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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第二章:少年期
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リニューアルオープン計画

 「んー、少し硬いんだよな」


 夏の終わり、今日は大根の種を蒔くために、畝を作っていた。ただ、土に元気が無いように感じる。機械で耕す事はしていないので、ある程度は仕方が無いが、もう少し土にほろほろした感じや、しっとり保湿されている感があっても良いと思う……。だからと言って、そう簡単に改善できるものでもなく……。水はけの事も考え、鍬だけでなく、一度スコップで掘り返してから耕すようにしていた。


 秋の後半に採る事が出来る大根は、ぬか漬けに使用するのに、それほど長くは育てないようにしたい。畝の高さもそれ程必要なく、二十から三十センチくらいの高さに土を盛る。リユンに作ってもらった、お気に入りのトンボを使って、種を蒔く場所を平らにしていく。

 

「こんなもんかな」


 綺麗に平らになった場所を、鍬の角を使って筋を引いていく。一定間隔に種を置いて、土を掛ければ完成だ。


「アグリ!」

「リユン!?」


 作業を続けていると、声が聞こえた。

 農道に手を振って立っていたのは、会えるのはもう少し先の予定だった、リユンだった。しばらく会わない内に筋肉が付き背も伸びて、成長を感じられる。


「リユン! 元気だったか!?」

「あぁ、元気だよ」


 俺たちは抱きしめあった。本当に久しぶりだ。会えて嬉しい。


「アグリも、まぁ、いろいろあったみたいだね」


 そう、リユンが居ない間、かなりの変化が生じた。その事をリユンはどこからか聞いていたみたいだ。


「あぁ、いろいろ……な……」

「よく、頑張ったな」

「ありがとう」


 リユンが背中を叩いてくれて、すごく元気が出た。俺は、かなり恵まれているのかもしれない。そう感じるひと時だった。


「そういうリユンはどうなんだ? 学校は」


 そういうとリユンは一歩下がってにやにや笑っている。「なんだよ」と俺がもう一度尋ねると、右のポケットからカードのような物を出す。


「合格しました!」


 満面の笑みでカードを見せてくる。よく見ると免許証のようなカードで卒業証明書と書かれてある。


「これがあっても、家や小屋を建てるには、まだ父さんの元で修行しないとだめなんだけど……」


 リユンは嬉しそうに会話を続ける。


「改装とか、家の修理とかは自由にしていいんだって!」

「すごいな! さすがリユンだ」

 

 小さい頃から手先が器用だったので卒業も驚く事ではないだろう。

 リフォームと修理か。俺の家が必要になったら頼んで、安くしてもらおう。そういえば、俺が使わせてもらってる小屋も直してもらいたいな。楽しみになってきた。


「修理……」

「アグリ?」



「リユン!!! 仕事を頼めないか?」

「え、さっそく?」


 リユンに仕事の内容を説明した。

 クラリネにあるアリア魔石店と、コバトさんの食堂を直して欲しいと。もちろん、アリアとコバトさんに聞く必要があるが、2人とも早く店を再開したいだろう。きっと喜んでくれる。


「俺は良いし嬉しいよ、でもただの修理じゃないって?」

「うん! 目指すはリニューアルオープンだ!」


 それから俺は、リユンを連れて、ジュリとロットを呼んだ。みんな、リユンが居る事と、俺が急に話があると言ってきた事で、かなり戸惑っている。それでも幼馴染のよしみ、お構いなしにいつも遊んでいた井戸に集まった。しばらく、リユンとの再会を楽しんだ俺たちは本題に入る。



「それで、仕事って何?」


 リユンが切り出し、俺は思いついた計画を話す。


「ロット、お父さんから馬車受け取ったんだよね?」

「あぁ! 何年も修行してやっとだけどな」


「アリアとコバトさんって人のお店が、干ばつの期間でボロボロにされたんだ。それを直してみないか?」

「えっ!? いいの!?」

「仮に、アリアやコバトさんが許可をくれたら直そう! そして、道具や材料はロットの馬車で運ぶ事は出来ないか?」

「おぉ! 任せろ!」


 ロットは面白そうとテンションが上がり、身を乗り出す。


「私は、何したらいいの?」


 ジュリが髪をかき上げながら心配そうに聞いてきた。でも大丈夫だ、ジュリにしか出来ない事がある。


「アリアの店に行って、魔石について勉強してほしい。ジュリが将来、魔石を売れるようにするため」

「私がお店を?」


 魔石を売るには資格が必要らしいが、魔法使いからその資格を取れるらしい。最終的な目標には、ジュリを店に立たせるつもりは無いが……。

 俺は計画をまとめるように話す。


「リユンが、店を直す、ロットがその手伝いをする、その間にジュリはアリアと勉強をする」


 するとみんなは俺の方を見てきて「アグリは?」と口をそろえて言った。


「俺は……、野菜を作る?」


 少しおどけたように言ってみた。


「いつもしてるじゃん!」


 みんなに笑われる。

 でもそれが重要だ。リニューアルオープンの最終目的。それは……。


「アリア魔石店で俺の野菜や、村で作った野菜を売りたい!」



 話し合いがまとまり、明日みんなでアリアの元へ行くことになった。

 アリアに良いよと言わなかったら、この話は無かったことになるのだが、そこは祈るしかない。必死でお願いする事にしよう。

 前から野菜を売りたいと考えていた。ただ、自分の店で信頼ゼロから積み上げていくのもいいが、初期の頃は赤字になるだろう。それを考えると、お客から信頼がある、魔法使いやロットのお父さんによいしょしてもらう方が、安定して売る事が出来るだろう。


 ここから、始まるんだ。この村から変えてやる。二度と、母のような犠牲が出てしまわないように。

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