絶望との闘い②
デルターン球状星団の直径は約135光年。その中に数百万の恒星がひしめきあっている。中心部にある星と星の距離は約0.1光年しか離れていない(太陽から一番近い恒星アルファケンタウリまで4.22光年)。前述したように星団の中心にはブラックホールが存在する。人類の数倍の歴史を持つ銀河連合をもってしても、中心部は前人未踏の宙域だ。
第一格納庫。
「じゃんけん・ポイ!」
キークはパー、ミザールはチョキ。
「じゃあ偵察機の操縦はミザールがやれ」リュウが命ずる。
ミザールはVサイン。シミュレーターのような操縦席に座り、操縦桿を握る。操縦は”シンクロ”ではなく、手動の遠隔操作。コンピューターによる自動操縦でもいいのだが、新人パイロットの練習も兼ねている。
「偵察機行きまーす」ミザールはスロットルを開ける。
無人偵察機が発艦する。コクピットの無い特別仕様機だ。
インパルスを追い越し、先行する。
「シャーロット、ワーププログラミングは?」
「1回目は完了しています。計6回の予定です。偵察機との連動完了」
「よしワープさせろ」
偵察機が加速、ワープイン。
メインパネルにワープ先の映像と情報が表示される。
「・・これなら、行けるな」
「よし、ワープ!」
<スペースインパルス>は光あふれる空間へワープアウトする。
星と星の距離が信じられないほど近い。表示される艦外温度は16000℃。
「機関異常なし」
「メインレーダー異常なし。周囲に敵影認めず」
「バリアー異常なし」
「よし、次だ」
4回目のワープアウト時に無人偵察機は重力の干渉宙域に入り航行不能になった。
当然インパルスは航路を変更、偵察機2号が発艦。パイロットもキークに交代。
そして6回目のワープ終了。
「天文班より連絡。目標を視認。メインパネルへ転映します」
美理が機器を操作。結構慣れた。
巨大なブラックホールが映し出される。その手前、宇宙客船が見える。
「これは・・」
「最大望遠」
一同は息をのむ。
客船はぐるぐると回転している。船体に損傷は見当たらないが、エンジンは停止、灯りも皆無だ。
「こちらからの呼びかけに応答はありません」
ニコライが頭を掻きながら「まるで幽霊船だな」
アランが「(偵察機1号の様に)重力の干渉を受けているのかもしれない。恒星突入性能はあるようだが、急いだ方がいい」
偵察機が先行。その後をインパルスがつづく。
キークがそれに気づく。
次の瞬間、客船は木っ端微塵に吹き飛ぶ。
偵察機も爆発に巻き込まれる。
明は急制動をかける。
爆発の向こう、空間が歪む。光学迷彩が解かれる。
中から何かが飛び出す!それはインパルスに打ち込まれる。
「!」
巨大な<ドプラス>が姿を現す。船体の1/4を損傷している(すこし修復されている)。メドゥサ流星系で遭遇した奴だ。
「レーダー!何していた!?」
「すみません。ミサイル3発被弾。艦首星間物質吸入ダクト、第五主砲基部、艦底B4ブロックです」
そう言うクリスは顔色が悪い。美理が心配そうに見つめる。
「不発弾か、よかった」グレイがほっとするが、
「ミサイルじゃない」明の直感。
艦内に衝撃。
アランが「トラクタービーム反応・・無線式錨です」
インパルスは引き寄せられる。<ドプラス>へ。
「艦首逆噴射!」流が命令する。しかし、
「操縦不能!」明は操縦桿を必死に操作するがびくともしない。
「主砲発射!」
主砲弾が次々と<ドプラス>に命中するが、止まらない。
<ドプラス>の下部船体中央・巨大な口が開く。
「!」
なす術もなくインパルスはその中に引きずり込まれて行く。
インパルスが中に入るやいな入口が閉じる。閉じ込められた。
「荒っぽい招待だな」流は腕を組む。
そこは巨大な格納庫だった。インパルスと同じく空間圧縮技術を使っている?
多数の戦闘艦が待ち構える。だが攻撃はしてこない。
「中から攻撃しますか?」ロイが流に尋ねる。
「第一級戦闘態勢のまま様子を見る」
「複数のレーダーを使用すると干渉するようです。メインレーダーのみ使います」
「了解したクリス。監視を怠るな」
「アンカーをどうにかしないと脱出できません」アランが意見。
『アンカーの撤去作業に入る』艦内通信。
マーチン他数体の装甲兵が艦外作業を開始する。艦内からの遠隔操作だ。
静寂が流れる。
軽い衝撃。攻撃ではない。
「移動している?」明がつぶやく。
美理の目はサブパネルに釘付けになる。
偵察機は破壊されたがカメラは生き残っていて映像を送り続けている。移動を開始した<ドプラス>が映る。
美理が叫ぶ。
「待って!この船・・ブラックホールに向かっています!」
「何っ!?」
「心中する気か」
クリスが「すみません・・気付きませんでした」
「戦って死ねとでも言われたか」流は唇を噛み、映像を睨みつける。
ニコライがマイクに叫ぶ。「早く棘を抜いてくれ!」
マーチンたちは依然アンカーと格闘中。
「全砲門開け!攻撃開始!」ロイが命令。
「緊急発進!取り舵いっぱい!」
明は艦を出口に向ける。




