絶望との闘い①
第5章 絶望との闘い
宇宙歴500年6月。
<スペースインパルス>は銀河系を背に進む。
医務室。
入院中のサライは静かに眠っている。
個室病室から出た麗子はそっとドアを閉める。
ロビーで患者たちが騒いでいる。
「もう限界だあ。眠りたくないよー」
「あのESPセンサー鳴りすぎて眠れねー。アラーム切るしかねー。役に立たねー」
「自殺未遂者も出てるんだろ?何でバリアー強化しない?え?もうしてる?」
「悪夢って、明なら出来るんじゃね?あいつ臨時だが主操縦士に昇格したんだろ?」
「サライさん入院したの、あいつの仕業かもな」
麗子はブチ切れる。
「明さんは読心能力を持っていません!第一そんな事はしない!運動して疲れて寝ろ!」
退散する患者たち。Qとナトウが驚いて見ている。
「そうよ。女心も読めないんだもの」
美理は目を覚ます。
いつの間にかこたつで寝てしまったようだ。ストールがかけてある。
「うたた寝したら風邪ひくわよ」
「おかあさん!」
美理の母エレーヌは美理が五歳の時に亡くなっている。これは夢だ。
美理は母親に抱きつく。
「なになに?どうした?」
「あのね、おかあさん・・」
母はうんうんと美理の話を聞き、時々アドバイスをくれる。
「そろそろ行かなくちゃ」
エレーヌは立ち上がる。美理はその腕をつかむ。
「まだまだ話したい!聞きたいことがあるの!おかあさん!おかあさんでないとだめなの!」泣き崩れる。
美理は目を覚ます。涙がとまらない。
枕元のESPセンサーは赤く点滅している。
「・・・・」
「ただいまー」夜勤明けの麗子が帰還。
「つっかれたあ」そのままベッドに倒れ込む。
美理は涙を拭いて「おつかれさま。そのまま寝たらだめよ」
「わかってる」わかっていても寝てしまうパターン。
「そうだ、聞いていい?ナオミは高等部から入って来たんだったよね」
「うん、確かそうだった。それがどうかした?」
「卒業アルバム見直したんだけど、ナオミの高一の時の画像がないの。修学旅行とか高二の画像はあるのよ」
「どういう事?」
「わからない」
「ナオミはピーマン嫌いだった。リインもピーマン残してたの」
「・・・」麗子はすうすうと寝息をたて始める。
美理は布団をかけ、そっと部屋を出て行く。これから勤務だ。
夕暮れ。校門の傍に佇む少女。
やってくる少年。高校生の明だ。
「何だ、待っていてくれたのか」
麻美子が「当たり前でしょ」
二人で下校。
「もうすぐ出発だね」
「うん」
「すごい確率だよね。宇宙へご招待だなんて」
「一応テストもあったんだぜ」
「・・・」
ふたりは夜の海岸を歩く。
「ねえ、美理さんとあたし、どっちが好き?」
「それは・・」
「あたしよね」腕を組んで来る。
明はその腕をつかむ。
「つかまえた」
「え?」
「お前は誰だ!?」
明の目が覚める。枕元のESPセンサーは赤く点滅している。
「・・逃がしたか」
ブリッジに向かう途中で明はリインに会う。窓の外・星の海を見ている。
その視線の先にはデルターン球状星団がある。リインの故郷アルテカ星はその先にある。
球状星団は文字通り星が球状に集まった天体である。多いものでは200万個もの星から成る。銀河系のまわりを囲むように(21世紀初頭の時点で約150個)分布している。銀河誕生と同じくらい古い星が多いのが特徴だ。中心部にはブラックホールが確認されている。
明に気づいたリインはこちらに駆けて来る。
「お兄ちゃん」
「もうすぐアルテカ星だな」
「うん。楽しかったよ、この船の生活。お兄ちゃんのお蔭だね。・・ありがとう」
リインは手を伸ばす。
明が握手しようとした途端、警報が鳴る。
『一時間後に”種”の落下した惑星に接近する。総員第二級戦闘態勢』
「じゃあな」
「バイ」
明は駆け出す。
メインブリッジへ。
<スペースインパルス>は銀河系を背に航行する。
惑星の陰にいるトスーゴ艦隊。
ひと際大きな新型戦艦。そのブリッジ。昆虫人が何か命令を出している。
インパルス・メインブリッジに明が駆け込んで来る。主操縦席へ。
副操縦席にはアッシュがいる。新人だからと反対する者もいたが、明が納得させた。事実アッシュは筋がいい。
アランが説明する。
「前方の第二惑星に47年前に巨大隕石が落下しています。”種”の可能性が高いです」
銀河連合の特務艦である<スペースインパルス>の本来の任務は銀河系で頻発している”恒星消滅”の調査である。その原因は<暗黒星>と命名された謎の存在であり、”種”とはその<暗黒星>を導く隕石のことである。
「<暗黒星>はこれまで三回その存在が確認されていますが、その大きさは三回とも異なっていました。偶然の一致かもしれませんが、”種”の撃ち込まれていたナカトミ第四惑星、地球、赤色矮星第二惑星とそれぞれ大きさが一致していました」
驚く一同。そうだ、確かに太陽系の時は地球と同じ大きさだった。
「目標の惑星に接近」クリスが報告。
明は自動操縦を解除、操縦桿を握る。
「惑星の直径は約2200km。大気の無い地球型惑星です」水星より少し小さい。
「じゃあ、ここに<暗黒星>が現れたら大きさは2200kmになるってこと?」明が訊く。
「あくまでも推論です」
『こちら全天観測室。惑星表面に”種”を確認』ボッケンの声。
「レーダーでも捉えました」またレーダーの負け。
「転映します」
直径は約350m、“植物”と呼べるほど大きくない。落下してからあまり時間が経っていないからか。しかし大地に根ははっている。
「第一第二主砲発射準備」ロイが命令。
第一主砲。
リックがグエンに「お前がやってみせろ」
「承知しました」グエンは敬礼し、機器を操作する。
第二主砲もイグニスが操作。
二基の主砲が動き出す。少々ぎこちない。
タ―ゲットスコープに”種”を捉える。
「発射!」
二基の主砲が吠える。
エネルギーの束が目標へ・・・
”種”はバリアーを張るが、主砲弾はそれを貫通し、命中。
粉々に粉砕する。
「やった!」喜ぶグエンとイグニス。
リックは黙って親指を立てる。
「針路をアルテカ星へ戻します」明がそう言った時、
ピンニョが「救難信号をキャッチしました。デルターン球状星団のほぼ中心部からです」
「信号は銀河連合所属の客船です」ショーンが付け加える。
「球状星団の中は危険です。アルテカ星への航行ルートでも迂回する予定でした」
「しかし副長、救難信号は無視できません」そう言うロイに、
「私は敵の罠の可能性を言っているのです」
ショーンが「客船の本来の航行ルートはここより560光年離れています」
アランはほら見ろと言わんばかりのドヤ顔。地球人に染まっている?
しかし流艦長は「転進しろ。本艦より近くに救助に向かえる船はいない」
「了解。デルターン球状星団に向かいます」明が操縦桿を操作。
<スペースインパルス>は方向転換する。




