冬の楽しみ
「よしっ! 完成!」
腰に手を置きながら、自信満々に小屋を見渡した。1日をすべて使って作ったこの小屋専用の雪囲いだ。
「アグリお兄ちゃーん!」
「おっ、ローラちゃん」
作りたての雪囲いの前に、大きく手を振りながらやってきたのはローラだ。相変わらず今日もおしゃれな服を身に纏っていた。
「ローラちゃん、今日の服も良く似合ってるね」
「当たり前。お気に入りの服なんだから」
えっへんっと言いそうなくらい胸を張っていた。スカートを軽くつまんで持ち上げ、裾をひらひらとさせていた気がするが、この時ローラがどんな顔をしていたのか見る事も無く作業に戻った。
「ちょっと!」
「ごめんごめん」
ローラの機嫌を直すように、その後しばらく話を聞き、わがままを聞くことになった。
「これ、作ったの?」
「そうだよ。雪が積もった時に出入りが楽になるからね」
小屋の出入り口には、太い柱に支えられた屋根がある。小屋の屋根に積もった雪がこの屋根に落ちると流れが変わって、横に落ちていく。ただ、横に積もりすぎても困るので、雪囲いのサイドには短い板を付けた。これで落ちた雪が積もっても耐えられるだろう。
「雪降ったら一緒に遊ぼ!」
「うん、そうしよう」
冬になれば農業は少し休憩期間に入る。しかし、あまりに動かないと体が鈍って、春に痛い目を見る事になる。そのためには、冬の間も体を動かしておく必要がある。
「ローラちゃんは冬に何して遊ぶの?」
そう聞くと、ローラは去年を思い出すようには首を傾けた。
「一番好きなのはね、魔石で雪に色を付けてお絵描きしたり、お城作ったり!」
「色を付けられるの?」
「そう! 専用の魔石が売られるの!」
「初めて聞いたよ。冬が楽しみだ!」
雪囲いの残骸を片付けていると、ローラでも出来そうな冬の遊びを思いついた。
「ソリって知ってる?」
「ソリ? 何それ……」
前の世界では、畑に1人でソリ場を作って遊んでいた。苦い思い出だが、今ならみんなが楽しんでくれそうだ。これだけ木の余りがあれば作れるだろう。
「雪の上を滑る遊びだよ」
「楽しそう!」
「よし、じゃあ冬までに用意しておくよ!」
「やったー」
ローラと冬遊ぶ約束をした後、お喋りしながら家に送った。到着するとロイスさんに出迎えられ、お礼を言われ、ご飯に誘われた。
「父に何も言って出てこなかったので、今日は止めておきます」
「そうか、残念だったなローラ」
ちらっとローラに目線を送るロイスさん。ニヤニヤしているロイスさんとは裏腹にローラはお母さんの背中に隠れてしまった。
くつくつと笑うロイスさんはローラを見ると何か合図を送っているように見えた。何をしているのだろうか……。すると、何かを決意したように口を固く結んだローラは、一度部屋に入ってからすぐに戻ってきた。何やら胸の前で袋を抱えながら。
「アグリお兄ちゃん」
少し恥ずかしそうに俺を見上げるローラ。
「どうしたの?」
「これ、あげる」
抱えていた袋を差し出したローラは、俺の顔を見てはいなかったが、どんな顔をしているかは簡単に想像できる。それで、膝を付いてローラが差し出してくれた袋を受け取る。
「開けて良い?」
「家で開けて!」
恥ずかしがるローラに少し意地悪な顔を向けながら、袋を開けた。すると中から手袋が出てきた。水色の毛糸で編まれた物だ。
「手袋! 嬉しい!」
「アグリお兄ちゃんの手、いつも冷たそうだったから」
顔を赤らめながら言うローラ。良く見ているなと感心する。
「ローラちゃんが作ったの?」
「ほとんどお母さん」
自信なさげに言ったローラはお母さんの方を向いた。
「そんな事ないわ、上手に編めていたわよ」
「そうなんだ、すごいじゃんローラちゃん、大事にする!」
その言葉にローラは嬉しそうに笑顔で頷いた。
精一杯のありがとうを伝えて、ロイスさん宅を後にした。
ローラが言うように、俺はこの秋まだ手袋を付けていなかった。持っていない訳ではない。部屋にしまってあるのだ、母の形見として。
俺の周りでやっておくべき事が終わった。後は孤児院付近の仕事だけだ。これで俺たち家族も、友達も、この村のみんなも今年の冬は安泰だ。ジュリも、ミルさんも最近は国の制度も活用し、且つ毎月支払っている土地使用料と俺が作る野菜で生活出来ているみたいで安心だ。
次は春の事を考えて行かなくては。優先順位は、小屋の改装とロットの馬車の改造だろう。小屋は在庫を置くために広くして、収納も多くしたい。馬車は欲を言えばクール便にしたいが難しいだろうか。いろいろと案を出していきたい。冬の間の宿題にするとしよう。
「それにバーハル」
静かに呟いた。
バーハルは何度か続いて起こると聞く。何が起こってもみんなで乗り越えられるように、対策を整えて行かなくてはならない。俺に何が出来るのかは分からないが、やれることはやっておこう。
「もう、後悔したくない」
そんな決意を胸で包み家に入った。
「ただいま!」
「おかえりアグリ、ルツが帰ってくる日が決まったぞ」
「本当に!? いついつ!」
ルツが帰ってくる! やっと会える!
アリアが言った通り、話を聞いてたくさん喋ってルツの気持ちを知りたい。もう少しだルツ。必ずお兄ちゃんが!
すぐに自分の部屋に入り、忘れないようにルツと話したいことをノートに書いて準備を開始した。
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