って来てくれた。


「ありがとうございます。ダリアさんも疲れてないですか?」


 持っていた飲み物を置いたダリアさんは、腰をトントン叩きながら言った。


「正直腰にきてます」

「無理しないでくださいね、放置すると残りますから……」


 俺も経験がある。高校生の時、お米への追肥の作業中に、腰にダメージを追ってから、死ぬまで腰痛と付き合う羽目になったのだ。一緒に働く仲間として体のケアも大切にしていきたい。


「ありがとうございます」


 持って来てくれた水分を、一気に喉に流し込み潤した。「あぁ」といかにも働き盛りの人のような声が漏れてしまう。


「アグリさん、リラヤとロイヤンも手伝いたいみたいで……。やらせてあげても良いですか?」

「もちろんです。ただ怪我には十分気を付けてください」

「分かりました!」


 それから俺たちは、少しの休憩を挟んで作業に戻った。完成した柵の確認が終わる。良く見ると所々斜めになってる気がするが、まぁ問題ないだろう。


「感謝しなさいよー、手伝ってあげるんだから」

「はいはい、助かるよ」

「おこずかいちゃんとちょうだいね?」

「それが本音だろ」


 リラヤの本音が聞けた所で、一生懸命に働いてくれている、ロイヤンに近づく。


「ロイヤン君もありがとう、手伝ってくれて。すごく助かるよ」

「い、いえ……」


 ロイヤンはリラヤと同い年の男の子。人見知りなのか、人間関係が苦手なのか。みんなに混ざって遊ぶことは少ないみたいだ。そんなロイヤンが挑戦したいと言ってきてくれたのだ。本当にありがたい。


「農業に興味あったの?」


 そう聞くと、下を向いて考え込む。しばらくの間沈黙が流れ、小さい返事が来た。


「えっと……。そうじゃない……ですけど。物作りがしてみたくて」

「そっか、嬉しいよ」


 2人にお礼を言って、俺は畑の作業を再開した。川はダリアさんと2人が作ってくれているため、その間畔を作る事にした。畔を作り水が通る川を作れば畑は完成。もう一息だ!


 畔。畑の周りを土を積んで山にした物だ。雨の侵入を防いだり、畔道を歩いて移動出来たり出来る。作っておいて損はない。俺はダリアさんが川を作るときに出た土を畔にするため、スコップを使って土を上げていった。


「これも終わらすの?」

「そう、大事な畔だ」

「大変そう……」

「まぁまぁ、そう言わず。みんなですれば早いって」


 作業量の多さと、体力のいる仕事に、2人の士気が下がりかけていた。声を掛けながら元気付けて、畑作り最終段階へと駒を進めていった。



 日は傾き、次第に辺りは薄暗くなった頃。季節外れの汗を拭いながら歓声が響く。


「終わったー!」


 みんなその場で座り込み、出来たての畑を眺める。みんな清々しい達成感を覚えていた。


「これで完成だよね?」

「あぁ。来年はここにたくさんの緑が広がるよ」


 リラヤは人一倍嬉しそうで、希望に満ち溢れた笑顔を見せてくれた。


「ロイヤンもありがとう、助かったよ」

「楽しかったです」

「良かった」


 程よい疲労感と満足感を心に抱きながら、使った道具を片付けて院に戻ろうと一歩踏み出した。その時、リラヤは右手を俺の前に出して来た。


「なんだ?」

「おこずかい!」

「仕方ないな……」


 そう言うとリラヤは「やったー」と飛び跳ねた。まぁ、たまにはこんな光景を見るのも悪くない、そう感じる一日だった。


 その後みんなでご飯を食べ、男の子たちと一緒に体を洗って部屋に戻る。するとサラが一目散に俺の元に飛んできた。腕にしがみ付いて来て、すぐには離してはくれそうにない様子だ。


「サラ? どうしたんだ?」

「明日、帰っちゃうって聞いたから」


 今日の時点で予定していた作業が終わり、ルツを迎えに行くため、孤児院は明日にも出る事になっている。もちろん、冬の間、顔を出すつもりではいるが、子供達にはそんな事は関係ないのだろう。


「そうなんだ、妹を迎えに行くから。でもすぐに来るよ」

「明後日?」

「いやそれは……。ちょっと無理かな」

「じゃあ、行かないで!」


 さらにとてつもない力で抱きしめられていると、後ろからメリスさんがやって来てなだめてくれる。はずだったが、条件があったらしく……。俺が借りていた寝室に入った時、その条件が分かった。


「お、俺の寝るところないじゃん……」


 その夜、俺は唯一開けておいてくれたベッドの片隅で眠る事になり、朝腰が伸びなかったのはいい思い出になった。

Next:分からない

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