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腹が減っては戦はできヌ  作者: らぴす
第一章:幼少期
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「腰がぁ」


 畑に溜まった水を抜こうと畑の中で、排水路へとつながる川を作っていた。


「なんかこう、魔法とかで出来ないかな……」


 そんな事を思いつき、アリアお姉ちゃんの真似をするように手を広げる。なんか良く分からないが、手に魔力を集中させてここにある水を動かすようなイメージをしてみる。すると寂しい風が吹いて水が動いた。

 魔法を使ってみたい俺のささやかな夢は届くことなく、相変わらず身体が悲鳴を上げている。腰を叩きながら、川をある程度完成させて水の流れを確認した。


 良い感じに水の流れは田んぼの外へと向かって行く。こんなもんかと周りを見ると畔に開いている穴で崩れているのに気付く。モグラだろうか……。

 

「土が濡れてる間に、畦も塗っておくか」


  まだまだ仕事が山積だが、今の歳ではやれることが限られている。米作りはもう少し先になりそうだ。そういえば、ミルさんが小屋にある物も使ってくれていいと親切に言ってくれた。何があるのか把握しておく必要がありそうだ。


「アグリー、お疲れ様ー」


 声を掛けてきたのはリユンだ。手を振り返しながら向かった。


「ここ借りられたんだってね。良かったじゃん」

「うん。ちゃんと管理していきたい」

「アグリはすごいな、俺なんか逃げてばっかり。実は今も」


 リユンの家は代々大工だ。リユンも華奢な身体だが手先が器用で、余った木材を使って模型やおもちゃを作っている。何回か見せてもらったが真似できないほどの物だった。最近は趣味の域を超えて、お父さんやお爺ちゃんに家具の作り方を教わっているそうだ。


「リユン、こんなの作れないかな?」


 リユンに前から欲しいと思っていた道具の絵を、落ちていた木の棒で地面に描いて見せた。


「これは?」

「ここの長い場所を持って引きずりながら歩くと、歩いた場所が平らになる『とんぼ』って道具」


 畑や学校のグラウンドをならしていた、T字型のレーキとも言われる道具だ。こいつがあれば鍬でならす手間がなくなる。時短に繫がりそうだ。


「このくらいなら作れそう。やってみるよ」

「助かる。ありがとう」


 物作りの得意な友が居て本当に助かる。これからもたくさんお願いすることになるだろう。心強い。

 リユンは近くにあった小屋を羨ましそうに覗き始めた。


「この小屋は使っていいの?」

「うん、自由にしていいって言ってくれた」

「俺の隠れ家にしようかな」

「整頓、手伝ってくれるなら良いよ」

「それくらいお安い御用だね。作った家具に片付けよう」

「それは楽しみだな」


 4人の秘密基地。良いな、楽しそうだ。


「リユーン!」

「爺ちゃんだ、そろそろ行くね。仕事頑張って」


 談笑していると遠くから声が聞こえ、リユンは手を振りながら走って行った。リユンはきっと良い大工さんになりそうだ。お手伝いもしているし、アドバイスは素直に受け取る謙遜さも持っている。友達になってくれて本当に嬉しい。


 リユンが戻りしばらく休憩してから、小屋を見て回った。それほど大きくないが、使えそうな道具がたくさんしまってあった。鍬や鎌、爪が三本ある三本鍬もあった。隅にある袋を開けると、牛糞だった。


「これはありがたい、大事に使おう」


 奥には小さな机があり、引き出しには小さな封筒のような袋がいくつもあり、手に取るとカシャカシャと音がする。裏にはそれぞれ違う文字が書かれてあった。


『ほうれん草』『きゅうり』『玉ねぎ』『瓜』


「種だ!」


 野菜を作るのにもお金がかかる。その1つが種や苗の購入だ。市場で売っているのは知っていたが、父や母には出来るだけ頼らずやりたかったし、お金の面でミルさんに迷惑はかけたくない。これだけの種があるなら初期投資分を稼ぐには十分だ。


「ありがとうジェイドさん。責任を持って育てます」


 作った物は必要なだけミルさんにあげるとして、多少は売り物にしないと継続的に管理するのは難しくなるだろう。販売するにはどうしたら良いのか、父に聞き込みと市場に出しているロットの父にも話を聞いて情報を集めないと。

 それに安定的な生産にはやはり肥料が必要だ。牛糞は牛を育てている家がたくさんあるから比較的簡単に手に入るだろが、肥料の三要素『窒素』『リン酸』『カリ』をなんとか手に入れたい。これは科学がないこの世界で手に入れるのは難しそうだが魔法や魔石でなんとかならないだろうか。その辺りも勉強しなければ。


「試しにほうれん草、蒔いてみるか」


 今蒔けば雪が降る前には収穫できるし、葉の様子を見れば土の状況も分かる。試す価値は十分あるだろう。このまま晴れが続けば明後日には蒔けそうだ。



 次の日。瞼を開けなくても耳に伝わる音。


「雨じゃねぇかー!」


 頭を抱えながら腹の底から叫ぶと、驚いた父が心配して顔を覗かせる。


「どうしたアグリ。そんなに落ち込んで」

「今日の作業が出来なくなった」


 父は雨を笑い飛ばすように大きな声で言った。


「はははっ、残念だったな。それも農業だ」


 そう、これも農業だ。自然には敵わない。抗うことなく受け入れて共存していく。そうゆうことも農業には大切だ。

 少しづつ取り組んでいこう。焦る必要はない。前の自分と違って、自分で選び行動しているのだから。


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