氷の城⑤
舞踏会が始まった。
大広間で踊っているのはバーニャ王子をはじめ城の連中がほとんどだ。
マーチンはダンスに目もくれずひたすら食いまくっている。
ボッケンとピンニョはもちろんのこと。ロミも「やっぱり性に合わん」と壁の花。
美理と麗子もお喋りしている方がいいみたい。リインは踊りたそう。
かく言う明もぼーと眺めているだけ。踊れましぇん。
クルーで踊っているのはグレイとショーン。城の連中と遜色ない踊りは流石だ。
マリアンヌさんの踊りは豪快だ。相手のイグニスは振り回されている。
ナトウとグエンは城の女性と上手に踊っている。意外。
曲が終わり、バーニャが美理の元に来る。
「一曲踊っていただけませんか?」
困った美理はチラっと明を見る。
目が合った明は少し考えて、こちらに歩き出す。
麗子が「ごめんなさい。彼女は次に彼と踊る約束をしているんです」
バーニャは「では、お嬢さん、あなたと」麗子の手を取る。
「いーなー」と言うリインの前にアッシュがひざまずいて手を差し出す。
マーチンの前にカンナが来て、「最後の記念に踊っていただけますか?」
「しゃーねーな」
マーチンは食い物を一気に口にほおばりカンナの手を取る。
「副隊長」キークがロミを誘う。
「すげーなお前。副隊長誘う?」
驚くミザールの前に葵が立つ。
アランは城の女性に誘われるが断る。しかしカレン王女に誘われしぶしぶ参加する。
アランの部下たちも。こちらはちょっとにやけている。
明と美理のカップルも踊りの輪に入る。
「俺オクラホマミキサーしか踊れねーぞ」
「その曲知らない。すごいね。私は盆踊りだけ」すごくない。
照明が暗くなる。スローテンポな音楽が流れる。さっきまでと違う。
明と美理は固まる。みんな抱き合っている?
グレイ夫妻が近づく。
「チークタイムだ。適当にゆらゆらしていたらいい」あるのか?舞踏会でチーク?
明と美理はぎこちない。まるで柔道の練習だ。
それでもお互いの胸の鼓動がわかる、気がする。
すぐ横に麗子とバーニャがいる。
「(麗子はダンス得意だから大丈夫だろ・・)!?」
美理は信じられないものを見る。
バーニャが麗子の首筋にキスをしている! 違う。噛みついている!!
「麗子―!」美理が叫ぶ。
気づいた明は美理を下がらせバーニャにつかみかかる。
バーニャはかわす。麗子から顔を離し、微笑む。口から赤い血が滴り落ちる。
麗子の身体は氷の床に落ちる。気を失ったまま。だがその表情は苦悶ではない。虚ろいや恍惚に見える。時々ぴくりと動く。死んではいない。首にははっきりと噛まれた跡がある。
麗子だけではなかった。
キークがロミを、カンナがマーチンを、葵がミザールを、イグニスがマリアンヌを襲う。
アランの部下たちも城の女性に首を噛まれる。
「何をする」
アランは間一髪の所でカレンの腕をつかんで締め上げる。意外。頭脳派なだけではない。
ロミもキークの攻撃をかわして床に押さえつける。
バチッ・・ 弱い電撃を受けてカンナはマーチンから離れる。
「何なんだ」マーチンは首に手を当てる。血が付く。「・・・」
噛まれた者たちは床に倒れている。目を覚まさない。
噛んだ者たちは次の獲物を求めて歩み出す。
「ゾンビ?いや吸血鬼か」明はファイティングポーズをとる。
グレイと共に美理とショーンを囲んで守る。
ピンニョが明の許に来る。アッシュもリインを抱えて駆けつける。
「れーこちゃん!れーこちゃん!」叫ぶリインを真ん中へ。
アランはカレン王女の腕をねじったまま、
「どういうことか説明していただこう」淡々とした口調で喋る。
こちらにはボッケンとロミとマーチンが合流する。
カレン王女もバーニャ王子も何も答えない。トランシル王の姿はない。
「インパルスと連絡がつきません」ショーンが報告する。
明たちは囲まれる。城の連中と豹変した仲間たちに。
「兄き!上!」ボッケンの声。
空から十数本もの巨大な”氷柱”が落ちて来る。
明とロミはESPバリアーを張る。
バリアーに弾かれ、氷柱は割れる。床に破片が落ちる。
「いたっ」
破片でリインは脚に怪我をする。血が出るがかすり傷だ。美理がハンカチを当てる。
「来るっ!」ボッケンの声と同時に、
間合いをつめていた十数人がいっせいに襲いかかる。
銃も刀も預けたままだ。明たちに武器は無い。明とロミのESP、ピンニョの羽根手裏剣、マーチンの電撃以外素手で立ち向かうことになる。
ビッ ESPバリアーに阻まれ、敵が怯む。少なくともバリアー内だと噛まれない。
イグニスの顔面に明の蹴りがはいる。バリアーの中から外へは攻撃できる。
「ごめん」イグニスは数メートル飛ばされる。
明はそのまま回転し別の敵にまわし蹴り。着地し正拳突き。
グレイとアッシュもキックで応戦。グエン含む数人が倒れる。
アランは人質にならないと判断したカレン王女を敵集団へ放り投げる。
数名が倒れる。容赦ない。華奢な身体からは想像できない怪力の持ち主だ。
ボッケンは後ろ足で次々と敵を蹴り飛ばす。その中にナトウと葵もいる。
マーチンは実は拳法の達人だ。物凄い速さでパンチキックを繰り出す。
リインは美理に抱きついて震えている。
美理の目はずっと麗子から離れない。すまない気持ちと心配と不安。
その麗子の手がぴくりと動く。ゆっくりと起き上がる。
よかったと思ったのも束の間、美理の顔は凍りつく。
麗子の表情は虚ろで赤い唇から牙が覗く。噛まれた他の連中も同じだ。
明は美理の視界を妨げるように立ち位置を変える。見せたくなかった。
「合図したらジャンプしてくれ!」
マーチンはそう言うと床に手を置く。氷の床。
「いち、にい、・さん!」
明たちはいっせいに飛び上がる。
バリバリバリ・・・・
電撃が氷の床を走る。死なない程度に威力を弱めている。
次々と”敵”が倒れる。その中にバーニャ王子や麗子の姿もある。
仲間たちを何とかしたい。明はアランに意見を聞こうとした。その時だった。
風が通り過ぎる。
「!」リインの隣にいた美理が消える。「美理ちゃん、どこ?」
明が振り向く。あわてて美理を探す。
「北の塔の上!」ピンニョは教えると同時に飛び立つ。
塔を見上げる。
トランシル王が美理を抱えている。美理は気を失っているように見える。
「美・」
突然床の氷が溶ける。水に変わった。
ドボン。
明たちは水中に投げ出される。下にバリアーを張っていればと思ったが、あとの祭りだ。
次の瞬間。再び水は氷へと変わる。
<スペースインパルス>メインブリッジ。
「惑星周囲にバリアーが張られています」クリスが報告。
「上陸班の位置はわかるか?」流艦長が通信士に尋ねる。
「現在地は不明です。30分前には前方の城の中でした」
メインパネルに西洋風の城が映る。静かに湖の小島にそびえている。
「ヨキ、テレパシーで明かロミから返事はあったか?」
「ありません。あのバリアーが邪魔で・・」
流はしばし考えたあと、
「微速前進。パネラ星へ降下する。主砲発射準備。装甲兵スタンバイ」
「第一から第八主砲、発射準備」ロイが復唱。
「エンジン異常なし。出力10%」ニコライが計器を操作。
「微速前進」サライが操縦桿を握る。
装甲兵制御室。
”シンクロ”用ヘルメットを被りながらガルムが命令する。
「目的は上陸班の救出だ。輸送機を使わず直接インパルスより降下する。各員スタンバれ」
第一主砲。
リックはターゲットスコープを睨む。光の壁が迫る。
クリスが「バリアーに接近。距離1万キロ」
「主砲発射!」ロイが叫ぶ。
八つの主砲が一斉に火を噴く。
「両舷全速!」サライとニコライがレバーを操作する。
急加速。Gがかかる。
前方で閃光。主砲弾がバリアーを粉砕。間髪入れずインパルスがバリアーを突破。
”氷の城”に迫る。




