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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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固有コード

 夜に雨の音が聞こえた。しかし、朝見てみると地面はすでに乾いていていて、雨の匂いも通り過ぎていた。順調に育ち、今にも穂が出そうな麦の葉先には、朝日に照らされている露が宝石のようだった。

 畑を見ると、ネギの苗が20センチ程に伸びていて、植え替えをしてやらないと窮屈に見える。同じ時期に蒔いた孤児院の畑もそろそろの頃だろう。


 昨日、グラミーの引っ越しが何とか終わった。俺の腕も治り、アリアと常に一緒に居る事も無くなった。そのため、ジュリとミルさんが家に帰ってこれた。ロットにはいつも通り、運搬を。メセデとリラヤにもお店をお願いしている。ここ数日で、店番も様になってきた2人だった。

 俺の怪我のせいでみんなに負担を掛けてしまったので、その分働かないとな。


「やっと畑仕事が出来るな」


 サンドリンにもたまには顔を出したいが、ブロードさんも居る事だし焦る事は無いだろう。俺もやりたいことが山ほどあるし、それが終わってから向かうとしよう。



 まだ寒い時期に蒔いた種が、しっかり成長した苗を植えていく。ピーマンにトマト。枝豆は少しだけ種を蒔いた。さらに、ナスも植えていく。そして、水菜、チンゲン菜やほうれん草と小松菜の種も蒔いた。ケンさんから貰ったチソの種もだ。


「んー、地生えにするかー」


 きゅうりを植える際、ミルさんが前に作ってくれたネットを使うか、地面を這わせるか悩む。ただ、ネットは1つしかない点や、孤児院の畑もある事を考える。その結果、きゅうりはかぼちゃと同様に地面に寝かせよう。

 かぼちゃときゅうりを植える場所には藁を敷く事にし、蔓が摑まれるようにしていった。


 この日一日で、この作業が終えられたのも父のお陰だ。

 道具を片付けていると、小さなカゴを持ったジュリが畑に来た。家に帰った時は、流石に疲れた様子だったので心配していた。ただ今はいつものジュリに戻っていた。


「アグリー、お疲れさま」

「おぉ、ジュリ。昨日は休めた?」

「おかげさまで、一日ゆっくり休めせてもらった」


 ジュリには本当に助けてもらった。ジュリの能力を最大限使わせてもらったのだ。


「ありがとう、ジュリ。本当に助かった!」

「はいはい、また助けてあげる」


 ジュリがもうすぐ日も落ちてしまう時間に来たのは、野菜を分けてもらいに来た為だった。帰りにはもう暗くなっていたので、家まで送っていく。


「それにしてもすごい虫ね。野菜が穴だらけ」

「ごめん……、しっかり洗って食べてください」

「大丈夫、気にしないから」


 ジュリはそう言ってくれるが、今後野菜の質を上げて行くに際し、害虫対策は必須だ。特に米を作るとなると、その重要性は増す。前の世界と同じように無農薬で作る方法もあるが、この世界にどんな虫がどのくらい居て、それがどれほどの脅威となるのか分からない。手探りでやっていても時間が足りない……。


「虫にも固有コードあるのかな」

「何か言った?」


 ジュリが固有コードと発した。初めて聞いた単語だった。虫以外にはコードがあるのか?


「アリアちゃんの店で見つけたんだぁ。世界の物にはすべて、固有コードってのがあるんだって」

「人とか物とか?」

「人間にはあるって書いてあったよ。人が作った物は分からないけれど……」


 なるほど、つまり自然界の魔力が籠っている物にはコードなる物が存在すると考えていいのか。となると虫にもそれがありそうだ。


「あ、でもコードって言うけれど、認識できない人にイメージできるように言ってるだけだと思う」

「あぁ、そうか。魔法使いしか分からない物って事か」

「そうだと思う」


 もし、虫にも固有コードがあるとすれば、グラミーが魔法に組み込む事が出来るかもしれない。そうすれば、害虫だけを畑に近づけさせない事が可能かもしれない。賢治さんに農薬を作ってもらうよりも早そうだし、環境にも身体にもメリットがある。アリアに相談してみよう。


「ありがとう、ジュリ。良い事思いついた!」

「そう? 良かった。もっと美味しい物、期待してる」

「任せて!」


 ジュリを家まで送り届けて、帰途に着いた。


 家の前では、ちょうどロットが空き箱を下ろしていた。店での仕事が終わり、帰って来た所のようだ。


「ロットお疲れさま」

「おぉ、アグリ。聞いて驚け! 今日は完売だ」

「本当か! やったな!」


 少しずつ。本当に少しずつだが前に進めている。そんな実感が湧いてくる。1人では成し遂げられなかった。皆が居たから前に進める。



 次の日、俺は孤児院の畑に向かった。ダリアさん不在の中、子供たち全員が協力し自分より小さい子を世話している。そんな光景は微笑ましく、勇気を貰えた。


「すまん、遅くなった」


 孤児院の畑には草の一本も無く、綺麗だった。おそらくサラとアルタスが丁寧に草取りを行っていたのだろう。さらに約束通り肥料も撒いて軽く耕してもくれた。これですぐに植え付けできる。


「アグリさん、苗に水ってやった方が良いですよね?」

「んー、難しい質問だ。苗が欲しいって言ってたら水やりかな」


 アルタスは俺の訳の分からない返事に、ポカンと口を開けていた。俺にもよく分からないが、たまに聞こえるのだ。いや、聞こえる気がするのだ「喉乾いたー」と。まぁそんな事は置いておいて、一番分かりやすいのは、土の状況だ。乾いていれば水をやった方が良いだろう。逆にやりすぎると根が傷んでしまう。

 前の世界では苗を鍛えるため、水をぎりぎりまでやらないで、苗を鍛えるなんて事もやっていた。甘やかして育てるより、野菜本来の力を信じる事で、病気や環境の変化に対応できる野菜作りをしていたのだ。

 そうやっていろいろ試しながら失敗して成功する。そんな農業って案外楽しい物だ。


「アルタス、サラ。今日は忙しいぞ。準備は良いか?」

「ばっちり」

「任せてください!」


 しっかり靴を履き、手袋も装着している。アルタスはいつもの半袖だが、サラは日焼けを気にしてか長袖だ。日も強くなってきた頃だ。麦わら帽子でも作ってみようかな。

 今日行っていく作業の説明を開始しようとした所、孤児院の方から声が聞こえた。


「アグリさーん。私も手伝いたいでーす!」


 元気に声を掛けてきたのは、先日ここに越して来たライだ。サラとはすでにお姉ちゃんのように良い友達になってくれていて、孤児院での生活を楽しめているようだった。


「ライちゃん! 一緒にやろー!」

「うん!」


 サラが快く迎えて、畑メンバーが増えたのだった。


Next:楽しい!

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