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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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ベルナム

「私その女の子知ってます」


 ダリアさんにそんな事を言われ驚いた。あてもなく探すつもりが、こんなにも近くに情報があるとは思いもしなかった。時間短縮になりそうだ。すぐに知っている情報に耳を傾けた。


「と言いますか……、今日ここに居ます」

「――ん?」


 ダリアさんが近くに居たアビヤに呼んで来てと頼むと、駆け足で部屋を出て行った。

 ベルナムは時より孤児院に足を踏み入れていたらしい。親との関係がうまくいっていないと本人が言うみたいだ。腹を空かせて来た日もあったと言う。まだ三歳か四歳だったと覚えているが、そんな年で親との関係が上手くいっていないなんて不自然極まりない。予想した通りこの世界に呼び出されたか……。でも賢治さんとは違うのか? 疑問が残る。


 しばらくするとアビヤに連れてこられた女の子が部屋に入って来た。ベルナムも俺の顔を覚えていた様子で、部屋に入って来てすぐに声を上げた。


「あぁー! お前は!」


 相変わらずだなと思いながら挨拶をする。ダリアさんからベルナムの状況を軽く聞き、想像していたより元気そうで良かった。ひとまず、改めて自己紹介をした。


「よろしく。俺の事覚えてくれたんだ」


 軽く会話を交わした後、俺たちが置かれている状況を説明した。転生者と見込んで詳しく話した。ベルナムは静かに話を聞いてくれて、俺が最後まで話しきってから口を開いた。


「状況は理解した。棚田も実現可能だろう。しかし……、石はどうやって調達するんだ?」

「あぁー」


 俺の頭が働かなくなった。完全に忘れていた……。石の事なんかさっぱり考えていなかった。ぽかーんと口を開けて頭の中を整頓していると、アリアの大きなため息で現実へと戻って来た。


「アグリってそうゆうとこあるよね、何か抜けてるって言うか」

「いや……、本当に申し訳ない……」


 自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、ベルナムは笑顔で答えた。


「まぁ、その辺は現場を見て考えてみるか。その方が後先考えないおぬしの話を聞くより効率が良いだろう」

「そ、そうですね……」


 前の世界で数十年、この世界で十数年、今になっても立派な大人になるにはまだまだ、時間がかかるみたいだ。アリアや、ダリアさんはベルナムが妙に大人っぽいのを感じ取ったのか、苦笑いを浮かべているのが見えた。


「ただ、少しお願いを聞いてくれないか?」

「お願い?」


 ベルナムは近くにあった椅子に腰かけ、真剣な顔に変わった。話しやすいように俺達も椅子に座って、ベルナムが話し始めるのを待った。

 ベルナムが話してくれたのは、2つのお願いだった。


「まず、友達を助けてほしい」

「友達?」

「あぁ、家の近くに住んでるんだが、ちょっと変わった奴でな。皆から避けられてるんだ。でも悪い奴じゃない」


 こればっかりは会ってみないと分からないが、俺で良ければぜひ友達になりたい。ベルナムによればその子名前はグラミー。俺より年上の男の子だそう。会うのが楽しみだ。


「もう1つは?」

「姉と一緒に、ここに住ませてほしい」


 そういえば、姉らしき人の顔を思い返す。初めて言葉を交わした時、名前を呼んでいたのが姉だろう。

 孤児院に住むのは、全く問題は無いが。俺が口を開こうとすると、ダリアさんが思っていた同じ事を話してくれた。


「ここに来るのは大歓迎です。でも、子供だけの判断ではこちらは『はい』とは言えません」

「あぁ、分かってる。だから親と話を付けに行く」


 不安そうなその表情に何が隠されているのか。どんな事情があるのか俺達も知る必要があるだろう。もしかしたら、姉妹揃って心身ともに傷ついているかもしれない……、そんな事は容易に想像できた。


「一緒に行くよ、ね? ダリアさん」

「はい、もちろんです」


 ベルナムの話を聞き、お願いを聞き入れる事が決まった。親の件はどうなるかは分からないが、最善を尽くすと約束した。

 雨が小降りになった後、サラ達、畑チームと畑の様子を見に行ったり、種を蒔いたけど芽が出ないと言われた場所を見に行った。普通は2日程度では芽は出ないので問題は無い。もう少し気長に待つようにと伝えた。


「なぁ、おぬしも別の世界から来たのか?」


 急に後ろからそんな言葉が聞こえてビクッとしてしまった。別に隠すほどの事ではないが、急に言われると警戒してしまう。急いで振り向くと予想通りベルナムだった。


「どうしてそれを?」

「畑に詳しいし。棚田とかは、この世界には無さそうだからな」


 ベルナムの言葉に間違いもないし、隠す必要も無いので、その通りだと伝えた。少し嬉しそうなベルナムは、自分も前の世界の記憶があると教えてくれる。話を聞くと俺が生きていた時代より、昔のようだ。きっと職人だったんだろう。


「昔、棚田を作ったり、城も建てた」

「えっ!?」

「まぁ、日雇いのいち働き人だったがな」


 今は可愛い女の子なのに、その姿からは想像も出来ない過去を持っていた。驚きと好奇心からたくさん質問をして、昔の話を聞いた。ベルナムが過去に作った物の中には、観光地になっていたり、素晴らしい景色を楽しませてくれる場所になっていた事を伝えた。聞き覚えのある場所もあったからだ。


「そうか、嬉しいな」

「この世界で作る俺達の棚田も、すごい物になるよ、きっと!」

「あぁ、やってやるか」



 この日俺たちは、ダリアさんとベルナムを連れて、暗くなる前にアリアの店まで戻る。明日、ベルナムの友達と親に話を聞くとしよう。明後日には、サンドリンに戻れるかな。


「アリア、そろそろ行こうか。ダリアさんも大丈夫ですか?」


 四人で外に出て、馬を繋いでおいた場所に向かう。その時俺は思い出したのだ。


「ねぇ、アグリ……」

「アリアさんや、俺も忘れてたから悪いけど、今回はアリアも忘れてたよね?」

「うん……」


 アリアは顔を隠しながら答えてくれた。外には馬が一頭……。4人は無理だ。お金を払って馬車移動したのだった。

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