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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第四章:青年期
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仲間

 気色が悪いほど紅色に染まっていた空は、いつの間にか闇に包まれている。ほとんどの人は、孤独と空腹に耐えている頃だ。そんな夜の始まりは異様に静かだった。闇に消えていくのは、希望の光ではない事を祈る。

 俺が目を開けて見上げると、4人の強き者と、俺に覆いかぶさるマリーさんが居た。みんなの事を守るために、俺はここまでやってきたはずなのに、また守られてしまった。


「お前は何回魔獣と遭遇すれば気がすむんだ」

「本当よ。狩りに行く時はアグリを連れていっても良いかもしれないわね」


 笑みを浮かべながら、そんな愚痴を溢していたのは、最初に飛んで来てくれたマルコさんとアヤさんだった。俺だって、会いたくてあっている訳ではないのだが。


「まったく、世話が焼ける。もう助けてやんないからな」


 次に、魔獣討伐に参加したのはシャウラさんだった。衰えを知らない魔力で、奴を怯ませていたのが映画のように見えた。


「本当に助かりました……」


 俺が声を漏らすと、アヤさんが体を回してもう1人の方を向いた。


「でも意外だったのは、あなたね。師匠」


 鼻を鳴らしているのは、最後の一撃を食らわせた、サムソンさんだった。サムソンさんはマルコさんとアヤさんに合わせて、完璧のタイミングで斧を振った。それが決定打となり、怪我人も出すことなく、討伐は成功した。


「あ、あのー。サムソンさん、お知合いですか?」

「えぇ。アグリも知ってるの? あの人は、私たちの師匠よ」


 正直、かなり気まずい状況だ。もう会う事はないと思っていたのに、こんな所で命を救ってもらえるとは。目を合わせるのが困難なくらいだ。しかし、今回の件はあの事とは全く別物だ。お礼を言わなければ。


「サムソンさん。本当にありがとうございました」


 俺は恐る恐る近づいて頭を下げた。サムソンさんは鼻で笑ってから言った。


「だから人生をなめるなと言ったんだ。何かを途中でほっぽりだす奴には誰も守れねぇ。分かったらさっさとお前の出来る事をやれ」

「はい!」

「諦めたら、今度はお前の首をへし折るからな」


 サムソンさんは、どこかへ歩いて行ってしまった。その後の目撃者によると、家の瓦礫をひょいと持ち上げて、挟まれていた人を救っていたらしい。


「マルコさん、アヤさん。お2人はこれからどうするんですか?」

「決めてねぇ。上からの指示もないし、とりあえず手あたり次第助けていくしかねぇな」


 シャウラさんにも同じことを聞くと、同じ返事だった。それで3人に頼みごとをした。


「港町の方で、俺の友達が1人で避難誘導をしています。名前はロット。マルコさんはそこに向かってもらえませんか」


 「私は?」とアヤさんが言った。


「アヤさんは、僕と一緒に、孤児院に来てくれませんか。あそこは比較的山が近いので、また魔獣が出てるかもしれません」

「護衛って訳ね?」

「はい。こんな時に救援より優先する事なのかは、分からないですが……」


 俺が頭を下げていると、マルコさんに背中を叩かれた。


「お前の判断は間違ってねぇ。自信持て」

「ありがとうございます!」


 俺はまたシャウラさんにもお願いをした。魔獣がこの町にも出没し急に不安になったことがあるからだ。


「シャウラさん。港町とカタットの真ん中あたりに、孤児院の子供たち数人とリユンという友達を置いてきました。津波から逃れるために、山に入ったと思います。彼らをお願いできませんか」

「なんつー所に置いてきてんだ、ばか」


 シャウラさんは、俺が謝る前にすでに出発しようとしていた。それで俺は知っている情報をいそいで3人に共有した。放送の事。ホシャトの事。津波の事。


「もう津波は引いているかもしれませ。でも、津波と言うのは、何度も来るものです。だから……、だから……」


 説明している時、ロットやリユンの事が心配で心配でしかたがない。少しでも無茶をしたら、すぐになくなってしまうのが命と言う物だ。

 突然それまで黙っていたシャウラさんの背中がこういった。


「大丈夫だ。任せろ」


 うん。シャウラさんがそう言うなら、大丈夫だ。俺とアヤさんはそれぞれ馬に乗った。


「明日の朝、またここに集まりましょう。それまでに、俺たちはご飯用意してきます!」

「暖かいもの頼むぞ!」

「はい!」


 孤児院に到着したのは、夜遅くになってからだ。今もまだ、捜索活動が懸命に続けられているだろう。それでも今は、子供たちの安全を確認したい。


「みんな!」


 俺は孤児院のドアを勢いよく開けて、叫んだ。でも不思議と中は明るい雰囲気で満ちている気がした。食堂に向かって真っすぐ走る。


「ダリアさん! みんなは!」

「アグリさん! 良かった」


 食堂にはダリアさんを始め、ほとんどの子供たちが居た。俺の顔を見ると、安心したように顔の筋肉が緩まった。


「みんな、大丈夫でしたか? 怪我がある子は?」

「大丈夫です。この辺りも揺れましたけど、物が倒れるくらいでした。みんなで固まって、この机の下に」

「そうですか。良かった……」


 ダリアさんによると、地震があったすぐこの部屋に子供たちを集めたそうだ。余震が何度かあったが、この机にスムーズに隠れ怪我をした子供はいないという。


「アグリさん達は? アグリさん、1人ですか?」


 ダリアさんが不安そうな顔で言うので、笑顔で答える。


「みんな無事です。メセデが少し足を痛めたみたいですが、命にはかかわらないと思います。今はリユンが一緒にいてくれています」

「そうですか。良かった」

「ところで、みんなはこんな遅くまで何を?」


 周りを見渡すと、眠い目を擦ってみんなが笑っていた。


「ご飯を作っています。アグリさんが帰って来た時、きっとご飯を作るだろうと思って」


 予想が当たってみんなが笑っていた。

 みんなが作っていたには、おにぎりだ。すでに30個ほどが完成していた。

 みんな辛いのは変わらない。不安で不安で押しつぶされてしまいそうだ。それでも、俺が農業と共に教えてきた事が、これから世界を救う助けになるのだろうと確信した。こんな時こそ、ご飯を食べないと。みんなで!

 俺たちは、すべての倉庫にある米や野菜、豆を解放した。こんな時に役に立つのは、味噌や梅干しだった。さらに大根は刻んで干してある。トマトは規格外の物をソースにしてある。あるものはすべて解放した。俺たちがこれまでやってきた農業は、こんな困難にも耐えうることを見せつけてやろう。

Next:君ならこうすると思ってね

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