月の降る時③
明と美理はふたりきりで<フロンティア号>にいる。
「この<フロンティア号>で行くの?」
「いいや。リュウに戦闘機借りた。忙しくてこいつにかまってやれなくて。たまにはエンジンかけないと・・」
かすかにエンジンの唸り音が聞こえる。
「これが最後になるかも・なんて思ってる?」
明は黙ったまま。どうやら図星だったようだ。
美理は明の胸に飛び込む。
「み・・」
明は一瞬躊躇するが、美理を抱きしめる。
抱擁。
「(あたたかい)」 「(やわらかい)」
美理はやっと出る声で「死なないで」
明は無言だ。
麻美子との約束を思い出す。もう守れない約束はしたくない。でも・・言葉にして伝えておきたい。
「好きだ。俺は・君が好きだ」
「やっと言ってくれた・・」美理の目が潤む。「・・うれしい」
明は美理を強く抱きしめる。
美理は明が震えているのに気付く。怖いんだ。当たり前のこと。
「キスしたい」耳元で明がささやく。
美理は驚くが、黙って目を閉じる。
くちづけ。
初めての くちづけ。
「(ああ、このまま時が止まってしまえばいいのに)」
明の頬に冷たいものが触れる。
美理の涙は悲しい涙なのかうれしい涙なのか。
ふたりは見つめあう。
「必ず帰る。必ず」
「約束よ」
ヨキやボッケンたち多くのクルーが見送る中、明は<スペースコンドル>に乗り込む。
「あー」望がシャーロットの腕の中で暴れる。行くなと止めるように。
後部甲板管制室のリュウが通信機に叫ぶ。
「そいつは貸すだけだからな!必ず返せよ!」
明は親指を立てて合図。発艦。
機雷の様な<ネーガー>の間をぬって、アルテカ星へ降下していく。
メインブリッジ。流艦長たちは敬礼して、美理は黙って見送る。
月(衛星)をかすめて飛ぶ。地球の月よりかなり小さいが、アルテカ星にとても近い軌道を周っている。そのため地表から見ると(地球の月より)かなり大きく見える。
機体が大気圏に入った途端、星全体にバリアーが張られる。
銀河外縁のデルターン球状星団のはずれにあるアルテカ星ではその全天を球状星団が占める。直径は地球の3/4、重力は0.8Gと小さい。大気成分は窒素83%酸素16%。有毒なガスや微生物、放射性物質は検出されない。この星にはヒトとコビトの二つの高等種族がいたらしい。生物が滅びたのは約10年前と推測される。絶滅の理由は分からないが生物の死体は無い(状況はパンゲア星と似ている?)。銀河連合のデータで表面の約5割を占めていた海は、昼側では干上がり夜側では凍りついている(地下には水が存在するようだ)。
リインが指定したのは星の赤道付近の砂漠地帯。昼と夜の境界地帯。気温は20℃。永久に夕方?朝?がつづく。気温差による強烈な風が常に吹いている。
明は腕時計の分析結果を確認してヘルメットを取る。<スペースコンドル>を降り、砂上を歩く。
砂嵐の向こうに人影が見える。
「やはりお前が来たか」
明とリインは向き合う。
「お前には世話になった。出来る事なら戦いたくなかった」
「だったら、なぜ戦う?」
「姉が言った筈よ。『我々はお前たちをつくったものだ』と」
「姉?」
「そう。私の姉はトスーゴ第3艦隊司令・アリア」
「!」
全く二人は似ていない。アリアの髪は赤ではない。
「私たちが正真正銘のトスーゴ。あなたたちをつくった存在」
「本当に・・」
「説明していたら時間がいくらあっても足りない。でも最後だから一つだけ質問する権利をあげる」
「・・・」明はしばし考えて「リイン、君は美理の友人のナオミさんなのか?」
「あら、そんな質問なの?・・そう。ナオミとして五か月間真理之花女学院に在籍していた。夏休み挿むから正味四か月か。美理さまを監視・守護するために」
「たった五ヶ月?いや、だって・(はっ)記憶を操作した?」
「そう」
「美理は、同胞だからか?」
「半分だけだけどね。彼女の母エレーヌさまはトスーゴの第一王妃だ」
「!」
「正確にはエレーヌさまの”依代”だ。息子のオズマ王子を連れて逃亡した」
「オズマ?王子?」
「お前たちの名前では流啓作」
「!・・依代って何?」
「質問は一つと言ったはずだ。それにその説明は難しい。言ってもわかるまい。さて話は終わりだ」
リインはファイティングポーズをとる。
「ハンデをあげる。その銃はESPを増幅するのでしょ。使っていいわ」
「・・・」
「姉の約束の日まであと1日。行くわよ」
二人の対決が始まる。




