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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第一章:幼少期
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情報収集

 しばらく晴れ間が続き、畑の水は抜け乾いた。これでほうれん草を蒔くことができる。


 俺は小屋にある牛糞を手に取り、畑へと向かう。本当は牛糞を堆肥にしたいところだが、それも今度挑戦してみよう。

 畑の隅から三メートル程、牛糞を撒く。鍬を短めに握り、撒いた牛糞を跨ぐように足を広げ立って、鍬を足の間に入れる。細かく爪を入れ前へ前へと進んでいく。折り返して同じように爪を刺し耕して行くと、1度目よりも爪が刺さり、より深くまで耕せる。この時、鍬を振り上げると爪に乗っている土が、顔や頭に掛かるので鍬を振り上げる事はまずしない。


 耕し終わるとふわふわの土が完成した。雨をたくさん含んだ事もあってか、土の質も良いように感じる。しっとりと程よい湿り気があってひんやり冷たい。耕した部分を囲むように、土を上げると高さ十五センチほどの畝ができる。


「こんなもんかな」


 一度腰をトントンと叩き、伸ばす。これをしないとこの歳で腰が曲がってしまう事にからな。水が溜まらないように畝の上を鍬でならしていく。それからすじを鍬の角で付けていった。

 前もってほうれん草の種を水に付けて芽出しをしておいた。それを付けたすじにパラパラと蒔いていく。出来るだけ平均的に、どこかが厚くなったり薄くなったりしないように。


「肥料は足りないだろうが何とか大きくなってくれ」


 この土の状況はどんなものなのか、この世界と前の世界で違いがあるのか。このほうれん草で判断しよう。だからと言ってせっかく苦労して蒔くんだ、少しは食べられる物が出来たら良いな。

 願いを込めて鍬でうっすらと土をかけていった。この世界にきて初めて一人でする農業だ。不安もあるしわくわくもする。


「俺にはこれしかないんだ」


 よしと心の不安を跳ね飛ばし、鍬を握る手に力を入れると後ろからロットの声がした。


「アグリー、父さん帰ってきたよ」


 ロットのお父さん『ロズベルト』さんは村の人が作った野菜を集め市場で売ってくれている人だ。村から野菜を運んでいるのはロットのお兄さん『ロスト』さんだ。この家族は村の人にとって大切で必要不可欠な家族だ。走って来てくれたロットにお礼を言った。出来ればロズベルトさんのアポイントを取りたい。


「ロット、ありがとう。話せる時間あるかな?」

「今日は家で休んでるから大丈夫、アグリが来るって言っておいたし」

「分かった、手洗ってから行くね」


 野菜を売るとなった時に具体的にどうするのか、話が聞きたくてロットにお願いしていたのだ。ロットの家族はいつも忙しく働いてくれている。話せるときに話しておきたい。

 ロットの紹介を通して俺はロズベルトさんに顔を見せる事になった。


「ロズベルトさん、こんにちは」

「アグリ来たか、大きくなったな。いつもロットと遊んでくれて感謝しとる」

「ありがとうございます」

「それで何を聞きたいんだ?」


 少し緊張してしまっている自分に、ふぅと息を吐き落ち着かせた。ロズベルトさんの目をしっかり見て話す。


「知ってると思いますが、俺ジェイドの畑を管理させてもらえるようになったんです。それで将来的に野菜を売りたいとも考えていて、どうすればロズベルトさんに売ってもらえるのか聞きたくて」


 野菜を売れるようになればミルさんも助かるだろう。俺が頑張れば誰かの助けになれる、そう思ったのだ。


「そうか、アグリは働き者だな。俺に野菜を売ってほしいならいくつか条件がある。これに同意してくれるなら、俺たちは野菜を売る」


 ロズベルトさんが挙げた条件はこうだった。


 ・俺が美味いと思ったものだけ売る。

 ・朝の五時までに売り物を馬車に乗せる。

 ・値段はこちらが決める。

 ・売れ残りは回収してもらう。

 ・売り上げの二割を貰う。


「村の人達がほとんどロズベルトさんに頼ってるけど、時期によっては同じ商品ばかりにはならないですか?」

「うむ、なる。だからみんな工夫していろんな種類を作ったり、質のいいものを作ろうとしているな」


 なかなか厳しい世界のようだ。しかし、村の人の生活もかかっているからか、ロズベルトさんも公平に扱ってくれていて、そこは安心だ。


「1つの市場で売っているんですか?」

「あぁ、基本的にフルトの市場で売っているが、クラリネが祭りの時はそっちに持っていくな」

「なるほど、ありがとうございます」

「参考になったかな? アグリの野菜楽しみにしているよ」



 ロズベルトさんの家を出て、考えながらデコボコの道を歩いていた。

 この村にとってロズベルトさんは必要な人だ。だが、もう少し工夫して村の人に安定したお金を稼がせる事ができないだろうか。前の世界ではどうしてたっけ……。



「ただいま」


 家に帰り手を洗って、妹のサラサラの髪を撫でた。相変わらず大人しい性格で、母か父が傍に居れば大泣きするような子ではなかった。


「お父さん」

「どうした?」

「ロズベルトさんに売ってもらう野菜ってどれくらい残って帰ってくる?」

「そうだな、日によって違うが、平均四割は残ると思った方がいい。もちろん全部売れることもあるけどな」


 予想していたよりもかなり売れ残ってる気がする。やはり商品が同じだと弊害も大きい。普通に農業をしていても高い売り上げを出す事は出来ないようだ。ならば、それをはるかに超える美味しい物を作るか、誰も作っていない物を作るか、それとも……。


「残った物はどうしてるの?」

「お母さんが食べられる物は調理してくれているな」

「そうね、でも一日店に並べてあった物だからすべて食べる事は難しいわね、量も多い時があるから、家族だけじゃね」


 ロズベルトさんや父に話しを聞くと、この村の経済は少し欠点部分があると感じた。在庫管理や売る場所が集中していること、野菜が余って廃棄処分になっていること。何より、農家それぞれの負担が大きい。野菜や米の質を上げることも重要だが、効率よく売ってお金にする方法を何とか見つけたい。農家の負担が減れば、モチベーションアップに繋がってそれだけ質が上がる事だろう。それなら俺は……。


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