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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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鍵のかかった書庫

 昼の食事を終え、アリアと馬に乗った。馬車は特に荷物も無いので置いていく。別にアリアにくっつきたいと言う理由ではない。たぶん絶対……。でも夕方は寒いのでくっついた方が温かいかもしれない。風邪をひかない為だ。

 なんて思いを吹き飛ばすように、俺の後ろに乗ったアリアは、遠慮なしに後ろから強く抱きしめてきた。


「なーに? 今更恥ずかしいのー?」


 マリーさんがちゃかすように言ってくるが、今更も何もいつになっても恥ずかしいだろ。


「それじゃ、行ってくるね」

「気を付けて」


 リリアンが寂しそうに見つめる中、俺たちは孤児院に向けて出発した。


「2人で馬に乗ったのって今日が初めてじゃない?」

「そうかも! 落っこちないでね」


 いつもより大きな声で喋りながら馬のスピードを上げていく。



「うそー」

「降って来たな……」


 孤児院に向かい、馬を走らせてから十数分が経過した頃、風と共に厚い雲が流れてきて、雨が降って来た。後ろに座るアリアは、遠慮なしに俺の体を雨除けとして使っている。まぁそれは良いのだが……。


「どこかで止まる?」

「んー、アリア寒くない?」

「私は大丈夫!」


 アリアがそう答えたので止まることなくこのまま孤児院まで向かう事にした。空を見ても雲の切れ間が無く、何処かで雨宿りしても寒くなるだけだと思ったからだ。アリアが大丈夫なうちに着けばいいが。

 それから俺たちは馬のスピードを上げて孤児院まで突き進んだ。


 ポタッポタッと、雨水を滴らせながら、やっとの思いで孤児院に到着した。


「アグリさん、それにアリアさんまで。すぐにお風呂用意します」


 これはまた迷惑を掛けてしまった。


「アグリお兄ちゃーん! 良かった、帰って来たー」

「ただいま」


 サラが一目散に駆け寄って来た。


「あんまりくっつくなよ、サラの服も濡れちゃうから」


 しばらくサラたちと話していいると、ダリアさんがお風呂の用意が出来たと教えてくれた。かなり体が冷えてきたためありがたい。俺は、子供たちと話しているアリアに向かって、先に入ってと伝えた。するとポカンと口を開けて首を傾けている。


「何言ってるの、早く入らないとまた風邪ひくわよ」


 そう言ってアリアは俺の手を引いて、お風呂場へと歩きだす。


「え、ちょっと? アリアさん!?」


 逃がさないと言わんばかりに引っ張られ、気付けば脱衣所に立っていた。

 するとアリアは何も気にする事なく、雨で濡れてしまった服を脱ぎ始める。アリアがいつも着ている服は紐で縛られている箇所が多く、一か所ずつ解いている。


「あのー、一緒に入るんですか?」

「そうだけど、嫌なの?」

「いえ、決してそう言う訳では……」


 アリアってたまにすごく積極的になるよな……、なんて事を思う。いくら婚約者とは言え、恥ずかしいと思わないのか。それがアリアの性格的な物なのか、それともこの世界の文化的背景がそうさせているのかは分からなかった。


 それから必死で恥ずかしさや緊張を抑えてお風呂に入り、体を暖めた。



「ありがとうございます、ダリアさん」

「良く温まりましたか?」

「えぇ、ぽかぽかです」


 アリアとダリアさんにお礼を言って、温かいミルクを貰って飲んでいる。心も体も暖かい。しばらくの間雑談をや、サンドリンの事を話ていた。

 俺はタイミングを見て、ダリアさんとアリアに相談を持ち掛ける。


「今日は相談があって来たんです。アリアにはすでに話してはあるんですけど……」


 そう言って、ダリアさんに説明をしていく。四人の学校に行っていた魔法使いの扱いを悩んでいる事。その選択は俺達のコポーションも孤児院も守る事になると話した。


「なるほど……。魔法使いさんを、ですか……」

「はい、すべて禁止と言うより、制限とかが良いかなと思うんですけど」


 ダリアさんは首を傾けながら考えている。でもすぐにいい案が浮かぶことはなかった。しかし諦める事は無く、ある提案をしてくれる。


「書庫を見てみましょうか」


 アリアと3人で書庫まで歩く。孤児院には何度かお世話になったが、書庫があるなんて知らなかった。ダリアさんによると、部屋に入るのも久しぶりだと言う。


「普段は鍵を閉めているんです、子供たちもほとんど入った事ないと思いますよ」

「鍵……」

「どうしたの?」


 アリアに何でもないと伝えたが、少し気になった。魔力ってどこから湧くのだろう……。


「ここです」


 廊下を奥に進むと、一枚のドアの前で止まった。そこはこの建物の中央より少し奥の部屋だ。

 ダリアさんが大事そうに握っていた一本の鍵を回し、ドアが開いた。


「すみません、あまり清潔ではないかもしれませんが……」


 そう言ってから中に入った。

 この部屋には窓が一枚も無く、光が入らない。そのためアリアが持っていた魔石で部屋を照らした。すると部屋の全体が見えて驚く。部屋の四方八方に本が積んであるのだ。数百冊いや、千はあるかもしれない。俺の身長をゆうに超えている箇所もあった。

 この世界で初めて本を見たのは、妹が学校に通ってからだ。そのため、本はこの世界で貴重な物と思っていた。


「ねぇアリア、この本集めるのに全部でいくらかかる?」

「何? そんなの気になるの? そうね……」


 アリアはざっと頭の中で計算し、耳元で教えてくれた。


「小さな家が建つくらいね」

「まじっすか……」


 思わず昔の言葉が口から出てしまった。そんな希少で価値のあるものが、ここにずらっと並んでるとは……。

 すると聞こえていたのか、ダリアさんは小さく笑っていた。


「古くて状態が悪い物も多いからそんなにならないと思いますよ。でも売らなくて良かったです」


 その後アリアとダリアさんは、目的の本を探す。俺もこの世界の本には興味がある。貴重な物なので丁寧に一冊の本を手に取った。タイトルは『魔力の根源』いかにも、というか絶対難しい。

 埃っぽい空間で、うっすら白くなっている床に座り本を開く。そこには魔力とは何なのかを研究した結果がずらりと並んでいた。おそらく一人の研究結果ではなく、いろんな研究者の言葉が並んでいる。論文集のような物か。


「え? そうなの!?」

「どうしたの?」


 本に書いてあったことが初耳で驚いた。これは俺にも当てはまるのだろうか……。


「アリア、魔力って魔法使いじゃない一般の人にも存在するって本当? 俺にも?」

「えぇ、微量だけどほとんどの人に魔力は存在するわ」


 おぉ。俺にも魔力が。そういえばなんとなく体の奥底から漲るものを感じる気がしていたんだった。俺にそんな可能性があったなんてな。もしかしたら、簡単な魔法なら使えるようになるかも。水を出したり、火を出したり。良いね、夢があるね。


「その……、笑ってるとこ申し訳ないのですが……。アグリさんには魔力を感じないのです」

「え……。それってどういう事ですか、ダリアさん!」

「実際に数えたわけではないので正確じゃないのですが。数百人にひとりは居るそうですよ、一切魔力を持たない人って」


 俺は、夢も持てないのかと肩を落とした。そんな俺を見て大笑いしながら背中を叩いたのはアリアだ。


「そんな逸材が近くに居たなんて驚いたわ」

「そういうのってダリアさんにしか分からないの?」

「えぇ、私には分からないは。魔力を感じて操る事が出来る、白魔女のダリアさんにしかね」


 なるほど、やっぱりすごいなダリアさんは。


 しばらくの間そんな話をしながら本をパラパラとめくった。

 魔力とは、自然界のエネルギーのひとつ。それを人間が吸収または摂取することにより人間の中心に魔力が蓄積される。それを外に力として排出可能なのは、その回路が存在する魔法使いだそうだ。母の胎で回路を作りだした時に浮き出るのが体のどこかにある紋章との事だった。


「なるほどね」


 次に目を引いた本を手に取った。タイトルは『魔法の作り方、基礎編』だ。魔法って作れるのか? 確かアリアかルツが、オリジナル魔法がどうのこうのって言ってた気がする……。授業でも習うのかもな。


 本のページをめくる。とはいっても専門用語も出てきて、何を言っているのかさっぱりだ。ただ面白い部分もある。意味は同じく理解できないが、一字一字は読めるが、その中に、記号や数字。何かのマークのような文字も並んでいる。


「なんだこれ……」


 気になって寄って来たアリアに、それを見せるとまた笑った。


「分からないでしょこれ、懐かしいなー」

「何なのこれ、見た事ない文字もあるけど」

「これね、単語単語に意味があるのよ」


 アリアは本の文字を指さし、これが日とか、これが水。こっちが混ぜるとかという風に意味を教えてくれた。


「これを組み合わせて魔法を作るって事?」

「そうよ、覚えるのも大変だし。どれをどんな強さにするのかって調整も必要なの」


 なるほど。なんとなく分かった気がした。俺には経験が無いが、プログラミングみたいな感じだろうか。たくさんの意味のある単語を並べて、作品を作ったり、思うように動かしたりする。一般の人には何をやっているのかさっぱり分からない点も似ているな。

 この世界の魔法もそうやって作るのかもしれない。魔力の無い俺にはさっぱりだがな。


「これって例えば俺でも作れたりする? この単語を勉強して」

「まぁ、可能ではあると思う。でも大変よ? 感覚とかセンスの問題もあるし」

「そうなんだー、でも面白そうだからやってみる!」


 出来そうなのは結果が出なくてもやってみる価値はあるだろう。まぁ、優先順位は低いが……。何か農業に関係する魔法でも作れたら面白そうだ。それにダリアさんによると、人間はもちろん、木や草、石になんかも魔力があり、白魔女ならそれが分かるそうだ。


「ありました!」


 書庫に聞き覚えの無い透き通った声が響き渡った。顔を上げると嬉しそうに笑うダリアさんが一冊の本を持っていた。その表情で分かる、目的の物が見つかったみたいだ。


「何が書いてるんですか?」


 ダリアさんにアリアと近づくと、三人で開いた本を囲んだ。ダリアさんが「ここ」と指さす箇所には魔力制限なるものが書いてあった。

 ダリアさんは文字を読みながら分かりやすいように解説してくれた。


「ここにあるのは、さっきも話していた、回路を遮断する物です」

「なんか危なそううに聞こえる」

「まぁ、身体的苦痛は無いです。ただ魔法使いの体が魔法を使う為に出来ているので、定期的にしなければなりませんが……」


 そうなると、魔法をかけた相手は一時期間魔法を使えないのか……。もし緊急で、または良い理由で魔法を使いたい時に使えない場合があるな。

 自分勝手な考えなのは重々承知だが、もう少し緩和しても良いのではないだろうか。それが村の発展や、取引相手としてのメリットにもなる事だってあるだろう。


「ダリアさん、もう少し緩めの制限方法は無いですか?」

「と言うとどのような……」


 俺も正確には分からないが、なんとなくのイメージを伝える。


「例えば、奥から湧いてくる魔力に鍵を掛けたり……」

「鍵……、ですか?」

「はい、ブロードさんの許可があれば魔法を使えるようにするとか」


 ダリアさんはまた頭を悩ませながら本のページをめくっていく。


「アリアがルツのためにくれた魔石みたいに制限は出来ないの?」

「アグリ、あれは私が作った物じゃないのよ。魔獣からたまたま力宿った魔石が出てきた物なの」

「そうなんだ、それってかなり希少性の高い物なんだね」


 軽く頷いたのは、アリアが俺達を気遣ってくれているからだろう。今買おうと思っても手に入らない物らしいから。


「これなんかはどうですか?」

「これは! 良さそうですね」


 そこに記されていた魔法は、紋章に制限を加える物だ。これにより、好きに魔法は発動できなくなる。ただ、その制限は第三者によって解除も可能だ。デメリットは制限を受ける人の同意が必要な事だ。


「問題ないと思います」

「良いわね、やってみましょう」

「では、準備しますね。次に村に行く時、私も一緒に行きます」


 そんな打ち合わせをして書庫を出た。オリジナル魔法を作るのに何冊か借りて読んでみる事にもした。楽しみだ。

 部屋に戻って明日からの予定を決めていく。最近会ってないので賢治さんの顔も見に行こう。


「アリア、探したい子が居るんだけど」

「探したい子?」


 アリアもダリアさんも不思議そうにこちらを見る。その子を探したいのは、サンドリンを復興していくためだ。何とか見つけ出して、石を積んでもらいたいのだ。あの時見た頑丈なミニ石垣。あれはれっきとした職人の技だ。


「ベルナムって女の子。アリアの家から帰る途中で見たんだ」

「知らない子ね、他に特徴は?」

「詳しい事は分からないんだ。お姉ちゃんらしき人が居たのは覚えてるけど」


 記憶を頼りに、顔の特徴や髪、身長などを話した。するとダリアさんが急に立ち上がる。俺もアリアも一斉にダリアさんを見た。


「私、その女の子知ってます!!!」

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