表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第四章:青年期
174/187

ご飯

 俺の目にしか映っていないのか。そう勘違いしてしまう程の物が空に掲げられている。扇状のそれは、七色に光り青い空を彩っていた。端から登って行けそうなほどくっきりで、目に焼き付いてくるようだった。一晩起きていたので、雨が降った事実は無い。遠くの方で雨が降っているような雲も無い。それなのに何故、虹がかかっているのか。


「ブロードさん、あれって」

「あぁ、僕も噂で聞いていたけれど。本当に現れるとはね」

「噂?」


 馬から降りて、ブロードさんに耳を傾けた。


「バーハルが終わりを告げたんだ」

「え、どういうことですか?」


 突如として現れた終結の知らせ。開いた口が閉じなかった。


「僕も聞いた話なんだけれど、七色に光る大きな虹。それがこの世代のバーハルが終わった証拠らしい」


 確かに、虹がかかる原理を知っている俺は、不思議と納得がいく。きっとその説は間違っていないのだろう。


「でも」

「でも」


 俺とブロードさんはほとんど同時に口を開いた。言葉が被さった事に笑いを堪える。


「やるべきことは」

「変わりませんね」


 ブロードさんと眉を上げる。いくらバーハルが終わったとはいえ、今もなを苦しんでいる人が居るのには変わりはない。俺たちは「行きましょうか」とたくさんの荷物を持って店に向かった。

 山から顔を出した日の光は、被害の全貌をも照らし出し始めた。改めて町中を見ると、災害の大きさが至る所で物語っていた。ここからみんなで協力しても、元の生活を取り戻すのには時間がかかるだろう。これまでよりもずっと長く努力する必要がありそうだ。


「良かった。みんな無事で」


 店の中には、ロットもリユンも居た。床で薄いタオルケットを被りながら横になっている。


「おはよう。良かったらこれ飲んで。暖めておいたから」


 奥から目の下にクマを作っているマリーさんがコップを持って来て、机に並べていく。俺たち全員は、今すぐにでも救援に出たいという気持ちだったが、それを押し殺した。それを止めたのは、ベルナムさんだ。


「アグリ、気持ちはわかる。でも、ここはアグリに教えてもらったことを使うべきだ。安全に、な」


 その言葉で忘れてしまいそうになっていた事を思い出した。そうだ。サンドリンで俺が言った事。それをみんなが実行してくれたことによって、事故はあれ以降、姿を消した。


「ヒエラルキーコントロール……」


 俺が呟くと、ベルナムさんがにこりと笑い「ひとつ良いか?」と口火を切った。


「腹が減った。腹が減ったまま作業すれば、集中できないし効率も悪い。危険だって察知できないだろう。怪我や事故につながってしまうと思うのだが、どうだ?」


 俺が落ち着いていられないのも、腹が減っているからなのかもしれない。ベルナムさんの言う通りこのまま出て行ってしまったら、俺が誰かを巻き込んでしまう可能性だってある。


「ありがとう、ベルナムさん」


 俺は顔を上げて、みんなに言った。


「ご飯、食べよう」


 すぐに準備が始まった。その間も、荷物の整理や管理を同時に遂行した。

 ご飯を食べていると、美味しそうな匂いに釣られ、ロットもリユンも。リユンと帰って来た子供たちも目を覚ました。


「アグリ! 良かった無事で」

「心配かけたな。みんなも避難してくれてありがとう」


 子供たちは、一斉に俺の傍に近寄って来た。心配してくれていた事に嬉しくなる。


「メセデ、足の調子はどうだ?」

「はい、リユン君が支えてくれたのでもう大丈夫です」


 ロットは、兄のもとへ。リユンは、父のもとに行っている。2人とも嬉しそうだった。


「ホシャトも、昨日はありがとう。おかげで、たくさんの命が救われたよ」


 それを聞いたブロードさんが「あぁ、やっぱりか」と手を叩く。


「ホシャトの声に似ていると思っていたんだ。よくやった」

「あ。ありがとう、ございます」


 さて。昨日からほとんど何も入れていなかった腹には、適切なエネルギーが送り込まれた。疲れが消えたわけではない。だが、動く力が湧いてきた。俺たちの戦いの始まりだ。

 「アグリ」と呼んだのはロットだった。


「コバトさんも無事だった。でも店は……」

「そうか……。分かった。ありがとう」


 コバトさんの店は、海を眺めた場所から見下ろせる場所だ。おそらくは、波に。

 立ち上がり、みんなの中心で今後の予定を話す。


「みんな、まず3手に分かれて持ってきたご飯を配りましょう。しばらく配っていれば噂で広がると思うので、作った組で分かれないようにしてください」


 そして、マリーさんに体を向ける。


「マリーさん、魔石の在庫はありますか?」

「あるけど、少しだけね」

「そうですか」


 顎に手を当て、今後の動きを何通りかイメージした。魔石が足りないのは致命的だ。あれがあるのとないのとでは、与えられる安心感が段違いだ。


「ありがとうございます。なんとかします」


 魔石を持っているのは、うちだけではない。助け合えば、問題は無いはずだ。

 顔を上げると、すでに3つのグループが出来上がっていた。


「まだ余震は続くはずです。安全な場所で作業しましょう」


 みんなが立ち上がり、ぞろぞろと外に出た。みんなのいる場所を把握するため、俺も付いて行く。


「マリーさんとホシャト。それにメセデもここに待機で」


 メセデが少し不安そうな目で俺を見た。


「メセデ、材料はまだあるだろ?」


 2本の眉を同時にあげて、笑って見せた。すると、メセデの顔も変わる。


「はい!」

「頼んだよ」


 3つグループはそれぞれ、国王の住む豪邸の敷地内に。冒険者食堂に。そして現在賢治さんが住んでいる家にとご飯を配る場所を作った。どこも、崩れるような物や建物が無い場所を選んだ。


「配り終えてもまだ人が来るようなら、店に来るように言うか、明日も用意する事を伝えてあげてください」


 現状、すべての国民に食事を配る事は難しい。それでも、配給が滞りなくするという約束をすることで、安心感は与えられるだろう。一度の量は少なくなってしまうが、きっとわかってくれる。


「みんな、命を第一に。頼んだ!」

「はい!」


 俺は、近くに居た何人かに「あそこで食べ物を配っています」と声を掛けながら次の場所へと向かった。


「ここは無事みたいで良かった……」


 到着したのは、ライックさんのお店だ。

Next:心の

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ