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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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課題

「おはようアグリ」

「おはよう、もう出来るよ」


 父が起きてきて、朝食の準備を急ぐ。鍋から勢い良く吹き上がる湯気とともに、新米の香りが部屋いっぱいに広がっていく。俺が居ない間に、食べる分だけ精米しておいてくれたのだ。俺も食べるのが楽しみで、張り切って料理当番の責任を全うする。今日のメニューは新米と、昨日の夜に作っておいた異世界特性ロールキャベツ、肉はアリアが正体を教えてくれない謎の肉を使った。卵スープも付け、たくわんに白菜の浅漬けっぽい物だ。キャベツと白菜は俺の畑で採れた初物だ。朝から力仕事をすることが多いので、がっつり食べる事にしている。


「お待たせ!」


 それぞれお皿に並べて父の前に並べると、湯気が父の顔を隠した。


「ありがとう、美味そうだ」


 父は目の前の料理に目を見開いてフォークを手にした。


「いただきます!」


 父は真っ先に新米へと手を伸ばし、口に頬張る。炊き立てで熱そうにしているが、美味しそうに嚙み締めた。


「うまい! やっぱり新米は違うなぁ」


 俺も続いて米を口に運んだ。


「うん、美味しい」

「こうして今年も米を食べられると思うと苦労も忘れるな」

「俺も早くお米を作れるようになるよ」


 父は大きな手で頭を撫でてくれた。


「楽しみにしてる!」


 今日の予定なんかを話しながら朝食を楽しんだ。



「マルゴスと会う約束をしているから先に出ていいか?」

「うん、大丈夫!」

「ありがとう」


 父が準備を整え、家を出て行った。俺は朝食の片付けを済ませてから畑に向う。



 今シーズン初めてこの世界の田植えから稲刈りそして新米を食べるまで、すべて通して知る事が出来た。一連を通した経験に基づいた課題も見つかった。


 田植えが直植えの影響があるのか、根の張りが弱く、実る米が少ない。

 手で耕している為水捌けが悪いのに、溝切りをしない。

 中干しが上手く出来ていない。

 追肥してる?

 魔石による水の為か、米の生育が上手くいっていない可能性。

 虫対策がされていない。

 選別をしていない。

 米の保管が不十分。


 今、振り返ってみてもかなりの課題がある。もちろん検証は少しづつ行っていくとして、知識はどんどん入れて行きたい。ただまずは麦だ! そのために開けておいた畑の半分を耕さないといけない。雪が降る前に大根を干して漬ける。白菜とキャベツも採ってしまわないと。そして忘れてはいけない孤児院の畑の整備。やる事が多すぎるが、みんな頑張ってくれている。俺もしっかりやらないと。


 畑に入り、鍬を短く持った。土が硬くなっていて数センチづつ刃を刺す事にする。表面から耕していき、何度か往復しながら少しづつ深く耕していくようにする。こんな事ちまちまやっていては一週間以上かかってしまうのに何も策が無い。牛か馬でも買って、リユンに耕す道具を作ってもらおうかとも考えたが、世話をする時間や労力も無い。そもそも俺にそんな知識は無いので断念した。悩んでいる時間ももったいないのでとりあえず手を動かす。



 あれから10日が過ぎ、麦を蒔く畑が耕し終わった。想像以上に時間がかかり、縮小しようかとも考える事もあったが、諦めずにやりきった。正直かなりしんどい。


「こっからだな!」


 耕すのが終わっただけであって、まだ種は蒔いていない。

 小屋から自作のたい肥と貝殻を砕いた物、そして成分が良く分かっていない一般的に売っている肥料を運び出した。耕してやわらかくなった土に混ぜ込んでいく。来る日も来る日もこの作業を続けた。最後の方は体も辛くなり、大雑把になってしまったが自分の畑だ、誰にも文句は言われないだろう。


「アグリー!」


 種を蒔く前、水が溜まらないように、排水用の溝を鍬で作っているとロットが馬に乗って勢いよく走ってきた。


「出来たぞ! 完成だ!」


 一瞬何が完成したのか迷ったのだが、ロットの嬉しそうな顔できっとあれの事だとすぐに分かる。


「ほら! 見に行くぞ、早く乗れ!」

「え? 今から!? 」

「当たり前だ! アリアちゃんが早く連れて来いって」


 そんなことを言われてもまだ仕事が残っている。しかも汗かいたし、着替えたい。アリアに会うなら、なおさらなんだが……。

 そんなことお構いなしに、ロットは俺の手を引き馬に跨がせた。


「ちょっと! 俺乗った事ないんだけど!?」


 いくらロットの後ろに乗るだけとはいえ、初めての経験。想像以上に高く、少し怖かった。


「しっかり捕まってろよ」

「ちょっと! あんまり飛ばさないでくれよ」


 なんでかすごくテンションが高いロットは馬に合図を送ると、ロットの期待に応えて勢いよく走り出した。


「怖いってー!」

「大丈夫だって」

「いやぁぁぁ!!!」


 何の根拠があるのか、どこからそんな自信が来るのか。俺は必死にロットにしがみ付きながら、ロットの耳には一切届かない悲鳴を上げていた。ただ、俺も馬に乗れるようになれば、アリアや孤児院のみんなに会うことが出来るだろう。教えてもらっても良いかもしれない。無事に生きてアリアの店に着くことが出来ればの話だが……。

Next:完成

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