月の降る時⑧
月の衝突により、アルテカ星全体を数百度の熱波が襲う。
残っていた無人の建造物を飲み込んでいく。
明が乗って来た<スペースコンドル>も吹き飛ばされる。
続いて巨大地震。それは火山の噴火と津波を誘発する。
明はテレポートで星の反対側に逃れていた。夜のエリアである。
「はあはあはあ・・」息が荒い。
殺気を感じて逃げる。爆発。
「あんな力を持っていたとはな・・」
「?」明は分かっていない。
熱波が明たちの許にも達する。
明はその波を薙ぎ払う。
リインは波を凍らせる。
ふたりの戦いは続く。
大地が裂ける。
空が燃える。
月の欠片。数え切れぬ流星が降り注ぐ。
最後の超能力戦。
「うおおおおおおお・・・・・!!」
ふたりは空中で激突する。
「あなたはもう十分に戦ったわ」美理の声!
「!」
「明くん。もう戦わないで。トスーゴは、彼らのしている事は正しいわ」
「これ以上あの子を利用するのはやめろ~!!」
怒り!
明の気迫にリインは退く。
「(気力で負けている?月を動かして無理しすぎた?)」
明が来る。
ふたりは空中で対峙する。
これが最後の攻撃になる。それは勘なのか?明には分からないが、事実だ。
明の右拳が赤く輝く。もう身体全体をエネルギーで包む力は残っていない。右手だけ。だが全ての力をここに込める。輝きは赤からオレンジ、そして白を経て青白く。
リインの身体も光を放つ。その右腕は特に眩しく輝く。
ふたつの光が近づく。
交差。
地に降り立ち、静止するふたり。
リインは微笑む。
「美理さまの心を読むのは極力避けた。でもある時から溢れてくるある”想い”が気になった。”明への想い”。ありえない事だが、甘酸っぱい匂いがするような”想い”。しばらくしてそれが”恋”というものだと知った」
明は黙って聞いている。
「経験した事のない想い。どんなものだろう?美理さまの好きな人ってどんな人だろう?<スペースインパルス>への潜入任務に私も志願したのはその答えが知りたかったからだ」
リインは膝をつく。
「あなたを殺したくなかった。せめて眠っている間に苦しまずに倒そうと思ったのに・・どんどん強くなって・・」
「美理のためにか?」
「それもある・・・」
「それも?」
「美理・麗子・朋ちゃん・・大好き。桜の花びら舞う校庭、雨の音、草の匂い、蝉の声、小さなキンモクセイの香り、みんなの笑顔・・ああ懐かしい。ルリウスで過ごした五か月は私のたからものだ。・・そして・明。お兄ちゃん。楽しかったよ・・お祭り・・・やさしく・してくれて・・ありがとう・・・」
――倒れる。
ぐらり。 明も倒れる。
ボッケン・ヨキ・ロミ達はアルテカ星で明を収容する。
「兄き!」
呼びかけに明は答えない。反重力ストレッチャーに乗せる。
同行した医師は一目診るなり「早く!救命艇へ!」
目線を移すと、無言でリインの遺体を回収するアルゴン達エスパー戦団が見える。
アルゴンがこちらを見て叫ぶ。
「約束通り我々はアンドロメダへ帰還する。だが我々は必ず戻って来る」
ボッケンと目が合う。ヨキは後ろに隠れる。ロミはホルスターに手を伸ばし身構える。
だがそれは一瞬のこと。戦団一行はテレポートで消える。
ヨキはほーっと息を吐く。
同時にインパルスの周囲を囲んでいた<ネーガ―>が移動を始める。大型戦艦<ガルバス>と共にトスーゴ・エスパー戦団は約束を守り、去って行く。
「(意識)レベル300、血圧・測れません!」
インパルスの医務室に運ばれた明は意識不明の重体だ。
「心拍正常。自発呼吸あり。皮膚外傷と数カ所の骨折はありますが、主要臓器損傷なし。脳波微弱。ESPの使い過ぎによるショック状態です」
「ナノマシンは?」
「皮膚外傷再生中。骨折修復中。昇圧はみられましたが他は効果なし」
Qたちは懸命に治療を施す。
メインブリッジ。
「艦長」
流啓三はショーンから極秘電文を受け取る。中身を見る。
【銀河連合はトスーゴに降伏しない】
やはりかという表情で流は前を見る。視界いっぱいに銀河系が広がる。
<スペースインパルス>は銀河連合本部への帰路についていた。
ICU(集中治療室)。
ベッドに横たわる明。多くの仲間たちが窓越しに明を見守る。入院中のサライやクリスもいる。
Qは彼らに明の現状を説明する。意識は戻らない。命はとり留めたが依然危険な状態だと。
仲間たちは落胆しそれぞれの部署に戻っていく。去り際に声をかけていく。
「明」 「明さん」 「よくやった」 「兄き」 「明」
「明」 「がんばれ」 「早くよくなってください」
「またな」 「待ってるぞ」
流艦長と美理が残る。ふたりは入室を許された。
明は静かに眠っている。麗子は気を利かせて離れる。
流はベッドサイドに立ち、明に向けてひと言、声をかける。
「ありがとう」
そう言うと流は美理の肩にそっと触れて部屋を出て行く。
美理ひとりが残る。椅子に座り、明の手を握る。
傷だらけの手。明の寝顔は穏やかだ。戦士にようやく訪れた休息。
美理は明の手に自分の頬を当てる。暖かい。頬を涙がつたう。
美理のくちびるが動く。
「おかえり」




