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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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梅干し

 雨降りが続く時期。むしむししていて過ごしにくい日々が続いていた。そんな時でも馬車に乗り、売り場に向かう。道中、色鮮やかに咲く小さな花の集合体が心を慰めてくれていた。

 雨の影響で道が悪くなってきた。いつもの時間に出発しても、遅れてしまう時があった。


「もう少し早く出るようにするか?」


 ロットがそう提案してくれる。ロット自身、朝早く出るのは問題ないみたいだ。ロットの申し出は嬉しい。でも、これ以上早く出ても、メセデとリラヤの負担が大きくなる事を考えて断った。店までの道が混むわけでもないし、問題はないだろう。


「そういえばアグリ。改造の件はどうなったんだ?」

「うん、大体決まって来たよ」


 コニーの畑から帰って来た次の日の事。俺は賢治さんの元へ向かい、アドバイスを貰っていた。


「それで?」

「あぁ、荷台の中に大きな箱を入れる事にした」


 口が閉じるのを忘れているロットに、分かりやすく説明をした。

 荷台に大きな箱を入れる事で、そこの隙間には空間が出来る。前の世界の一部の地域で見られた二重窓の要領だ。これで、熱貫流率が低くなり、ロスなく中だけを冷やすことが出来る計算だ。馬車本体には手を施さずに実行できるため、馬車を傷つけない。さらに、箱を取り出せば原状復帰できるというメリットもある。


「ただ、懸念点もあってな」

「原理は分かんないけど。どこかだめな箇所があるのか?」


 問題は木材であると言う事だ。隙間にある空気が変わってしまっては効果は薄れていくだろう。それで、賢治さんがタールを作ってやろうと言ってくれた。植物から作れるタールは防水にも力を発揮するためメリットになるだろう。


「ただ。やってみない事には分からないな」

「最終的にはそうなります」


 頭をかきながら2人で笑った。でもきっと大丈夫、そんな根拠の無い自信にはこれまで乗り越えてきた事があったからかもしれない。


 店の準備が整い、いつものように開店した。


「アグリ、こんなの届いてるわよ」


 店が開いてからしばらくすると、一通の手紙が届く。名前はアリア宛だが、差出人はアサインのミューアさんだった。


「アサインで依頼を出したの?」

「うん、取ってきてほしい物があってね」


 手紙を開いてみると、依頼が達成されたとの知らせだった。


「これって取りに行かないとだめなのかな?」

「申し込んだときに選べるはずだけど……?」


 どうやら見落としていたようだ。今度は運んでもらう事にしよう。


 時間的には3時頃、ロットが迎えに来てくれた。今日は何だか疲れた様子で心配になり聞いてみる。


「いやー、親父に捕まってな。雑用に遣わされていたんだ。抜けだすのにアグリを使った」

「おいっ」

「まぁまぁ、たぶん大丈夫だ。親父、アグリの事は気に入ってるみたいだしな」


 気に入られてるのはありがたい。今後の行動に良い事もあるだろう。

 でもロットが早めに来てくれたのはちょうど良かった。梅を取りに行かないと。ロットに手紙の事を伝えて、付いて来てもらった。



「これが梅?」

「うん、これが梅」


 綺麗な青色の梅、これが冒険者のお腹を壊した物の原因だ。

 アサインに到着し、ロットが箱に入った梅を運び出してくれている。


「ミューアさん、ありがとうございました」

「こちらこそ。こちらにサインを」


 指示の通り、決められた場所に名前を書いた。


「ありがとうございます。これでご依頼は完了しました。ところで――」


 すべての手順が終わり、これでアレを作る準備が整った。


「これは何に使うんですか?」


 ミューアさんが心配そうに聞いて来る。腹を壊した植物だ、心配するのも無理はない。でも大丈夫、みんな大好きな物で、来年の夏にはきっと重宝する事になるだろう。


「完成したらお持ちしますね」


 そう言ってアサインを出た。ロットが馬車にまで運んでくれた梅は合計10個。1箱10キロと仮定して合計100キロだ。しそはケンさんの活躍で十分に用意出来るため困る事はない。こんなにたくさんの梅を購入しようとしたら、想像もしたくない値段だっただろう。


 孤児院に梅を置いて今日は家に帰る。


「家でしないのか?」

「出来ない事も無いけれど、広い場所が欲しいんだ」



 次の日。すぐに孤児院に向かい、作業を始めた。コニーの畑ではサツマイモを植えている頃だろう。手伝いに行きたいが、今は梅が優先だ。


「なんか色が変わってない?」


 リラヤが言うように梅は青色から黄色に変わっていく。収穫してからの変化は早いので、時間との勝負なのだ。

 ロットたちが店に向かう前、帰りに塩を大量に買って来てほしいと頼んでおいた。それはもう大量にだ。



 ダリアさんも手伝ってくれるとの事で、2本の尖った木の棒を作る。鉛筆を削るように先を削った木は爪楊枝のようになる。


「これで梅のヘタを取ってください」


 梅を収穫するとき、どうしても残る事があるヘタ。これを今取っておかないと食べた時、口に残ってしまう。

 勢いあまって梅に刺してしまわないよう、慎重に作業していく。刺してしまうとそこからカビが発生してしまうからだ。一粒ずつ、丁寧に。程遠い作業だが、これで完成した時の出来が変わる。


「目が疲れてしまいますね」

「そうですね、でもあと少しです」


 100キロくらい、2人ですれば一日で終わる。昼休憩を取って体力を回復して、何とか終わらせた。


 次に水洗いだ。手入れされていない山の物。綺麗に洗っていくべきだろう。


「みんな、見て?」


 子供たちに、梅を始めて水に着けるところを見てもらった。


「なにこれ!」

「大きくなった?」

「違うよ、そう見えるだけじゃないの?」


 梅を水に付けると空気の層のような物が見える。虹色のように見えて、案外綺麗な物だ。子供たちも「面白い」と喜んでくれた。こういう植物もある事をみんなに知ってもらって嬉しく思う。

 丁寧に洗うと、最初あった膜も落ち、綺麗になる。


「今日はこの辺にしておこうか」


 気付けば、孤児院のみんなで梅を洗っていてすぐに終わった。塩もまだ届かないので今日は洗った梅の水を切っておくことにした。


「明日はこれを塩漬けにするんだ、手伝ってくれる?」


 楽しそうな子供たち。釣られて俺も笑っているが、みんなは知らないだろう。俺の笑いは、梅干しを食べさせてやる事が楽しみで仕方ないからなのだ。甘い物だと言って食わせてやろうか、完成が楽しみでならない。

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