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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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完成

 「はぁはぁはぁ」と俺の息がなかなか整わない。自分で自分を落ち着かせるように、胸に手を置きながら意識して呼吸をした。


「だ、大丈夫?」


 無事に店に到着すると、中からすぐにアリアが出てきた。俺の姿を見たアリアはロットにお叱りの言葉を述べていたが、ロットは反省のはの字もない様子だった。


「アリア、店見る前に体洗わせて……」


 さっきまで仕事をしていて汗も気になっていた上に、馬のダッシュもあり体は砂埃だらけで気持ちが悪い。


「分かったわ、着替え置いとくから」


 親切にも快諾してくれたアリアに「ありがとう」と伝え、慣れた足取りで部屋に向かい、身を洗った。




「お待たせしました」


 外に居た4人と合流する。するとジュリは少し呆れたように言う。


「何でアリアちゃんの家にアグリの服があるの……?」

「少し前、御世話になりまして……」


 そうは言ったものの、みんなは信じてくれる事なく、面白半分で疑いの目を向けられ続けたのだった。


「さて! みんな帰る時間もあるし、早速見てみてよ」


 いつもより元気が良いリユンは、早く見てほしい様子でうずうずしている。


「紹介を頼んだ!」


 リユンはまず外観から紹介してくれた。リユンによると外観の大きな変化は無いが、修復や、痛んでいた箇所の修理をメインにおこなったようだ。また看板も新しくなっている。デザインはマリーさんが行ったようで、やっぱりアリアが好きなのか、アリアの名前と魔石のイラストが描かれてあった。ただ、前と違っているのは色とりどりの野菜のイラストが虹のように並べられていた。


「可愛い看板ね」

「うん、分かりやすいし良い看板!」


 そんなことを喋っていると、リユンがこだわったポイントを教えてくれた。大きく手を広げて、楽しそうに語る。


「実は大きく変わった所もあるんだよ、分かるかな?」


 ぐるりと一周回ってみて確かに違和感はあったが、何処かと言われたら迷ってしまう。何か、広くなったような、すっきりとした感じがするが。

 迷っているとジュリがヒントをくれる。


「中が良く見えるわよね」


 ジュリがそう言って壁を見ると思い出した。そうだ、すっきりした感じが出たのはここが出来たからだと。


「中が見えるようにくり抜いた所が増えたのか!」

「その通り!」


 リユンは嬉しそうに答えた。


「これで少し暗めだった店の中も明るく、そして新規のお客さんも入りやすいようにしたんだ」

「なるほどね。アリアのお店少し怪しい雰囲気あったもんね」

「なによ、失礼ね。魔女っぽくていいじゃない」


 アリアは少しふてくされた様子で、プイッとそっぽを向いた。それをフォローするようにジュリが口を開く。


「アリアちゃんは、魔女って感じじゃなくて、元気で明るい魔法使いってイメージだからこっちの方がアリアちゃんのお店って感じがするね」

「そう? それならいっか」


 そんなこんなで外観を見終わって、玄関から中に入る時、ふと気なった所を発見した。


「リユン、ここって何か置く所なの?」


 それは、玄関の右側にいろいろ並べられる事の出来るような棚があったのだ。すると、リユンは嬉しそうに答えてくれた。


「やっぱりアグリは気付いてくれると思ってたよ」


 リユンは俺を試していたみたいだ。という事は、ここは俺のための場所だろうか。リユンの追加の説明を待っていると、棚の前に立った。


「実はここ、賢治さんが提案してくれて、アリアちゃんも賛成して作ったんだ」

「賢治さんが?」

「そう、もともと魔石店だった所に野菜を買いに来るって、ちゃんと認知されるまで難しいだろうって事で、最初はここに並べると良いかもしれないって」


 なるほど。朝市みたいに軒先で店を出す感じか。それだったら通っただけで野菜が目についてくれるだろう。


「でも中でも売るんでしょ? 雨の日とか、冬とかは」


 そう聞くと、人差し指を立ててニヤリと笑った。


「そうだけど、多少の雨ならこれで!」


 そう言いながらリユンが手を伸ばすと、屋根から何やら傘のような厚手の生地が伸びてきた。


「おぉ! これは!!!」

「雨を防いでくれる屋根が出てくるようになってるよ」

「これはありがたい!」


 この世界でも朝市が開けるとテンションが上がる。


「もしここを使わなくなったとしても、アグリならアレに使ってくれるって賢治さん言ってたんだけど……?」


 ここをアレに? なんだろうか……。


「アグリならどう使う?」


 額に手を置き。思案しながら棚をよく見ると、棚は固定されていなかった。向きを変えればロッカーのようになり、また向きを変えれば木箱のように使えたり出来る。もしかして……。


「緑のカーテン!?」

「正解! 賢治さんがここで野菜が採れるようになるかもって言ってた。緑のカーテンが何なのかは知らないけどね」


 木箱をプランターのように使えば、蔓を伸ばす野菜が作れる。リユンは頭をかきながら笑っていた。


「すごいなリユンは……」


 つい口に出てしまった言葉を聞いたみんなは、俺が見るからにテンション高い事を知り笑っている。


「じゃあ、改めて中だね」


 リユンに付いて行き、綺麗になった店内を見せてもらった。


 床から壁、天井までも綺麗になっている。木の模様を生かしたデザインになっていた。言葉にするならモダンで温かい感じだろうか。奥のアリアの作業場は以前より、お客さんから良く見えるようになっていて、安心して作業を頼めるそうだ。お店の中心となる魔石を並べる場所は、前の世界でケーキが並んでいたようなショーケースになっていて、お目当ての物が見つけやすいようになっていた。


「どうかな?」

「すごい! 商品も見やすくなったし、明るい雰囲気になってるね」


 それから、店内の野菜コーナーに移った。

 良く見ると、他の棚や箱とは少し違ったデザインになっていて、目を引く。


「これ、少し違うね?」


 するとリユンは箱をひっくり返して見せてくれる。そこには、何かを入れるためだろうか、空洞があった。


「これはジュリとアリアちゃんがい言ってくれたんだ。ここに冷やせる物を入れる事で鮮度を保つって予定なんだけど」

「けど?」


 アリアは残念そうに補足してくれた。


「実は、魔石から冷気を出すって出来ないのよ、私には……」

「そうらしいからまだ考え中なんだ」


 そうなのか。魔法も万能ではなく、まだまだ研究が必要みたいだ。

 しかし、これで十分、お店が開ける。みんなのお陰で準備が整った! 後は商品を用意するだけだ!



 しばらくの間、みんなでお店の将来について会話が弾み楽しい時間を過ごす。みんな子供の頃に話した目標へ歩みを進めていて、希望に満ちた顔で笑った。その目にはきっとそれぞれの幸せが映っているのだろう。

 馬車に乗り込み帰る準備をしていると、なにやらアリアとリユンが2人で話し込んでいる。それを見ていると、急にアリアが俺の方を睨んだ。


「アグリー!!!」

「え!? なになになに?」


 見た事も無い顔で近づいてくるアリアの後ろで、リユンは「ごめん」と片目を瞑り謝っている。その瞬間、何の会話だったのか、見当が付いた。


「ロット! 早く出して!」

「え? リユンがまだだろ」


 そうだった、でも早くこの場を去らないと。急いで馬車から降りて逃げようと走ったが、それは無駄に終わった。


「何で全部払っちゃうのよ!」

「いや、だって、俺の商品も置いてもらうし……」

「それはまた別で話し合ったっでしょ!?」


 実は、アリアと、コバトさんの店のリニューアル費はあらかじめ払っておいたのだ。それを秘密にしてもらっていたのだが、バレるのが早すぎた……。


「バカ……」


 アリアをなんとか落ち着かせて、その件はまた今度話し合う事になり馬車を出した。

 夕日が薄っすらと空を赤く染めていた頃、町の中を走る馬車の中で外を眺めながら、一本の橋にさしかかる。


「なにあれ……」


 橋の下、川の近くに石がある。川に石がある点はどこも不思議ではないが、目を引いたのはそれが積んである事だった。絶妙なバランスで、綺麗な形だ。

 どうしても気になって、俺はロットに叫んだ。


「ちょっと止めて!」

「え? 何!?」


 ロットの驚いた顔を見る事なく。馬車から飛び降りて、橋の下に向かった。

 目的の場所に近づいてみると、やっぱり石垣のように石が綺麗に積んであったのだ。それはとても頑丈なもので川の流れも変えてしまっている。


「すごいな、これ」


 石垣に軽く触れると、女の子の大きな声が後ろから聞こえた。驚いて振り向く。


「おい! 触るんじゃない!」

「え?」

「おぬしに言っておるんじゃ!」


 声の発信源は移動しているが、周りを見渡しても姿が見えない。


「下じゃ下!」

「下?」


 目線を下げると3歳か4歳くらいだろうか、赤髪の女の子が俺を見上げていた。


「ここに居たのか……」

「失礼な奴じゃ」

「これって君が作ったの?」

「そうじゃ! だから触るでない! 俺にはこれしかないんだから……」

「君、名前は……」


 名前を聞こうとすると、橋の上からまたもや一際大きな声が響き渡った。


「あぁ! 居た!」

「くそ、見つかった!」


 そう言った女の子は、持っていた石を置いて逃げて行く。


「ベルナム! 待ちなさい!」


 ベルナムと言う名の女の子は、名を呼ぶ女性に追いかけられて俺の前から消えて行った。


 俺はどうしていいか分からなかったので、走り去る背中を見ながらみんなの居る馬車に戻った。


「どうしたの?」

「ちょっと気になる子が居たんだけど、何処かにいっちゃった」


 もしかしたら……と頭をよぎった考えがある。だがそんな俺の考えをよそに馬車はそそくさと走り出した。

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