パミィ①
第2章 パミィ
<スペースインパルス>と<エスメラルダ>艦隊はオリオンステーションを離れた。
インパルスは航行しながら修理を続けている。
作業を指揮するニコライの所へガルムが手伝いに来る。
「えらくこっぴどくやられたもんだな」とガルム。
「敵の主砲クラスならバリアーと装甲で防御可能だが、同箇所を連続的に攻撃されては・・。言っとくが、これでも被弾率は10%以下だ」
「ヒュー。回避率9割?サライも腕を上げたな」
「いや、操縦していたのはルーキーだ」
「・・あいつか」
鉄格子の中に入ってるあいつ、弓月明。
「腹減ったなー」
医務室。
救出された少女は透明な強化ガラスで囲まれた特別病室で眠っている。
長い赤髪に整った顔立ち。身長から10歳位だと考えられるが大人びて見える。
病室内で麗子がモニターをチェックする。ナース服だ♡
Qと流艦長とエスザレーヌが現れる。
敬礼する麗子をQはガラス越しに制してふたりに説明する。
「DNAはエレーヌさんとほぼ一致、同じ種族は間違いない」
「この子がエレーヌと・・」
三人は少女を見つめる。
「あ!」
少女が目を覚ます。
「!!」怯えの表情を見せる。
「大丈夫。怖くない。ここは安全だよ」ナトウがなだめるが、
「あああああ・・・」少女は興奮して暴れる。
「流、ちょっと出てくれ」
Qはそう言うと病室に入る。
流啓三は何で俺がとしぶしぶ視界の外へ。顔がいかついから。
Qが「言葉、分かるかい?」
少女がうなずく。
「お名前は?」麗子が尋ねる。
「・・リイン」
中央作戦室。
メインスタッフが集まっていた。特別にエスザレーヌと美理も。
まずQが報告する。
「リインの故郷アルテカ星は銀河系外縁のデルターン球状星団の先にある。現在地からの距離は約2万8千光年。星は敵の攻撃を受け、彼女は人質にされたそうだ」
「敵?トスーゴか?」ニコライが尋ねる。
「そうなりますね」ロイが答える。
エスザレーヌが挙手する。
「アルテカ星は<銀河連合>に加盟していませんが、記録にはあります。“発展途上星”として経過観察されていたはずです。昔の地球のように」
アランが「これから見ていただくのは明のメモリーアナライザーの映像です」
明は<ドプラス>の艦橋にテレポートした。
「あっ」美理は思わず声が出る。あわてて口を塞ぐ。
暗くてよく見えないがかなり広い。この作戦室より広い。艦橋と言うより会議場か。
壁も天井も床もスクリーンとして外の映像が映し出されている。
「重力0.95G、気温19℃、気圧1000Hpa、空気成分・窒素75%酸素24%・・」
アランが明の腕時計端末に記録されていたデータを読み上げる。地球環境に近い。
バッタのようなトンボのような頭部をした直立歩行型の緑色の異星人が7体、カプセルの様なものに少女リインを入れている。リインは気を失っている。
明が銃を構える。あっと言う間に7体の昆虫人を倒す。
「すごいな」ロイが感心する。
明がリインに近づく。手を取りテレポート・・・そして帰還した。
「この虫の様な人の様な連中がトスーゴ?」
「そうなるな」
「いや結論付けるのは早すぎる」
皆が流の方を見る。視線の集中を受けた流は咳払いして「続けてくれ」
映像が変わる。緑色の何かの絵。
「これは?」
「明が描いたリインを捕らえていた異星人の絵です」
「いや・・要らんだろこれは」 「下手すぎる」
美理はなぜかちょっと恥ずかしい。下を向いて赤くなる。
隣のエスザレーヌは微笑みながら、「外骨格の昆虫型の様ですね。<銀河連合>にも彼らに似た種族がいます」
「破壊した大型要塞艦から死体を回収、調査中です」
「トスーゴ?」また誰かが言う。
「・・・」
「質問があります」リュウが手を上げる。「明がテレポートした時、本艦の対ESPシールドは?切ってあったんですか?」
「いや、正常に機能していた」アランが答える。
「!!」 「バカな」
「じゃあ奴は対ESPシールドを破って敵艦にテレポートし、戻って来たと言うのですか?」
「怪物か」誰かが言った。
美理はぴくりと反応する。
「ロミ、君の意見は?」アランが尋ねる。
「驚いています。正直に言うと、私でも対ESPシールドを破ってテレポートで出る事はなんとか可能です。けれど戻って来ることはできません」
「対ESP対策を強化しないといけないな」
<地球連邦>におけるエスパーと非エスパーの軋轢は今に始まったことではない。過去にエスパーによる”新人類宣言”と”紛争”が幾度か繰り返された。紛争は数で勝る非エスパーが勝利し(エスパーの人口比率は全地球人の約0.07%)、両者は表面上は和解したが、わだかまりは残っている。多くのエスパーは先天性だが、明のように後天的にエスパーとなる者も少なくない。両者の差は脳の”ESP領域”にあると判明しており、人工的にエスパーを作り出す研究も行われたが、人道的問題より現在は禁止されている。
数多の種族により成る<銀河連合>(当然エスパーもいる)を束ねるエスザレーヌには ”地球人は差別を好む”としか思えない。実際彼女もエスパーだ。
「流艦長、”彼”に会えますか?」
「独房で謹慎中だ。いくら君の頼みでもきくことは出来ない」流はつっぱねた。
「ではもう一度リインに会うことは?」
美理とエスザレーヌは医務室を訪ねる。
麗子は美理に手を振るが、彼女の思い詰めた表情に手を下ろす。
「!」
美理を見たリインは一瞬驚く。
「こんにちは」美理の挨拶に、
リインは黙ってうなずく。
「流美理です。よろしく」美理は右手を差し出す。
小さな声で「・・リイン」小さな手を伸ばす。握手。
「座ってもいい?」
リインは黙ってうなずく。
美理はベッドの脇の椅子に腰掛ける。さて何から話そう・・
「おねえちゃん、好き」
「!・・そう?ありがとう」
美理は母と兄(啓作)の写真を見せるが、リインは(知らないと)首を振る。
続けてエスザレーヌがいくつか質問するが、新しい情報はなかった。
リインは自分を助けてくれた人に会いたいと嘆願する。
艦底部・独房。
明は命令違反と任務放棄で牢に入れられている。他に囚人はいない。看守ロボがいるだけ。
美理と麗子が食事を持って来る。
「麗子ちゃん!」
「明さん・・お久しぶりです。ちょっと残念な再会ですけど」
「ははは」
ふたりの間から自走式車いすに乗った少女が見える。
「君は?」
「お兄ちゃん。悪い事したの?」リインが尋ねる。その肩にはピンニョがいる。
「うーん・・」
「そうでしょ。無茶したんだもの」美理は明をにらむ。ちょっとこわい。
「そうか、君はあの時の。元気になってよかったな」
「お兄ちゃんが助けてくれたの?」
「そうよ」
「私、リイン・・ありがとう。でもリインのせいでお兄ちゃん、こんな所に・・」
泣きだしたリインを美理たちがなだめる。
明は食事をとる。
「お兄ちゃんはエスパーなの?」
「ああ」
「リインもねエスパーなの」
美理たちはぎょっとする。
「直感がすごいの。お兄ちゃんはどんな力?」
「サイコキネシスにテレポートかな」
「欲しい力は?」
「透視能力!」
・・・気まずくなる。
ピンニョがぽつり。「バカ」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんは恋人?」
「・・・」
明と美理は顔を見合わせる。
麗子が「!(チャーンス!)そうよ。邪魔しちゃいけないから帰りましょう」
麗子はリインの車いすに手をかけ、帰ろうとする。美理にウインク。
「ちがうか、お兄ちゃんには忘れられない人がいるみたい」
「え?」
独房の中でESPは使えないはず。直感は別?でもなぜリインはそんな事を言ったのか?
麗子は不思議に思いつつ、リイン・ピンニョと共に退室する。
明と美理はふたりだけになる。
「・・・」
「そうだ。はい、差し入れ」
「え?あ、ありがとう!」
タッパーの中におにぎり二つ。お手製だ!
「こっちがおかか、こっちが梅干し。ごめん、お海苔なかった」
明はおかかのおにぎりにかぶりつく。
「うまっ!」
本当に美味い。腹が減っているだけではない。
「そう、よかった」美理は嬉しそうに微笑む。
「ふたりきりって久しぶりだな」
「そうね」
「何から話そうか・・」
「キキイ星で何があったのか聞きたい」
「・・わかった」