激闘!③
医務室。
アルバムを見ていた美理が「あれ?」
「どうした?」
「ナオミがいない」
美理と麗子とナオミと朋ちゃんの四人は特に仲がよかった。高二までの画像はあるのに、自分(美理)と同じくナオミの個人画像がない。
美理は麗子を見る。麗子は辛そうだ。
「・・・ナオミは・ナオミの一家は、戻らなかった。行方不明なの」
「え?・・あ」
あの日、行進する人々の中にナオミを見つけ美理は声をかけた。だがナオミは行進を止めなかった。それが美理の見たナオミの最後の姿だ。(第4巻第2章参照)
ズズーン。船体が大きく揺れる。被弾した!
インパルスは艦隊を突破。数発被弾しながらも被害は軽微。180度回頭。
残った敵は二手に分かれ、一隊はステーションへ向かう。
<スペースコンドル>が迎撃する。
もう一隊は反転して前方から向かって来る。
「上方にトスーゴ艦隊ワープアウト。数は36隻です」
「本格的に攻めて来たな。恨みを買ったか?」サライが頭を掻きながら言う。
「!」今度の敵艦は水色だ。
その途端これまでうす紫だった敵艦が水色に変わる。
「自由に色を変えられるのか?塗装代浮くな」ニコライはマーチンに影響を受けている。
流は上方を指差し、「上方の艦隊中央を突破する!上げ舵80度、両舷全速!」
「了解。両舷全速」
「全砲門開け!」
「バリアー出力最大!」
先程の残存艦隊も上へ。前と横から攻撃が来る。
「艦長」サライが「”シンクロ”を使います!」
シンクロとは機械と一体化する操縦法だ。
隣の明が驚く。明の知る限りサライがシンクロを使った事はない。
サライは操縦席から伸びたコードを後頭部に繋ぐ。
その身体はサイボーグ化されていた。
数多のビームが来る。
サライは操縦桿から手を離し腕を組む。思うだけで艦は動く。
インパルスは砲火を掻い潜る。
「さっきまでと動きが全く違う」明が驚く。
医務室。
「麗子」
「何?」
「言ってなかったことがあるの」
「お母さまが異星人だってこと?聞いてるよ。びっくりした。忘れたの?」
「違う」
「言ってみ、もうたいていの事には驚かないよ」
「グレイさんのこと」
「?」
「グレイさん三日前に結婚した」
「・・え? え??」
「サプライズで私たちも知ったとこ」
「ああ・そう、そうか、そうなの・・」明かに動揺している。
「相手は通信班のショーンさん」
「・・・」
敵艦隊の一斉射撃。
インパルスはそのビームをするりとすり抜けて反撃する。
主砲弾の当たった敵艦は星雲より眩い光を放って飛散する。
圧勝だ。残った10隻程の敵艦はオリオン大星雲方面へ逃走する。
「追撃しますか?」サライが尋ねる。
「いかにも罠くさいな」グレイがつぶやく。
「スペースコンドルとの連携ができなくなるのはまずい」とロイ。
「減速!警戒を怠るな!スペースコンドルは引き続きステーションの護衛に当たれ!」
インパルスはオリオン大星雲の手前で速度を落とす。
散光星雲。プラズマ状態の内部温度は数万℃にも達する。現在の外部温度でも約5000℃、”恒星突入能力”のない<フロンティア号>ではここまで近づく事もできない。眩い。まさに光の洪水だ。メインブリッジの「窓」は自動で明度を調節する。そのため眩しくはない。星雲内は秒速1000kmもの”星風”が吹き荒れる。その中心部ではレーダーは機能しない。
「前方!高エネルギー反応!」
星雲内から光が向かって来る。
サライが「回避します!」
「待ってください!ステーションへの直撃コースをとっています!」
「撃ち落とせ!」
リックがボタンを押す。第一主砲発射。
主砲弾は敵ビームに命中。相殺。互角のエネルギーだ。
「発射源を探れ!」
「来る」明がつぶやく。
『こちら全天空観測室。前方より巨大な高速移動物体接近!』ボッケンの声。レーダーより早い。
「レーダーでも捉えました。これは・・」
光の中から巨大な何かが現れる!
艦艇ではない。小惑星と言っていいサイズだ。
+型と×型というか十字手裏剣がふたつ45度ズレて上下に重なったような形をしている。その四ついや八つの先端にはイギャロン級の艦首に似た大型砲がある。船体中央は丸い円盤が階段状に数段連なり、各段に無数の砲塔が並ぶ。中心部は艦橋だろうか長細い塔がそびえている。無色半透明の船体にオリオン大星雲が映る。
トスーゴの超大型機動要塞、それはのちに<ドプラス>と名付けられる。