勇気と努力の結晶
ダリアさんに一通り作業の説明を終えた。手が空いたので子供たちと少しの時間、過ごす事にした。
「いつもはどんな遊びをしているの?」
興味本位で聞いてみると、みんな嬉しそうにいろいろ教えてくれた。冒険者ごっこなるものをはじめ、かけっこやかくれんぼ、ボールのような物を蹴って遊んだりもしているそう。ボールが柔らかい物だったので、ドッジボールを教えてみると、予想通り大人気になった。木の棒で書いたコートの中で元気に遊んでいる。徐々に子供たちが集まり始め、チームを作り満面の笑みでボールを投げたり受け止めたりしていた。それは小学生の休み時間のような時間だった。
「おーーーい!!!」
みんなで遊んでいると、聞きなれた声が響く。それは特別大きな声で、遊んでいた子供たちも手を止める程だった。
「ロット!」
見ると馬車にはリユンもジュリも、それにアリアまで乗っている。馬車が院の敷地に入り、みんなが下りてくる。それに気付いた子供達は、俺の後ろにどんどんと隠れたり、建物に逃げて行ったり、警戒心を隠せない様子だった。
「どうしたの? 何かあった?」
俺はみんなが突然来た事もあってアクシデントが起こったのかと心配したが、そういう訳ではないみたいだ。
「実は前々から時間を見つけて院に顔を出したかったんだよ」
「それで来てくれたのか!」
みんなに感謝を伝えて、子供たちを呼ぶ。
「みんなー、新しいお友達を紹介したいからこっちに来てー!」
少し大げさなくらいに腕を動かし手招きすると、中に入って行った子供たちも恐る恐る出てきて、近くに来てくれる。ダリアさんも「お友達?」と気になった様子で来てくれた。
「みんな、親友を紹介するね。この元気なお兄ちゃんがロット、しっかり者のリユン。かわいいかわいいジュリお姉ちゃんに、魔法使いのアリアお姉ちゃんだよ」
子供たちにみんなを紹介すると、恐る恐る前に出てきた。
「よろしくお願いします……」
ゴルと言う名前の男の子が声を掛けるとロットは嬉しそうに「よろしく!」と笑顔で答えた。それをきっかけにぞろぞろと近づいきて、それぞれ自己紹介をしていった。
紹介が一通り終わり、みんなが話しているとジュリが大きな声で言う。
「みんなで遊びましょう! 追いかけっこをしましょうか! みんな、アグリに捕まったら負けだからね?」
「え、お、俺?」
「さぁ! みんな、逃げるよ!」
ジュリの楽しい掛け声とともに、思い思いに走り俺から逃げて行く。
「よっしゃ、ぜってぇ負けねぇ!」
「頑張ってね、アグリ」
「今思えば、アグリとこうやって遊んだこと無かったわね、負ける事はこれからも無いだろうけど!」
他の3人も、俺の背中や肩を叩きながら走り去っていく。
まったく……。しかたないな……。やれやれという気持ちはあるもののその数倍、いや数十倍楽しさが勝っていた。
「俺だって負けないからなー!」
勢いよく走りだし、子供たちを追いかけ回す。
「待てー!」
「お兄ちゃん、こっちーだよー」
「見つけたぞー」
楽しい時はすぐに過ぎて行くもので、この世界でもそれは変わらない。
「アグリお兄ちゃん居た?」
「こっちには居なかった!」
「こっちをもう1回見てみよ!」
そう簡単には見つけられまい。なんせ、前の世界で学生の時、影が薄すぎてドッジボールでは最後まで残ってた俺だからな。気配を消すなんて朝飯前さ。なんて、生まれ変わっても、中二病丸出しでかくれんぼをしている。
「アリアお姉ちゃん、見つからないよー」
「じゃあ、私にいい考えがあるわ」
「え、なになに?」
そんな声が微かに聞こえて、耳を澄ました。
「アグリにしか効かない魔法を使うわ」
「え、魔法見せてくれるの!?」
「見たい見たい!」
俺にしか効かない魔法? なんだそれ? まさか位置情報が見られるとか? そんなのさすがに卑怯だ!
ドキドキしながら身を潜めていると、何やら演技がかった声が聞こえた。
「あれー? なにこれ。初めて見てみる植物ね。食べられそうだけど、美味しいのかな? うん、いい匂い、甘い香りがするわ。かじってみようかしら」
「えっ!!! どれどれ!? 見せて!」
あ……。
「アグリお兄ちゃんみーつけた!!!」
やられた。まんまとアリアの策……、魔法にかかってしまった。
「アリアお姉ちゃんすごいね! 一瞬で見つけられた!」
「すごいでしょ、アグリの事なら何でも分かっちゃうんだから」
アリアは楽しそうに自信満々に話しているが、俺は少し恥ずかしかった。
日が傾いてきて肌寒くなってきた。今日はたくさんの笑顔がここに生まれ、みんな幸せな疲れを覚えていた。
「今日は本当にありがとうございました」
帰り際、メリスさんとダリアさんが深々と頭を下げている。子供たちも少し寂しそうだった。
「こちらこそありがとうございました。楽しかったです」
「任せてもらったお仕事、必ずやりますので安心していてください」
「よろしくお願いします」
そう言って俺たちは馬車に乗り込んだ。いざ出発とその時。
「アグリお兄ちゃん!」
大きな声で呼ばれた。振り返ると、アルスだった。俺は馬車から降りて近づく。
「どうした?」
アルスはすぐに話し始める事は出来ず、沈黙が続く。何か躊躇している感じだ。俺は、アルスを信じ、話せるようになるまで待つ。馬車の中からは、気になって顔だけを外に出しているみんながちらりと見える。
「お兄ちゃん」
「どうした?」
「これ!」
俺の前に差し出されたのは、花だった。それも、名前も知らない小さな花を摘んで、紐で軽く結んである。
「俺に?」
「うん……」
アルスは恥ずかしいのか何なのか、とても緊張している様子だった。それで、優しく頭に手を置く。
「嬉しい!!!」
アルスの気持ちをまっすぐ受け止めて、本心をそのまま言葉に出した。すると。驚いたようにアルスは俺の目を見つめる。
「摘むの大変だったでしょ? 綺麗な花をこんなにたくさん、ありがとう! 大切にする!」
緊張で手が震え、顔が強張っていたアルスは嬉しそうに満面の笑みに変わっていった。
「うん! また遊びに来て!」
「もちろん! ありがとう!」
それからアルスをしっかり抱きしめて、何度もお礼を言ったのだった。
「そんなに嬉しいんだ、お花」
アリアを送り届けている馬車の中。俺が大事に花を持っていると、ニヤニヤしながらアリアは言った。
「うん、嬉しい」
「でも、それってその辺に生えてる草だろ? それでも嬉しいのかよ、俺だったらもっといい物が欲しいな」
それもロットらしい。そう考えるのも不思議ではないのかもしれない。
「確かに良い物を貰っても嬉しいと思うよ。でも物の価値は関係ないと俺は思う」
「どういう事?」
ジュリを含むみんながチラッと俺を見た。
「初めてアルス達に会ったのは、アルスが物乞いをしていた時なんだ」
「そういえば言ってたわね」
アリアが思い出したように呟いた。
「だからね、人から物を貰う事が日常的になっていたアルスが、何かをプレゼントしたいって思い立った。でも自分は何も持ってないからって諦めてしまう事無く、探して、見つけたものを渡したいって努力して、勇気を出して俺にくれたんだと思うから……」
「物の価値は関係ない」
おそらく、アルスが緊張していたのはそんな気持ちがあったからなのかもしれないと感じた。俺でも、子供の頃ハンカチをプレゼントした時、両親とはいえ緊張した。
「確かにそうかもね」
「だから、アルスの努力と勇気の結晶であるこのお花が、すっごく嬉しかった」
「アグリは何だか大人の雰囲気がするよね」
「何それ」
そんなことを言うと、馬車は笑いに包まれた。
帰りの馬車で、気づいた事がもう1つあった。花の切り口、はさみのような物で綺麗にカットしてるのだが、斜めなのだ。偶然なのかとも考えたがすべての花が斜めにカットされていた。もし意図的にしているのなら、どこで覚えたのだろうか。本で読んだのか……。
例えば物乞いをしている時、花屋に行く。斜めにカットされているのを見て、意味も分からず見様見真似でしたなら、あの子はすごい。何かの才能が隠れているのかもしれない。
俺は1人でそんな事を考え、将来が楽しみになったのだった。
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