氷の城⑦
「はっ」
明は目覚める。
<スペースインパルス>のメインブリッジ。副操縦席。
メインパネルには第五惑星第33衛星の爆発が映し出されている。
<那由他>が『対消滅反応ありや。反物質爆弾やと思いまっせ』
「え?」デジャヴ?
見回すとメインブリッジのクルーは全員気を失っている。
いや流艦長だけは目を開けている。でもまだ放心状態だ。
サブモニターに映る医務室の麗子とリインも倒れている。
「何があった?那由他」流が尋ねる。
『前方の衛星が爆発したあと、乗組員が全員意識を失いましてん』
アランがロイがグレイが目覚める。
『ただし時間にして1分程やねん』
「夢?すべて幻だったというのか」
美理がクリスがショーンがピンニョが目覚める。
医務室で目覚めた麗子は首筋を触る。噛まれた跡はない。リインは泣きじゃくっている。
上陸班だけでなく乗組員全員が同じ”夢”を見ていた。
パメラ星は惑星改造途中で中止・破棄され、無人の廃墟と化していた。氷の城は存在しない。トランシル王は消息不明。バーニャ王子カレン王女が実在したのか不明(美理は幼少期に会っていない)。この星の水が本当に寄生生物だったのかもわからない。
ニコライが頭を掻きながら「化かされた・・と言うべきか」
アランが「突然の爆発で乗組員全員の意識がひとつになった瞬間を狙ったものと思われます」
流は深くため息をつき「アラン。赤石に会ったよ」
「え?どういう事です?・・そうでした、私も声を聞きました」
「彼は先の戦闘で死亡している」流の声は震えている。
感じた違和感はこれだった。
「死者を利用するような奴を俺は許さない」
ロイが「副長。どうします?パメラ星に向かいますか?」
アランは首を横に振り、「未開の惑星に行っても意味がない」つづけて、
「完敗です。我々は敵の手の平で踊らされていただけだった」
主操縦席のサライが立ち上がる。
「航行長。大丈夫ですか?」そう言う明に、
サライは返事をせず、ぶつぶつと何かをつぶやきながら明に近づく。
美理は目を見開く。
サライはナイフを持っている!
「明くん!」
明の脇腹めがけ刃が迫る。
「お前さえ いなければ」
「!」
「きゃあー」
美理の悲鳴がブリッジに響き渡る。
パキン。カラン。
ESPバリアーで砕けたナイフの欠片が床に落ちる。
「サライ!」
サライはグレイとロイに取り押さえられる。
「明!大丈夫か?」グレイが尋ねる。
「あ、ああ・・」
医務室。
手足を拘束されたサライを流艦長が見舞う。
Qの診断は過度のストレスによるノイローゼ。
「申し訳ありません。自分でも何をやっているのか・・明に怪我がなくてよかった」
「休めてなかったのか?気づかなくてすまなかった」
サライは首を横に振り、
「艦長、お願いがあります・・」
サライはそのまま入院。他に9名が医務室に入院中。47名の勤務不能者が居住区の自室にて療養中だ。
数日後インパルスは銀河連合の艦艇と接触し15名が退艦、カンナは艦に残った。
食堂。艦内時間16時。
「ごちそうさまでした」
美理は遅い昼食を終える。いや早い夕食か?
「はい。サービス」ウェイトレスの葵がデザートを置く。キャロットケーキ。服がフリフリなのは生活班長の趣味か。「太るからやめとく?」
「とんでもない」一口ほおばる。
あの一件以来葵と仲良くなった。葵にとっては言いたかったこと(自分が朱雀だったこと)を(敵が)代弁してくれて助かったようだ。
同じく麗子もショーンと親しくなり、時々食事したりしているようだ。
「明日も日勤?」
「うん」
「一度夜にも来てよ。バーテンダーしてるから」18歳から飲酒OKなのだ。
「わかった」美理はもう一度手をあわせて「ごちそうさまでした」
メインブリッジに戻った美理はサブレーダー席に座る。
ニコライとグレイが話をしている。
「しかし乗員300余名の心を読んで幻を見せるなんて、どんなエスパーだ」
「しかも艦外から。対ESPシールドを破ってでしょ」
明は黙って話を聞いている。早番で引継ぎをしたから勤務は終わりなのだが。
ここ数日、アラン副長の姿を見ない。噂では<那由他>を駆使して艦内を監視しているとか。本当に艦内にスパイがいるのだろうか?自由に艦を出たり入ったりしているのか?
「(俺たちはそいつに勝てるのか?)」
「じゃああがります」同じく早番のクリスが立ち上がる。「あとよろしく」
「おつかれさまでした」
明はちらと美理を見る。美理と目が合う。
美理の目は「働き過ぎ。あなたも早くあがりなさい」と言っている。
もう少し一緒にいたいのだが。明はメインブリッジを後にする。
医務室。
Qはナトウと麗子に説明する。
「敵の心理攻撃には2パターンある。1つは辛い夢を見せて、心身を疲労させるやり方」
「もう1つは?」麗子が尋ねる。
「幸せな夢を見せて、現実から逃避させるやり方だ」
「おやすみなさい」
クリスはうれしそうに眠りにつく。
眠っているボッケンの瞼に目玉をいたずら書きして、明は布団に入る。
「おやすみ♪」




