害虫
続々と子供たちが虫を捕まえて、俺の所に持って来た。俺自身、昔農薬を撒くときに少し虫を覚えたくらいだ。それでも、有名な害虫くらいなら分かる。でも良く分からない虫も何種類か見つかった。すべての虫が悪さをする訳でもないだろう。よって、分からない虫は畑に居てもらう事にした。
そんなこんなで、たくさんの虫が集まった。葉っぱを食べる食害性害虫、またカメムシのような吸汁性害虫も捕まった。その中でも面白いのがテントウムシだ。捕まえたテントウムシの中に混ざっていたテントウムシダマシ。テントウムシより可愛くないのですぐに分かる。虫を見ていると、貴重な1日がすぐに終わってしまいそうだ。
「みんな、お疲れ様」
夕方、子供たちの疲れも見えてきたので今日はここまでにした。みんなを呼び集めて人数を確認する。大丈夫、みんな居る。
「怪我した子は居ない?」
危なそうな虫は触らず、俺を呼ぶように言っておいたので問題はなさそうだ。でも1人だけ、転んだ人が居たという情報が耳に入っている。
「ロット以外、大丈夫だよー」
頭をかいているロット。膝には血の跡が、痛々しく赤みを帯びている。子供と追いかけっこをしていた時、転んでしまったそうだ。ロットは隠そうとしていたらしいが、しっかり密告を受けたのだ。
「今日はありがとう。おかげで良い情報が手に入った」
今日捕まえた虫は全部で14種類。ダリアさんによって固有コードが控えられた。これにより魔法が作れる。
「もう少し暑い季節になったら、また開催するからその時はよろしくな」
これで今日は解散となった。ロットは2人を迎えに行くため、馬車に乗り込む。子供たちは夜ご飯まで部屋で休む子が多かった。
「えぇー、お小遣い出たの? 私も参加したかったー」
ロットやジュリたちが家に帰った後、夜ご飯中リラヤが嘆き声を上げた。今日の事を聞いて羨ましがっているようだ。もちろんリラヤにあげている給料の方が多い。そう言うと「副業」と頬に指を当てながら言うのだった。
――――――――――
昨日孤児院に泊まったのは、作業を早く終わらせるためだ。
塩漬けした梅から水分が出て、梅を浸していた。そんな桶に次はしそを入れていく作業だ。今日もダリアさんと一緒に仕事をこなしていく事になった。
「アグリさん、このしそを入れるんですか?」
「そうですね。これが梅干しに綺麗な赤色を着けてくれるんです」
開いている箱を用意して、軽くゆすいだしそを用意する。
「ダリアさん、葉っぱだけをむしって分けてもらえますか?」
「分かりました」
指示の通り、1枚ずつ丁寧に葉をむしっていく。時に破れてしまうが細かい事は気にしない。
「アグリさん、これって……」
ちょっと気持ち悪そうな目つきで葉っぱを眺めるダリアさん。むしった葉を俺に渡して来た。そこには何の変哲もないしその葉だったが、裏返してみると白い繭があった。ふわふわしていて綿のように綺麗だ。ただこれは、繁殖力の高い虫のため、放っておく訳にはいかない。
「これはコナカイガラムシですね」
「害虫ですか?」
昨日覚えたての害虫の知識を、早速活かせているようだ。教える事が出来た俺も鼻が高い。
「はい、枯らしてしまう事もある害虫ですね」
今年の対策は間に合わなかったが、来年にはこいつの対策も出来ているだろう。
ある程度しその葉がたまってきた。ざっと10キロほどだろうか。梅が100キロなら、しそは40キロ以上欲しい所だ。といってもすべて感覚の話。少し多めに入れておいても損はない。梅干しに使ったしそが余った所で、乾燥し粉末にすればふりかけにでも使える。梅干しを食べ終わり残った汁だって活用方法はある。何1つ無駄になんてしないんだ。
夕方に近づき、雲の動きが早くなり山に向かって行った。そんな時、今日むしった葉を集めて行く。それをしっかり水洗いして、虫や土を綺麗に流した。
「これは、塩ですか?」
梅を塩漬けした時、ロットが用意してきてくれた塩を持ってきた。
「はい、しそも塩漬けします」
「塩の量はどうしましょう?」
梅を塩漬けした時には一定の量の塩を入れた。目指したのは20パーセントの塩分だ。100キロの梅に20キロの塩。それは決して減塩と言っていいほどの物ではない。ただ、この濃さの梅にする事でカビの発生を防ぐことが出来る。保管環境も整わない場所だ。だからと言って出来るだけ破棄はしたくない。そう思い、きつめの塩分を選んだのだ。
ただ、このしそに関しては違う。
「てきとーで構いません」
軽く言った。特に気にせず塩を入れてしまっても問題ないからだ。
「そうなんですか? 梅と合わせるんですよね?」
ダリアさんの言う通り、漬けた梅の中にしそを入れる。ただ、これから塩漬けして出た汁は、灰汁や汚れもあるため一度捨てるのだ。そのこともあり、塩はてきとーで構わなかったりする。
とはいえ、イメージが湧かないと思うので一度お手本を見せた。
「しそで塩を挟むようにして重ねていきます」
しそを桶に入れ、その後塩を振る。あまり塩を遠慮していると水が出てこないので、気持ち多めに入れておく。混ぜるとざらざらするくらいで構わない。
「思った以上に入れるんですね」
「そうですね、ここで失敗してしまってはおしまいですから」
軽く塩を揉みこんだりもした。
後は虫やごみが入らないように蓋をして、明日まで放置する。
「石は乗せますか?」
「いや、これはそのままで大丈夫です」
梅を漬けた時は軽めの重石を乗せたが、しそには乗せなくて大丈夫だ。明日にはきっとしそから水が上がっている事だろう。
今日の作業はこの塩漬けで終わった。梅干しを完成させるには、数日この作業が必要だ。でもダリアさんはすぐにやり方を覚えてくれて、助かった。明日にはこれを絞り、水分を落としてから梅の桶に入れていく事が出来るだろう。
Next:休む勇気