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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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子供たちのために

「こんなに早く用意してくださったんですか! ありがとうございます!」


 夕方、家にロイスさんがやって来て大きな鞄を受け取った。中を見ると、20着ほどの子供服が入っていた。


「正確なサイズは分からないけど、子供がたくさんいるなら誰かは着られるだろう」


 俺と同じ事を思っていたみたいだ。ちょっと子供たちには我慢してもらうことになるが、お金も無限にあるわけではない。しばらくは、着られる服をみんなで着てもらう事になるだろう。ただ、必ず1人一着は自分の服があるようにする。冬までの目標だ。


「大量注文だ、おまけしておくよ。今後もごひいきに」

「本当にありがとうございます、助かります」


 提示された割引価格を支払い、綺麗な服が手に入った。早速明日渡しに行こう。

 ロットに明日付いて行く事を伝えに行き、準備を整えた。




「おはよー、アグリ。すごい荷物だな」

「おはよう、ロット。せっかく行くからな、やれるだけ仕事をやっておこうと思って」


 服を渡しに行くだけでは時間がもったいない。効率よくやっていかないと時間がどんどん過ぎてしまう。今出来る事は進めて行かないと。


「もう体は大丈夫なの?」

「ありがとうジュリ、心配かけちゃったな。もうすっかり治ったよ」


 後から聞いた事だが俺が風邪をひいた日、目が覚めるまで待っていようと言ったのはジュリだそうだ。前々から頑張りすぎなんじゃないかと心配していた所、倒れたと聞いてかなり焦っていたそう。


「もう無理しないでね」

「うん、分かった」


 誰からも心配された事が無かったから、少し照れくさくなってしまった。


 その後、リユンの準備も整いロットの掛け声を合図に馬車が動き出した。





「俺はここで降りるね」


 3人の目的地はアリアの店で、俺は孤児院。少し歩くことになるが、みんなが遠回りにならないで済む。


「分かった」

「迎えは夕方で良いか?」

「あぁ、頼んだ!」


 帰りの打ち合わせをしてから馬車を降りた。手を振ると馬車は走り出し、いつの間にか見えなくなる。

 ブロードさんが教えてくれた情報のおかげで、馬車が街の中でも入れるようになり助かっていた。ただそれはリユンの大工としての資格があるからこそなので、リニューアルが終われば話は変わってくる。それまでに何か考えないと……。



 それからはひたすら歩き孤児院を目指す。家から店まで走って向かった俺だ、こんな距離大した事はない。


「今思えば……、すごい事したな俺……」


 もうやりたくないな、なんて考えていると孤児院の建物が見えてきた。

 さらに近づいていくと、子供たちの元気な声が聞こえてくる。建物の周りで走り回り、可愛い歌声も心が癒される。


「アグリお兄ちゃんだ!」

「お兄ちゃんだ!」

「お兄ちゃんがまた来てくれた!」


 外に居た子供たちが順に気付き始め、走り寄って来てくれた。


「遅くなってごめん、元気にしてた?」

「うん!」


 元気な返事を聞けた所で、子供たちが俺の手を引いてくる。


「遊ぼっ!」

「だめ、僕と遊ぶの!」

「ずるい、私と!」


 随分来ない内に忘れられていないかと心配していたが、逆に人気が高まっているように感じる。もう少し大きくなり、畑をしたいとか言ってきたとしたら心苦しい。


 前の世界で経験した嫌な思いをこの子たちには絶対にさせないため、強制はしないと心に決めている。半面教師ってやつだ。自分が嫌だったことは絶対しない、してほしかった事を俺がする!

 そのために俺は院の偏見を無くしてやる。


「ちょっと待って、みんな」


 俺は子供たちに目線を合わせ、まるでサンタさんのような笑顔を作った。


「今日はみんなにプレゼントがあるんだ。汚れないように中で見ない?」


 そう言うとみんな大きな声の返事が空に響いた。


「みるー!!!」


 手を引かれながら院に入った俺は、前にホットケーキを食べた部屋に来た。そこにはダリアさんが女の子と話している最中だった。


「こんにちは、ダリアさん」

「アグリさん! 来てくれたのですね」


 突然の訪問に驚きはしていたが、嬉しさが零れていたので安心した。


「遅くなってしまってすみません。今日は子供たちにプレゼントを持ってきたんです」


 ロイスさんから受け取った鞄をそのまま机に置くと「なになに」と子供たちが寄ってくる。


「服だ!」

「ホントだ! 服がいっぱい!」

「見て! スカートもあるよ」

「これ可愛い!」


 みんなが広げる服には、厚手のロングシャツや羽織れるジャケット。男の子でも女の子でも着こなせそうなズボンに、俺も知らなかったが、スカートもあったみたいだ。デザインはローラが身に着けているような凝ったものではなく、シンプルで少しワンポイントの装飾がしてあり、誰でも長い間着こなすことが出来るデザインとなっていた。


「アグリさんこれって……」

「みんなに服のプレゼントです!」

「こんなにたくさん、良いんですか?」


 ダリアさんは目に涙を浮かべているが、とっても嬉しそうだ。


「はい、土地を借りるのでこのくらいは」

「本当にありがとうございます」


 気付けば院の子供たち全員が集まっていた。後から来た子供たちも気になってのぞき込んでいるが、年長の子たちの力が強く押し返されている。みんな新しい服にテンションが上がっているようだ。少し危ない状況にある子供も居たため大きな声で呼びかけた。


「みんな! 実は今日はまだ全員分の服は用意できてないんだ。今日服が無かった子も必ず持ってくるから待っていてほしいんだ。それが俺からのお願いなんだけどどうかな?」


 みんなは目を輝かせて「はーい」と手を上げる。


「ありがとう。仲良く順番に着てね」


 新しい服騒動は、メリスさんに任せる事で収まりを見せた。さすがベテラン。


「ダリアさん、少し手伝っていただけますか?」

「はい! なんでもしますよ!」


 ダリアさんと外に出て建物の周りを歩く。


「どこか畑に使ってほしくない場所はありますか? 」


 今日、やる事は畑の区画を決める事だ。排水や光の当たり加減の事も考えて、場所を決めなくてはならない。場所と大きさだけでも決めておけば指示も出しやすい。


「そうですね、この場所は洗濯物を干す場所に使っているのでここ意外であれば問題ないです」


 そんな要望を聞きながら歩いて地形を確認した。しばらくして俺は地面に、跡を見つけた。そこにしゃがんで確認する。


「どうしたんですか?」


 院の玄関から見て左側の空き地には、草が生い茂っている。そこには屋根から落ちる、雨水の流れる跡があった。草を搔き分け、辿っていくと院の敷地外に出て小さな川に繋がっていた。


「ここ結構危ないですね」

「そうなんです、草で見にくいですし。近づかないようには言ってあるんですが……」


 この雨水の跡に沿って排水路を作り、両サイドに畑を作ろうと考えていたが危険性も露わになった。だが見たところ、ここが畑に適しているのも事実だ。草が生えているなら、整備すれば畑になる、土質も改善すれば問題なさそう。

 でも草で見えないのも危険だ。畑にして作業するとなると出入りも増える事になるだろう。さて、どうするか……。


「柵だな」

「柵?」


 前の世界でも基本は川の近くに畑があった。それだけ危険も増えるが、メリットの方が大きいのだろう。

 しっかり安全対策をとった上で畑を作っていく事にしよう。畑を作る事によって今よりも見渡しが良くなり安全になる事も考えられる。さらに柵を作れば今よりも安全になる。

 俺は家から持ってきた道具を出し用意する。木製の杭と木槌を持って草の森に入った。


 川に沿った排水路予定の場所に杭を持っていく。横幅20センチの排水路と仮定して杭を打っていく。川沿い、敷地ぎりぎりに杭を打って反対側にも杭を打った。院の建物側に同じように、排水路を挟むような形で杭を打つ。合計八本の杭が打ち終わった。

 繋ぎ合わせて出来るだけ長くして持ってきた2本のロープで、打った杭に結び付けていく。30分程で畑の区画が、仮だが決まった。杭に結ばれたロープが2つの大きな長方形になっている。


「ここを畑にしましょう」


 正確に何メートルなのかは分からないが、一区画の縦幅が俺の足で110歩だった。


「大きい畑になりそうですね」

「そうですね、楽しみです」

「私もお手伝います。次は何をするんですか?」


 ダリアさんが目を輝かせながら言うので、子供たちにしばらくはロープの近くに近づかないように警告をお願いした。


「それと、ここの草を刈りましょう」

「ここ全部ですか?」

「全部です!」


 長い草も、短い草も生えてる。考えるだけで大変だ。


「目標は、来年雪が解けたら畑開始です!」


 ダリアさんに鎌を渡した。


「たくさん恩を頂いたアグリさんに少しでもお返ししたいので頑張ります!」


 ダリアさんはそう言ってくれるが、俺は返してほしくて子供たちやダリアさんに恩を示した訳ではない。あくまで俺がやりたかったからそうしたのだ。だから……。


「俺に返そうとしないでください」


 そう言うと驚いた顔をして俺を見た。


「その代わり、子供たちのために頑張りましょう!」

「アグリさん……」


 ダリアさんは何かを決心したように俺を見てくる。


「どうしたんですか?」

「ここの草を刈ればいいんですよね?」

「そうですね」

「この仕事私に任せてくれませんか?」

「え!?」


 この大きさの草刈り、女性1人ではかなり大変な作業だ。少しは頼もうと思っていたがすべてはさすがに……。


「全部は大変なので俺も手伝いますよ、俺が始めた事ですし……」

「私にやらせてください!」


 すごい圧だった。そういえば、奴隷にでもなんでもなりますって前に言われた。余程何かを気にしているのだろう。焦るわけでもない、特別何かの能力が要る作業でもない。今後手伝ってもらう事にもなるだろうし……。


「分かりました、お言葉に甘えて草刈りお願いします」


 そう返事を返すとダリアさんは目を輝かせた。


「はい! 頑張ります!」


 それから危ない行為や危険な場所、簡単な作業の説明をして後はダリアさんに任せたのだった。

Next:勇気と努力の結晶

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