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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第四章:青年期
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選別機

 記憶を頼りに滑り台を描いていた。ただの滑り台ではない。滑るのは米だ。


「確か……、こんなようなものだった気が……」


 アリアが入れてくれた暖かいお茶を飲みながら考えていた。角度。大きさ。高さ。分からないことばかりだ。


「アグリ君、調子はどうかな?」


 コロッケを片手に、賢治さんが店に入って来た。アリアも驚かないのは、前もって賢治さんを呼んでいたからだ。賢治さんは俺が書いた大雑把な絵を覗いてくる。


「もしかして、千石通しかい?」


 俺は頷いた。


「そうなんです。これだったら作れるかなと思いまして」


 この冬に作りたい道具のひとつ、選別機。美味しい米を作るにあたり、この道具は必須になるだろう。

 前の世界でも大きく分けて、2種類の選別機があった。ひとつは回転式だ。網目状の筒に米が流れ、遠心力で分離されていく。粒が小さい物や小さなごみ、未熟米などが網を通過する。網の中に残った物、つまりクリアした米だけが回転の勢いをつけたまま排出される物。もうひとつの方法として、自然流下式だ。俺が生きていた時代は色彩選別によるものが多かった。一列に並ばされた米が滑り台を滑りる。カメラが監視していて、規格外の米を認識。エアーガンで米を撃ち、弾き飛ばす仕組みだ。


 賢治さんと、そんなものあったなと懐かしさ交じりに話していた。


「これからそれを開発するのは難しいでしょうけどね」


 いくら魔法があれど、いくら賢治さんが魔石による電力の開発をしていても、収穫の時期までに選別機を作る事は現実的ではない。それなら、過去の知恵を借りこの世界でも実現可能な物を作るしかなかった。

 収穫の秋に間に合い、米を選別できる物。そこで思い出したのが絵に描いていた千石通しだ。


「なるほど、これなら確実に作れるだろう。リユン君なら簡単な方だ」


 千石通しは江戸時代から普及し始めた農具だ。滑り台のような形で、上から米を流し込むと張り巡らされた糸の上を滑り落ちていく。小さな米や未熟な米は糸で作られた網をすり抜けて落ちる。何度かそれを繰り返せば、粒の揃った米が手入るという代物だ。電気も魔法も使わない。ただ、体力だけが奪われてしまうがそれは仕方ない。

 アリアが不思議そうな目を向けてやって来た。俺と賢治さんの会話から何か疑問を持ったようだった。


「選別したら、量が減っちゃわないの?」

「そうだね。お米として売る量は減る事になるかな」

「収入が減るんじゃないの?」


 アリアが提示してくれた不安が出てくるのも無理はなかった。しかし、今よりも確実に売り上げがでると俺は確信している。


「まず、選ばれた米を売る時は、普通のお米より高く設定しようと思ってる。その価値は十分にあるからね」


 選別機を通しただけでも、確実に味は変わって来る。もちろん、米を生産するにあたり美味しくなるよう工夫もする。単価を高くしても売り上げは見込めるだろう。

 俺は「それに」とアリアの方を見ながら付け加えた。


「落ちた米も売れるよ」


 アリアは目を丸くした後、俺に疑いの表情を向けた。


「騙して売ろうとでもしているの?」

「そんなことしないって」


 アリアにはそう言ったが、買っ貰えるような状況に誘導したのは確かだった。

 「どういうこと?」とアリアが尋ねてくるので説明した。


「ジンさんの息子、ケンさんの話は前にしたよね?」

「確か、見せる農業だったか」


 賢治さんが宙を見ながら言った。


「はい。そこで、家畜を飼うようにする話を出しました」


 俺がそう言うと、賢治さんはポンっと拳を手のひらで叩き、閃いたように言った。


「あぁー、家畜の餌か」

「その通りです!」


 どんな動物を飼うのか今はまだ未定だが、必要になってくるのは餌だ。選別された米を捨てるのはもったいない。そこで、米を原料にした餌を開発する。俺たちは、利益が出るしケンさんは安く餌が手に入る。さらにさらに、サンドリン産の米を食べて育った動物のミルクやチーズです。なんて宣伝だって出来るだろう。成功すれば、どちらにも大きなメリットがあると考えていた。

 アリアはまた変な事考えていると頭を抱えているようだった。


「賢治さんはどう思いますか? 勝算、あると思いますか?」


 理想を語るのは誰にでもできる。しかし、それを実現させ人を呼び運営していく。これが出来るのは技術や知恵、努力や経験を積んで行かないと簡単には成功しないだろう。俺も重々承知で、賛同してくれる仲間が欲しかった。賢治さんは右手を顎に当てて、左手の指で机にトントンと音を立てた。


「サポーターが必要かもな」


 俺の目を見て言った言葉は、接客を終えて戻って来たリラヤの興味を引いた。


「サポーター?」


 賢治さんは俺に説明をさせようと何も言わなかった。

 1拍置いて頭を整理しつつ、リラヤを含めアリアにも説明をした。


「サポーターってのはいわゆる助けてくれる人や団体の事だね」

「助けるって?」

「例えば、そうだな。株とか?」


 俺は確認するように賢治さんを見上げた。

 こんな事業を始めるのでお金出してくださいと言っても出してくれる人なんていないだろう。それならば、株を用意し買って貰う事が出来れば……。

 とはいえ、このプロジェクトを進めると決めたとしても冬が終わってからだろう。それに最終的判断はすべてケンさんにある。どう転んだとしても、俺のするべきことは変わらないし、目指している物は変わらない。この世界に農業が広まればそれだけで嬉しかった。

 

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