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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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始動

「みんなの家は、生ごみとかってどうしてる?」


 2人を連れて、ロットの馬車に乗りアリアの元へ向かう。強い風が吹き、砂煙が落ち着くと、ジュリとリユンが顔を上げた。


「俺の所は燃やしてると思う」

「私もそうしてるわ」


 そうか……。うちもそうだが、各家に焼却炉のような場所があるみたいだ。

 昨日、たい肥が欲しいと思い、いろいろ考えていた。前の世界で作った事はないが、挑戦してみるしかないと思っていた。それで、最初に思いついたのは、生ごみをたい肥にする方法だ。


「その生ごみを肥料にしたいんだけど、持ってこれたりする?」

「構わないけど、肥料になるの?」

「うん、ちょっと工夫が必要だけど……、挑戦してみたいんだ」

「アグリは何でもやってみるわね」


 ジュリにも、リユンにも「それがアグリだから」と笑われた。でもその言葉は何だか嬉しかった。過去の自分とは別人になれている証拠だ。この計画がまとまったら、たい肥を作ろうと心に決めた。


「そろそろ着くぞ」


 みんなで馬車から身を乗り出す。綺麗な町がすぐそこに来ていた。一般の馬車は、町の外にある既定の場所に止めるとな決められている。


「ちょっと大変だな」

「何か言った?」

「ううん、なんでもない」


 もし、野菜を店に置くと決まったら、搬入が大変になるだろう。荷物を持っても、何度も往復しないといけなくなる事が想定される。何かいい方法を考えなくては……。






「紹介するよ、アリア魔石店の魔法使い、アリアだよ」


 店に到着し、早速みんなにアリアを紹介した。するとアリアは嬉しそうに「よろしく」と手を振った。続いてみんなも名前を言いながら「よろしくお願いします」と返事をした。

 俺が話を進めようとするとロットが話を遮る。


「アリアさん、アグリが好きになるのも分かる」

「――え?」

「想像の何倍も綺麗なお姉さんね」

「――え!?」

「ちょっとみんな何言ってるの?」


 アリアは顔を赤くしながら言う。俺も心臓がバクバクだ。変な汗が出てきた。


「アグリはいつもアリアさんの事を話すんですよ。会いに行った時とか、アリアが喜んでくれたとか」

「そうなの? アグリ」


 みんなが俺を見る。違うと言いかけたが、みんなに言っていたのは嘘ではないし……。だからと言って、そんなつもりが無いわけではないし……。んー、どうしたら……!!!


「アグリ、顔赤いよ?」


 リユンがそう言うと、店は笑いに包まれる。それが聞こえたのか、奥からマリーさんが来た。


「あらあら。今日は賑やかね」

「こんにちは、今日は友達を連れてきました」


 アリアの時と同様、みんなを紹介して挨拶をした。


「待っていて、何かお菓子を持ってくるわね」


 そう言ったマリーさんに、ジュリは「手伝います」と一緒に入って行く。するとアリアは「アグリと違って気がきくわね」といたずらっぽく言う。


「そんな事言うならアリアさん、あの時の事をみんなに言ってもいいんだね?」

「へぇ、言うようになったじゃない。それなら体を洗ってあげた事を話しても?」


 俺たちが、しばらく「ぐぬぬぬ」とにらみをきかせていると「仲が良いね」とリユンに苦笑いされていた。


 ジュリ達が、お菓子とお茶を持ってきてくれてみんなが席に着いたところで、俺たちは3つ提案があると前置きして本題に入った。


「アリア、リユンに店を直させてくれない?」

「それはありがたいけど……、出来るの?」


 驚いた様子だったが、リユンが合格したことを報告すると、即決だった。喜んでくれたみたいで何よりだ。1つ目の提案はすんなり承諾された。


「2つ目は、ジュリに魔石について教えてやってほしい」

「ジュリちゃんに? 構わないけど、どうして?」

「俺はこれから、村から農業や食料供給を変えたいと思ってる。その為に必要なんだ」

「分かった、協力するわ。よろしくね、ジュリちゃん」


 ジュリは嬉しそうに「はい」と答えた。ちょっと緊張している様子だったが今は問題なさそうだ。

 さて、問題は次だ。さすがのアリアでも、難しいかもしれないと思っている。


「それで、3つ目なんだけど……」

「うん?」

「綺麗になったアリアの店で、俺が作る野菜も売らせてもらうって事は出来ないかな?」


 俺が緊張の面持ちでアリアに伝えると、口もとに手を置き、笑いだす。


「ふふふっ」

「ど、どうしたの!?」


 俺は心配になって焦って聞いた。するとアリアは「ごめんごめん」と言い笑いを押さえて、話し出す。


「アグリが真剣になって話すから、もっと大事な事かと思ってたから、そんな事かと思っちゃって」

「そんな事!?」

「良いわ! やりましょう! 何なら店の名前も変えちゃわない?」

「いや、それはさすがにダメだよ。アリアのお店だもん」

「良いのよ、この店の名前、思いつかなくてお母さんが勝手に付けた名前だから」


 そうなんですか!? と衝撃が走る。アリアとマリーさんは口を大きく開けて笑った。


「そうなのよ、だから、この機会に心機一転リニューアルオープンしてもいいかもね」


 マリーさんも言うなら俺としては願ったりかなったりだが……。


「アグリ?」


 アリアは俺の本心を聞きたがっている様子だった。大事なのは動機なんだ。


「どうして、村から農業を変えようって思ったの?」


 アリアがそう聞くと、ロットのお菓子を噛む音だけが響く。みんなが注目する中、俺はいつも思ってる事を話してみる事にした。きっと分かってくれるはずだと信じて……。


「小さい頃から、米が嫌いだったんだ……。食感、舌触り、香り。でも、みんなで協力して作るお米だから、なかなか言えなくて……」


 俺が告白すると、ロットが「それ分かる」と言ってくれた。


「俺も、米あんまり食べないんだよね。何て言うか、柔らかかったり、硬かったりして、正直美味しくないんだよね」

「それで、農業を真剣にやっていこうって、思ったんだけど……」


 俺が含みを持たせて話すと、それでそれで? と言わんばかりに目を見開く。


「この前の干ばつの時、浮き彫りになった。この国の食料事情の危うさが」

「そうね、比較的早く、食料が手に入らなくなったわ」


 「だから」と俺は頭を上げて、みんなに決意したことを話す。


「もう、あんな事にならないように変えたいんだ!!! 農業を!」


 気付けば、俺の鼓動は高鳴っていて、みんなにも聞こえそうだった。


「協力するわ」


 アリアの声を皮切りに、みんなが賛同してくれた。


「ここから始めましょう。アグリの農業革命を!」





 この決意表明から3日間はみんなで予定を確認しながら、自分の出来る事を精一杯やることになった。俺はコバトさんのお店にも同じ提案をして了承を貰う事が出来た。

 リユン達の3人は早速作業に入り、毎日ロットの馬車に材料や道具を乗せて朝早くに出発している。ジュリはお母さんのミルさんと相談しながら、時々ロットの馬車でアリアの元へ向かう事にしているみたいだった。



「さて、俺は……」


 今日はかなり強い雨で、少し肌寒いくらいだった。それでもみんな頑張ってくれている。俺も、しっかりやろう。いろいろと考える事はたくさんある。でも、この世界に来てやっと動き出せるんだ。大切な家族も居る。大好きな友達も居る。助けたい人が居る。みんなが笑顔になれる世界を、ゆっくりと作ろう。

Next:ひとつずつ

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