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∞54【『血』は、どうしようも無い】

≈≈≈


≈≈≈


 大きな紅い月がディオアンブラ村を照らしている。


 空気の層の厚みの変化で大きく見えているのか、それとも見る人の『ただの錯覚』なのかは分からない。


 しかし、これから先。

 ディオアンブラ家に起こるであろうことに注目して、天の眼がこっそり覗き見しながら矯めつ眇めつしてでもいるかのように。

 今宵の月は、特に大きくて紅い。



「……どうですか、伯爵様?二人の様子は?」


 夕食後のお茶を飲みながら、母が父に訊ねた。

 今、アゾロとエミルは、二人仲良くお風呂に入っている。


 コーヒーを飲みながら、父が母に応える。


「うん。強くなるよ二人とも。オレ達の子だし」


 簡潔に母に応えて、コーヒーを(すす)る父。


 家族の中でコーヒーを飲むのは、父だけだ。

 この父は、『……葉っぱからできているお茶よりも、マメからできてるコーヒーの方が(うま)い気がする。だって“葉っぱ”対“実”だし』という訳の分からない理屈でコーヒーを飲み続けている。でも、すごく喉が乾いている時にはお茶を飲みたがる。


 母は父の嗜好に口を出さない。

 伯爵様の権力を使えばコーヒー豆なんていくらでも手に入るのに、この父は自分で()った獣の肉や毛皮と交換して嗜好品を(あがな)っている。

 そういうところ、父は少しだけ誇り高い人物でもあり、母が父を好むところでもある。



「『血』、かしらね……」


 少し不安げに母がそう言った。

 母も少女時代に、『血統』に悩んだことがある。

 血統は、時に本人の気持ちや能力を無視して、他者から一方的に利用される。


 父と母は、ほんの少しだけ変わった血統の元に生まれてきている。そして、そのことは子供達の将来にも大きく関わってくることだろう。


 自分の子供達になにも起こらなければいい、と母は思う。せっかく平和な時代になったのだから、ずっと平和が続いてほしいと願う。


「……『血』は、どうしようも無い」


 コーヒーを啜りながら、父が応えた。

 この父もまた、少年時代に血統に悩んだ者の一人だった。しかし、父の思考はシンプルなものだ。


 血は、どうしようも無い。

 ならば、逃げるか、闘うか。

 自分で選べるくらい、まず強くなればいい。


 自分がそうするしかなかった父は、そうとしか考えられない。


 ただ、人の親として。

 まだ(おさな)い自分の子供達には、できるだけ長く幸せな時間が続くことを願う。


 それが父と母とに、共通する思いだった。




…To Be Continued.

⇒Next Episode.

≈≈≈


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