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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第三章:成長期
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優しさ

「あぁー、そ、そうだな。俺はやりたいことがあるから残るよ。アグリも戻ってくるだろ?」

「あぁ、準備が整ったらまた戻ってくるよ」

「じゃあ、そうする」


 朝ご飯を食べている間に、ロットに声を掛け帰るかどうかを聞いた。少しきょろきょろしながら答えてきたロットは、何かしたいことがあるみたいだ。まぁ、帰った父が、ロットの父に一言入れてるだろうし大丈夫だろう。


「それじゃあブロードさん。よろしく頼みます」

「うん、気を付けて」


 荷物の乗っていない馬車に、俺とアリア、さらにミルさんと医者二人を乗せて村を出た。と思っていた……。


 馬車にもう一人乗っている事に気づいたのはジンさんに挨拶をする為、馬車を止めた時だった。


「喉乾いた……」

「水なら馬車に乗ってるだろ?」


 知らないはずのないアリアがそんな事を言ってきて、不思議に思いながらも答えるとアリアも俺と同じように不思議そうな顔をしている。


「今の声、私じゃないわよ?」

「――え?」


 見つめ合いながらまさかと荷台を見てみると、余った毛布が動いている。


「誰だ!」


 そう言って勢いよく良く毛布を引っぺがすと中から、あくびをしているリリアンの姿があった。


「リリアン、君って奴は……」


 はぁ、とため息を付きながらリリアンを馬車から下ろした。とりあえずジンさんから頂いた水を飲ませる。リリアンから話を聞くとわざと付いてきた来たらしい。


「村の誰かに言って来たのか?」


 リリアンは首を横に振った。


「リリがいなくても誰も困らないもん」


 何かデリケートな事情がありそうな言い方だった。深い悩みもありそうだ。だからと言って村に無言で一人の少女をしばらく預かるのもダメな気がする。かと言ってまた村に戻る時間的余裕はない。これはどうした物か……。


「本当に大丈夫だよ? 誰も心配しないって」

「リリアン、もしそれが事実だとしてもそうはいかないんだ。これからサンドリンと信頼し合う関係になる。それでどんな些細な事でも信頼できる人間か示す必要があるんだ」


 リリアンは「そうなの?」と良く分かって無さそな顔を向けた。

 リリアンをどうするか、悩んでいるとアリアが「私が戻ろうか?」と言ってくれた。


「いや、アリアは一緒に居てほしい」


 ジュリの事もダリアさんと魔法使いの対策も話し合いたいため、今アリアが居なくなるのは痛手だ。


「俺がひとっ走り行ってこようか?」


 そんな声を響かせたのはジンさんの息子、ケンさんだった。ありがたい提案だが本当に良いのだろうか……。それにジンさんからも了承を貰わないと……。


「構わんよ」

「ジンさん!」

「ブロードも居るんだろう? 活を入れてこい」


 ジンさんとケンさんの会話を聞いていると、ブロードさんと知り合いみたいだ。


「もう、本当に何から何まで頼りきりですみません」

「いいさ、その代わり――」

「働きます!」


 そんなこんなでまた頼る事になった俺は、甘えと思いつつ俺の働きで還元しようと心に決めた。死ぬまで頭が上がらないな。リリアンはどうしても付いてきたいらしく、ケンさんにはブロードさんかロットにそれを伝えてもらう事になった。


 出発の準備が整い、みんなが居るのを確認して馬車を出した。今度はアリアの家だ。ジュリも心細いだろう、出来るだけ早く向かおう。


 日が高く昇り、少し汗ばむ陽気になった。朝羽織って来た服を一枚脱ぎ、馬車の風に当たった。


「ただいまー」

「アグリ! アリアちゃんも! 良かった、帰って来た……!」

「ジュリ、お仕事は出来た?」

「お母さん!」


 医者を途中で降ろし、無事に到着した。ジュリはいろいろ聞きたそうだったが、母と友達の帰りを喜んだ。余程心配していたのだろう、母に抱きついた時には頬にきらりと光るものが見えた。

 少し落ち着いてから、アリアはジュリに店の状況を確認しに行った。ジュリを見ると特に問題はないみたいで安心した。魔石や魔法についてある程度知識があり、計算も特異なジュリだ。上手く仕事をこなしていて俺も嬉しい。


「アグリ君、お疲れ様」

「マリーさん、ありがとうございます」

「ジュリがお世話になってます」

「良いのよ、娘が増えたみたいで楽しかったわ」


 マリーさんは明るく接してはくれたが、内心はかなり心配してくれていたみたいだ。サンドリンの状況も気になって聞いてきた。もちろんアリアを預かってる身として責任を持って説明をした。


「そう、結構大変な状況ね。でも少し安心したわ」

「安心?」

「アグリ君が走って村に行かなくて」


 俺の頭をポンポン叩きながらそんな事を言ったマリーさん。もう本当にそのことは忘れてくれ……。まぁ、マリーさんやアリアにとってそれは忘れられない出来事なの百も承知なのだが。


「ご飯食べて行くでしょ? 準備するわね」


 そう言ってマリーさんは部屋の中に入って行った。

 それとほぼ同時に店のドアが開き、これまた見知った顔が見える。ただいつものイライラとはレベルが違うような。帰って来ても次から次へと忙しい物だ。


「シャウラさん!」

「おいアグリ、どうゆう事だ。あいつらが居なくなったぞ」

「手紙は見ましたか?」

「あぁ見た。読んだ次の日に居なくなった」


 何のことかさっぱり分からないミルさんは、ぽかんと口を開けていた。

 この話は一部の人しか知らなくていい話なので、場所を変えるように提案し店を出た。


 外に出て手紙に書いた事より詳細な情報を話した。またサンドリンについても話す。


「そうか……。その行動は危険がある事も承知なんだな?」

「はい、承知の上です」


 相手は魔法使い、敵対しては俺なんかが勝てるはずもない。もし奴らが受けた仕打ちを俺に返してきても、それは俺の責任だ。何の問題も無い。一番は仲間を守る事。それが俺の一番気を付けなければならない事だ。その為この復讐に関して知る人は最小限にした。


「そうか……」


 シャウラさんはまだ納得していないみたいだが、それも優しさなのだろう。


「ルツはどうですか? 元気にしてますか?」

「あぁ、シャーロット先生によれば休み明けから元気になったそうだ」


 良かった、それを聞けて安心だ。

 その後白魔女についても話を聞き、今は怪しい動きをしていないらしい。もし加担していた生徒がいなくなったことで抑止力になっているとしたら御の字だ。


「シャウラさんこの事はルツには……」

「分かってる」

「お願いします」


 その後、マリーさんが用意してくれたご飯を皆で食べた。何故かシャウラさんも俺の隣で食べていたのが気になるが、マリーさんが良いと言ったので良いのだろう。


 さて、次に向かうは孤児院だ。サンドリンに居る初心者魔法使いについて話し合わないと。

Next:鍵のかかった書庫

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