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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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ビニールハウス

「ああぁぁぁぁ!!!」

「うるさいアグリー! 夜中だぞー!」

「何で今まで思いつかなかったんだ!!!」

「うーるーさーいー!」



「って事があったんだよー」

「いや、全然分からないから」


 早朝、野菜の収穫が終わり、準備が整った。土が乾いていたので水を撒いていると、ロットが畑に到着した。馬車に荷物を積みながら、夜に叫びながら飛び起きてしまった事を話していたのだ。というのもずっと前から考えていた問題。その解決案が降ってきたのだ。


「ロズベルトさん、まだ村の野菜持って帰ってくるだろ?」

「うん、もちろん。返すことになってるけどな」


 そう、問題というのは売れ残りの野菜だ。自分で作った物とはいえ、すべて自分たちで食べるのも限界がある。それに独り身の生産者も居る。父が昔言っていた売れ残る確率は、半分と言っていた。今もそうだとしたら、なんとか解決したい課題だったのだ。それはもちろん俺たちのコポーションでも同じ問題を抱えている。

 でだ。この考えをなぜ今まで思いつかなかったのか、自分でも怒りを覚える程だった。経済的で、効率も良い。村のみんなも喜ぶ事だろう。


 準備が完了し、馬車が走りだす。雲で朝日が隠れている中、ロットの馬車に安心して身をゆだねる。その時ロットがボソッと呟いた。


「孤児院のみんなで食べるとか?」

「そう、それが良いと思ってさ……。――えぇー!?」

「いや、なんでやらないのかなぁーって思ってた」


 悲しい。思っていたなら言ってくれロットさん。いやまぁ、思い付かなかったのが悪いのか。


「なんでもっと早く言ってくれなかったの?」

「いや、アグリの事だから何か考えがあるのかと思って……」


 大きなため息を吐き、朝から少し疲れが出てしまったのだった。ロットにはロズベルトさんに軽く伝えておいてほしいとお願いする。具体的な話はロズベルトさんの時間がある時、また会いに行こう。



 孤児院に到着して、メセデとリラヤを馬車に乗せる。リラヤは大きなあくびをしていると思っていたが、たぶんあれはほとんど寝ている。目を閉じながら歩いているぞ。


「メセデ、疲れてないか?」

「少しだけ。でも働けるのが嬉しいので頑張れます」


 メセデの言葉に、素直に返事は出来なかった。慣れない仕事で、明らかに疲れが見える。畑グループはいつでも休憩を挟めるが、接客グループはなかなか難しい。アリアと相談して定休日を決めるか。

 メセデと寝ているリラヤを見送って、孤児院の中に入った。


「メリスさん、グラミーの部屋はどこになりましたか?」


 朝ごはんの片付けをしているメリスさんに声を掛けて、部屋を教えてもらった。そこに向かっていると、どこからかサラが現れ、今日の仕事を聞いて来る。


「グラミーと相談してから決めようと思ってね。それまで自由行動だ」


 それを聞くやいなや外へ飛び出していった。その理由は概ね見当が付いているが……。

 そんなサラの後姿を見ながら、グラミーの部屋に入る。場所が変わっても、相変わらず朝から勉強中だった。


「おはよう」


 手を上げながら声を掛けた。


「おはよう」

「朝ごはん、食べた?」

「ん……。まだ」


 ぼそっと溢した言葉にすぐに反応して、部屋の外に連れ出した。ダリアさんが居ないので、子供達全員の世話をするメリスさんの負担が大きくなっているようだ。そんな事もあって、気づいたら部屋にこもっているグラミーのような子も出てきてしまうのは仕方がないが。


「グラミー、せめてご飯はちゃんと食べて」

「――。分かった……」


 朝ごはんの残り物を準備して、グラミーに食べさせる。その間、他の子供たちは恒例となっている朝の掃除をしていた。拭き掃除や掃き掃除、風呂場や台所も手分けして綺麗にしている。いつかの学校の清掃時間のようで楽しそうだった。


「アグリさん、雨が降ってきましたー」

「あぁー、やっぱり降って来たかぁ」


 部屋から外を覗いてみると、ぽつぽつと地面に跡を付けていた。その量は徐々に増えて行き、すぐに黒い地面に変わった。これでは外仕事は難しい。これは流石にどうしようもなく、今日の畑仕事はお休みする事にした。


 食べ終わったグラミーを部屋に戻して、会議を始めた。


「グラミー、固有コードって知ってる?」

「分かる。本、読んだ。でも……、識別、出来ない」


 識別と言うのは、魔力が感じられないため、コードが分からないといった事らしい。でもそれは魔法使いか白魔女でしか分からない物なので問題は無い。

 グラミーに尋ねる。複数のコードを、1つの魔法に組み込めるのかを。


「ん。可能」


 静かに頷いたグラミーの目は、輝いて見えた。自分の組んだオリジナル魔法が見られると思うと、テンションも上がるのだろう。そんな気持ちも理解ながら、組んでほしい魔法を伝えた。


「グラミーはビニールハウスって知ってる?」

「ん。分かる」

「それが欲しい!」


 ビニールハウス。それは地域によってさまざまな使い方をされていた代物だ。今回俺がグラミーに求めたのは、主に害虫を通さないようにするための物だ。欲を言えば温度管理なんかもできたらとは思っているが……。


 まず初めに虫取りを院の子供たちに協力してもらう。春や夏、秋の虫を捕獲する。アリアかダリアさんにコードを見てもらい、グラミーが魔法を組んでいく。成功すれば、結界のような物が出来て害虫は弾かれる。でも益虫はいつも通り通る事が出来る。そんな魔法のような物が出来るかも知れない。


「どう、出来そう?」


 そんな曖昧なイメージを伝えると、グラミーは少し自信なさげにコクリと頷いた。おそらく莫大な情報量になるだろうし時間もかかる。でもこれが成功したら無農薬でも虫に食われない野菜と米が完成できるはずだ。試してみる価値はきっとある。


「ありがとう! 頼んだ!」

「ん」

「でもご飯は絶対食べる事!」

「ん」




 それから雨も本降りになってきた事で出来る事が無くなった。休んでもとは思ったが、今まさに働いてくれている人がたくさんいる中、俺には休むという選択肢は無い。そのため、アリアの元へ向かう事にした。さらにコバトさんに、子ども食堂の相談をしたい。何か力になってくれるかもしれない。この孤児院で一人でも多くの子供たちが救えるように。


 時間は無限にある訳じゃない。早速出発しよう。


「って、サラ。びしょ濡れじゃないか」

「芽、なかなか出ないから心配で……」


 すぐにタオルを用意した。予想通り、花の様子を見に行っていたみたいだ。


「大丈夫、必ず出るから」


 サラの髪を拭きながら、何とか励ますのだった。


Next:協力

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