表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹が減っては戦はできヌ  作者: 結野セキ
第二章:少年期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/187

ただいま

「まぁまぁ、アグリ。座りなさい」

「いや、お、俺はここで……」


 俺は今、父から怒られようとしている。というのも麦刈りに行く許可を出す条件として出されたのが、寄り道しないで帰ってくると言うものだったのだ。それがアリアの店に到着したとたんバレてしまった。


「どうだった? 麦刈りは。しっかり働いたか?」

「う、うん。みんな喜んでくれた」

「そうか、良かったな」


 父の顔を想像する事しか出来ない。会話が止まり息苦しい。怒るならさっさと怒ってくれた方がまだマシだ。


「アグリ、大丈夫よ」


 店の奥からクスクス笑いながら、アリアがお茶を持って出て来た。大丈夫? なんの事だろうか。

 アリアは笑いを堪えながら話してくれた。


「私がね、アグリが帰ってくる日、絶対家に来るからって言っておいたの。向かう時、魔石渡したでしょ?」

「うん」

「アグリだったらお礼を言いに来るから、許してほしいって伝えたの」


 なるほど、そういう事だったのか。た、助かった。アリアに感謝だ。


「まっ、そういう事だ。今回はアリアちゃんに免じて許可したから安心しろ」


 そっか、良かった。何だか安心したら力が抜けてしまい、椅子に座り込んでしまった。


「アグリ、おかえり」



「うん! ただいま!!!」



 その後、アリアの店で少し休ませてもらった。まだ家じゃないのに帰ってきたような安心感を得られた。


「そういえばアリア、この魔石って何だったの?」


 首に掛けた魔石をアリアに見せる。大切にしてきた魔石。返した方が良いのだろうか。


「効果あった?」

「えっと……、なんの?」


 するとアリアは「えー」とあからさまなジト目で見てくる。「はぁ」と息を漏らしてから説明してくれた。


「体使って疲れると思ったから、回復補助を掛けておいたのだけれど?」


 回復……、回復……?


「まぁ、治癒じゃないから完全に治すものじゃないけれどね」

「あぁ!」


 俺は思い出した。あの筋肉痛。一晩と午前中で回復したのは、若さだけじゃなくてアリアの力もあったらしい。


「効果あった! 本当に助かった」


 アリアは呆れと嬉しさとを混ぜたような声で「良かった」と呟く。


「これ、貰っていいの?」

「別に良いけど、そのうち効果は切れるわよ?」

「うん! それでもいい。大切にする」

「なら、持ってると良いわ」


 しばらくアリアと話していると父が「そろそろ行こうか」と立ち上がる。俺は頷き、準備を始めた。


「ありがとう、アリアちゃん。世話になったな」

「いえ、またお越しください」


 荷物をまとめて俺も椅子を戻した。いつもはアリアと長く一緒に居たいと思う所だが、今日は違った。


「そういえばアリア、シャウラさんに会った」

「シャウラ!?」

「うん?」

「何もされなかった?」

「え、何も? でもアリアの事言ったら助けてくれたよ」


 すると、アリアは疑うように「あの子がねぇ?」と呟いた。俺は時間も無かったので、そのことはまた話に来ると伝えて店を出た。

 無事に馬車に乗ってクラリネを後にした。



「お母さん、元気?」


 馬車の中、父に聞いてみると母のことについて話してくれた。


「アグリが行ってから、クラリネの病院で診てもらった」

「どうだったの?」

「原因不明だそうだ、薬は貰って楽にはなったそうだが、病気が治る訳じゃないからな」


 原因不明の病気……。どんな検査をしたのかは分からないが、前の世界にあったMRIやCTなどは存在しない。薬と言っても痛み止めみたいな物だろう。母の年代で女性がなりやすいと言ったら……。乳がん……、子宮頸がん……。いや……、考えたくない。止めよう、今から久しぶりに会うんだ。笑顔で、ただいまって言おう。



 それから数十分。家に到着した。


「お母さん!」


 荷物をその辺に放り投げて、両親の部屋に向かう。ドアを開けるとベッドの上で本を読んでいた。


「お母さん、ただいま!」

「おかえり、アグリ」


 母の優しい腕の中に包まれる。


「どうだった? お仕事出来た?」

「うん、みんな良い人で楽しかったよ」

「そう、良かった。無事に帰ってきてくれて安心したわ」


 母は……、弱っていた。一週間会わなかったから、余計にそう感じるのかもしれないが、明らかに、確実に弱っていた。


「アグリ? 何かあった?」

「ううん、大丈夫。今ご飯作るから待ってて」


 その後、父と一緒にご飯を作る。久しぶりの三人での食事は楽しくて、思い出話をたくさんした。父も母も楽しそうに聞いてくれた。

 こんなにも帰ってきたいと思える家庭に生まれてこられて感謝だ。いつか両親もジンさんの家に、遊びに行きたいな。



 食べ終わって母は早めに休んだ。食事の片付けをしていると、真剣な口調で父が話し始めた。


「アグリ、お母さんに出来るだけ負担を掛けさせたくないんだが、どうだ?」

「うん、賛成」

「そうか、嬉しいよ。それで、お父さんの畑も世話を頼むことも増えるかもしれない」


 分かってる。それが結果お母さんの助けになるなら、なんだってやる。俺は父の目をまっすぐ見て頷く。


「ありがとう。頑張ろうな」


 お母さん。この世界に産んでくれて感謝しきれていない。絶対このまま終わらせない。必ず。



「そういえば、ルツから手紙が来ていたよ。夏休みに帰ってこれるって。日が分かったら迎えに行ってくれるか?」


 妹が帰ってくる! 魔法を学んだ妹なら何とかなるかもしれない。アリアにも聞いてみよう。きっと助けてくれる。



 久しぶりの自分の部屋で、鞄の中を片付けていた。


「服、明日洗わないとな。――何これ……」


 鞄の奥に湿った布があった。少し湿っていて汚い。

 布を恐る恐る開くと思い出す。


「すっかり忘れてた! しそ!」


 小屋の隅で見つけたしそ。すっかり忘れ、しなしなになっている。戻るか分からないが急いで世話を開始した。

Next:魔法

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ