リニューアルオープン計画
「んー、少し硬いんだよな」
夏の終わり、今日は大根の種を蒔くために、畝を作っていた。ただ、土に元気が無いように感じる。機械で耕す事はしていないので、ある程度は仕方が無いが、もう少し土にほろほろした感じや、しっとり保湿されている感があっても良いと思う……。だからと言って、そう簡単に改善できるものでもなく……。水はけの事も考え、鍬だけでなく、一度スコップで掘り返してから耕すようにしていた。
秋の後半に採る事が出来る大根は、ぬか漬けに使用するのに、それほど長くは育てないようにしたい。畝の高さもそれ程必要なく、二十から三十センチくらいの高さに土を盛る。リユンに作ってもらった、お気に入りのトンボを使って、種を蒔く場所を平らにしていく。
「こんなもんかな」
綺麗に平らになった場所を、鍬の角を使って筋を引いていく。一定間隔に種を置いて、土を掛ければ完成だ。
「アグリ!」
「リユン!?」
作業を続けていると、声が聞こえた。
農道に手を振って立っていたのは、会えるのはもう少し先の予定だった、リユンだった。しばらく会わない内に筋肉が付き背も伸びて、成長を感じられる。
「リユン! 元気だったか!?」
「あぁ、元気だよ」
俺たちは抱きしめあった。本当に久しぶりだ。会えて嬉しい。
「アグリも、まぁ、いろいろあったみたいだね」
そう、リユンが居ない間、かなりの変化が生じた。その事をリユンはどこからか聞いていたみたいだ。
「あぁ、いろいろ……な……」
「よく、頑張ったな」
「ありがとう」
リユンが背中を叩いてくれて、すごく元気が出た。俺は、かなり恵まれているのかもしれない。そう感じるひと時だった。
「そういうリユンはどうなんだ? 学校は」
そういうとリユンは一歩下がってにやにや笑っている。「なんだよ」と俺がもう一度尋ねると、右のポケットからカードのような物を出す。
「合格しました!」
満面の笑みでカードを見せてくる。よく見ると免許証のようなカードで卒業証明書と書かれてある。
「これがあっても、家や小屋を建てるには、まだ父さんの元で修行しないとだめなんだけど……」
リユンは嬉しそうに会話を続ける。
「改装とか、家の修理とかは自由にしていいんだって!」
「すごいな! さすがリユンだ」
小さい頃から手先が器用だったので卒業も驚く事ではないだろう。
リフォームと修理か。俺の家が必要になったら頼んで、安くしてもらおう。そういえば、俺が使わせてもらってる小屋も直してもらいたいな。楽しみになってきた。
「修理……」
「アグリ?」
「リユン!!! 仕事を頼めないか?」
「え、さっそく?」
リユンに仕事の内容を説明した。
クラリネにあるアリア魔石店と、コバトさんの食堂を直して欲しいと。もちろん、アリアとコバトさんに聞く必要があるが、2人とも早く店を再開したいだろう。きっと喜んでくれる。
「俺は良いし嬉しいよ、でもただの修理じゃないって?」
「うん! 目指すはリニューアルオープンだ!」
それから俺は、リユンを連れて、ジュリとロットを呼んだ。みんな、リユンが居る事と、俺が急に話があると言ってきた事で、かなり戸惑っている。それでも幼馴染のよしみ、お構いなしにいつも遊んでいた井戸に集まった。しばらく、リユンとの再会を楽しんだ俺たちは本題に入る。
「それで、仕事って何?」
リユンが切り出し、俺は思いついた計画を話す。
「ロット、お父さんから馬車受け取ったんだよね?」
「あぁ! 何年も修行してやっとだけどな」
「アリアとコバトさんって人のお店が、干ばつの期間でボロボロにされたんだ。それを直してみないか?」
「えっ!? いいの!?」
「仮に、アリアやコバトさんが許可をくれたら直そう! そして、道具や材料はロットの馬車で運ぶ事は出来ないか?」
「おぉ! 任せろ!」
ロットは面白そうとテンションが上がり、身を乗り出す。
「私は、何したらいいの?」
ジュリが髪をかき上げながら心配そうに聞いてきた。でも大丈夫だ、ジュリにしか出来ない事がある。
「アリアの店に行って、魔石について勉強してほしい。ジュリが将来、魔石を売れるようにするため」
「私がお店を?」
魔石を売るには資格が必要らしいが、魔法使いからその資格を取れるらしい。最終的な目標には、ジュリを店に立たせるつもりは無いが……。
俺は計画をまとめるように話す。
「リユンが、店を直す、ロットがその手伝いをする、その間にジュリはアリアと勉強をする」
するとみんなは俺の方を見てきて「アグリは?」と口をそろえて言った。
「俺は……、野菜を作る?」
少しおどけたように言ってみた。
「いつもしてるじゃん!」
みんなに笑われる。
でもそれが重要だ。リニューアルオープンの最終目的。それは……。
「アリア魔石店で俺の野菜や、村で作った野菜を売りたい!」
話し合いがまとまり、明日みんなでアリアの元へ行くことになった。
アリアに良いよと言わなかったら、この話は無かったことになるのだが、そこは祈るしかない。必死でお願いする事にしよう。
前から野菜を売りたいと考えていた。ただ、自分の店で信頼ゼロから積み上げていくのもいいが、初期の頃は赤字になるだろう。それを考えると、お客から信頼がある、魔法使いやロットのお父さんによいしょしてもらう方が、安定して売る事が出来るだろう。
ここから、始まるんだ。この村から変えてやる。二度と、母のような犠牲が出てしまわないように。
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