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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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籾すり

「ここで良いいの?」

「あぁ、ゆっくり入れてくれ」


 今日は父と籾すりを行う。脱穀した米には籾と言う硬い殻に包まれていて、石の間で擦って外す作業が籾すりだ。

 この殻はジャガイモを植えた時のように、様々な用途で作物に使われる。土と光と水が作ってくれたものは、何1つ無駄にはしない。


 俺が米を上から流し込むと、父が石を使った籾擦り機を回す。見てるだけで重そうだ。

 上から入れた米は、石に挟まり下から米が出てくる、事はなかった。


「もう一周だ、アグリ」

「うん!」


 しゃがんで下に落ちた米を拾い集める。もう一度上から米を入れて、父が回す。すると、もみ殻と米がパラパラと落ちてきた。これで玄米が完成した。


 父が回し終わると「ふぅー」と玄米に息を吹きかけた。そうすると軽いもみ殻は風下に飛んでいき、重い玄米だけが残る。


「もみ殻集めてくれるか?」

「分かった!」


 俺たちは作業を続けるが、この玄米が出来るまでの作業、約100グラムで体感15分くらいだろうか。さすがに大変すぎる。一生終わらないんじゃないかと錯覚するほどに長丁場になりそうだ。このやり方が主流なら、何とか楽にしてやりたい。


「腰……、きつい……」

「少し休憩にするか」


 そう言ってくれて、少し早いが水分を補給する。立ったりしゃがんだりする俺の動きは、腰にも足にも負担が大きく、早めに何とかしたい……。もうやりたくないと思ってしまうような作業。ただ、米を美味しく食べるのには、精米の作業が残っている。この世界でも白米で食べるのが主流なようで、玄米派は少ない。それでも、コイン精米機があるわけでもないので、精米の作業も農家の仕事だ。


「米作るのって大変」


 思わず呟いてしまった言葉が父の耳に入ったようで、笑っていた。でも何だか嬉しそうな父がそこには居た。


「それでも、辞められないんだよな」

「辞めようって思ったことはないの?」


 こんな辛い仕事、進んでやりたいなんて思う人は少ないだろう。現に前の世界では農家の数は減っていた。しばらく考えた父は、昔の事を話してくれる。


「あるよ、辞めようと思ったこと、でも……」

「でも?」


 少し照れくさそうに言う。


「俺が初めて作った米を、へベルが美味しいって言ってくれたんだ。その瞬間、苦労なんて全部吹き飛んだよ」


 そっか、お母さんが。


「それがあったから、ずっと米を作るって決意したんだ」


 暗くなった空気を払拭するように、おちゃらけて言った。父にとってそれは大切な思い出、人生を決める程の決意だったのかもしれない。


「後から分かったが、へベルの料理が上手かっただけだったけどな」

「お母さんの料理も好きだけど、お父さんのご飯も好きだよ」


 お世辞でもなんでもなく、父の料理は、豪快で、ザ男飯って感じで好きだ。母はちゃんとバランスを考えてくれていた気がする。2人のご飯を食べるのが大好きだった。父は「ありがとうな」と頭を撫でてくれる。


「アグリも自分で米を作ったら、アリアちゃんに美味しいって言ってもらえると良いな」

「んっ!?」

「どうしたんだ?」

 

 父はとぼけながら笑っている。

 でもいつか、言ってもらえたら嬉しいだろうな。そのために今できる事を頑張ろう。


 今日は、籾すりの作業で一日が終わる。籾すりは今後数日間、続くだろう。今日、父からいい話は聞けたが、あの作業はもうやりたくない。


「疲れたー」

「お疲れ様、助かったよ、ありがとう」


 父の作ったご飯を食べて、今日は休むことにした。



 ベッドの上で横になった。今日はかなり疲れてしまったのか、体が重い。おそらく筋肉痛も来そうだ。自分でもびっくりするくらいすぐに眠りに入った。




「はっくしゅん!」


 朝、今日は少し曇り空で肌寒い。と言うか寒いくらいだ。


「おはよー」

「どうした、アグリ。いつもより元気が無いみたいだけど」

「昨日の疲れが残ってるみたい」


 ぐっすり寝たはずなのにこの疲れ……。これは、風邪気味? ちょっとまずいかも。でも、雨も降りそうだし、それまでに畑でやりたいことがある。


「お父さん、手伝うの昼からでいい?」


 午前中は畑の仕事、午後からは父の仕事をしよう。昼寝でもすれば治るだろう。


「構わないが、無理するなよ?」


 朝ごはんを軽く食べ、畑に出た俺は大根を蒔いた畝に向かった。二十センチ程に伸びてきた葉は、畝に付けた印通り、綺麗に並んでいた。


「良い感じだ」


 今日、どうしてもしたかった作業は間引き。種が重なり、窮屈そうにしている大根の葉を採る大事な工程だ。もちろん捨てるわけではなく、大根葉として食べられる。灰汁もなく、柔らかいためどんな料理にも使うことが出来て人気の野菜だ。


 プチっと引き抜くと、ギザギザの葉の下には細い大根の赤ちゃんが育っていた。


「虫食ってるけど美味しそうだ」


 人間も美味しいと感じるように、虫たちも美味しいと思っているとよく言うが、虫の気持ちなんて分からない。虫の食った野菜が売れず、苦労した農家がそんな事を言って売っていたのではないか、そんな事を勝手に想像している。ただ、人間にとって虫が葉を食べる事に恩恵があったりするのも事実なので、決して悪い事だけではないだろう。


 それからどんどん収穫していき、かなりたくさん採る事が出来た。


「よし、こんなもんかな!」


 抱えていた大根葉を箱に入れる。


「追肥もしてしまうか」


 大根は種を蒔く際、肥料を使わない。少し成長した後に追肥と言う形で肥料を撒く。印を付けてから一列に種を蒔いたのはこの作業があるからだ。


 小屋から用意していた肥料を持ち、立ち上がると酷い立ち眩みが襲ってきた。視界がふわふわする中、なんとか壁に寄りかかる。


「どうしたものか……」


 持っていたはずの肥料が手から滑り落ちた。


「アグリ!? 大丈夫か?」


 父の声だ。姿は見えない。それでもその声だけで少し安心感が得られた。


「お父さん……」

「アグリ!?」


 おそらく父に寄りかかる事が出来た。そのまま目を閉じると気絶するように眠った。

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