氷の城④
高層ビルの最上階にある高級レストラン。
窓の外には1000万ドルの夜景が広がる。
ドレスアップしたクリスの前には正装した流艦長がいる。
流はポケットから箱を取り出しテーブルの上に置く。
「開けてみてくれ」
そう言われたクリスは箱を開ける。中にあるのは指輪。ろうそくの光を受け輝く。
クリスから笑みがもれる。
「愛している。結婚してほしい」流の口から絶対言いそうにない言葉が出る。
クリスの目から涙がこぼれる。唇が「はい」と・・
リリリリリリ・・・・・・ 呼び出し音。
『クリス班長!お休みの所申し訳ありません。メインブリッジにお越しください』
「わかった」
枕元のESPセンサーは赤く点滅している。
クリスは素早く着替え、居室を出て行く。
リインはちょこんと椅子に座っている。
辺りをきょろきょろ。宇宙空間の映像に見入る。
「名前と君の故郷について教えてくれ」声が響く。
「リイン。私の故郷のアルテカ星は大きな球状星団の近くにあります」
映像が変わる。眩いデルターン球状星団。そしてアルテカ星へ。
「わあっ」嬉しそうなリイン。
そのリインを見つめる冷たい目、目、目・・・
「嘘は言っていない」
「ESP反応なし。ESP野の活性化もみられません」
「彼女の説明内容は銀河連合から提供されたアルテカ星のデータとも一致します」
アランは沈黙を保ったまま。当てが外れた?
「君には予知能力があるのか?なぜ小惑星が爆発すると解った?」
「そんな能力は無いわ。でもあの時は危険が迫っていると声がしたの」
「声?」
「そう声」
「嘘は言っていません」
「依然ESP反応なし」「ESP野の活性化なし」
「メモリーアナライザーの方は?」
「幼少期の記憶、両親や兄弟の記憶、学校の記憶、そして拉致された記憶・・全て彼女が語った内容と一致します」
「副長。彼女よりも先程のキーク、イグニス、アンナの三名の方が気になります。答えは的確なのですが、表情の変化がほとんどない。まるで・・」
アランは表情を変えずに「まるで機械か私のようだと?・・ふっ、次」
ボッケンは草原を駆ける。
この星に着いてから常に誰かの視線を感じていた。
殺気というより好奇心のような感じ。それが何者なのか分からない。
むしゃくしゃするためランニングをしているのだが、城内よりも視線が強い。
森の中へ。
余計に視線が多い。なぜ?視界が遮られるのに。
森を抜ける。後ろを見ても何もいない。
綺麗な湧き水。
喉が渇いた。左前足の情報バンドには危険な反応は出ていない。
水を口に含む。
「!」ボッケンは思わず吐き出す。
理由は分からない。直感が危険だと告げる。
さらに視線が鋭くなる。
「誰だ!」叫ぶ。
その途端、視線が消える。わけがわからない。
明も異変を感じていた。だがやはりそれが何なのかわからない。
明は城内を”探検”する。”北の塔”以外は立ち入ってもいいと許可を得ている。
グレイに会う。彼も何かを感じていた。
「どうだ?」
「特に怪しい所はない。あとは北の塔か」
「高い。まるでバベルの塔だな」
城の北側に城より遥かに高い塔がそびえている。これも氷で出来ている。
北の塔にはピンニョが行っている。ステルス能力はスパイ活動にうってつけだ。
陽が傾く。空にうっすらと銀河が浮かぶ。
「ただいま」
ピンニョが明の肩にとまる。
「どうだった?」
「何もおかしな所はない。政府機関みたいな所だった」
「そうか」
そして二日目は何の進展もなく終了した。
その夜。
明たちはトランシル王から舞踏会の招待を受けた。
各人にはドレスやタキシードが配られ、城の大広間で夕食を兼ねた舞踏会が開かれる。
服を着替えながら明は今日同室のアッシュと話をする。
「そうか。軍人の家系か」
「はい。父はインパルス乗艦には反対でした。なんせ特殊な艦ですから」
「違いねーや。よし行くぞ」
外に出るとマーチンとミザールがいた。
「馬子にも衣装だな」
明のタキシードを見てマーチンが言う。お互い様だ。
隣の部屋から麗子とロミが出て来る。
「おー」思わず歓声。
背中のあいた青いドレス(ノーブラだっ♡)を着た麗子はため息が出るほど美しかった。もう女の子じゃない、女の人だ。恥じらう仕草がいい。高いヒールに苦戦中。緑のドレスのロミも意外に女っぽい。
「こら、ジロジロ見るな」あらら。
キークとグエンが出て来るが、終始無言で無表情だ。喧嘩でもしたのだろうか?
「何か変なんですよ、あいつ」キークと双子のミザールが言う。
アンナと葵も無言だ。二人ともドレスアップして綺麗なのだが。
イグニスとナトウが出て来る。彼らも無言。ナトウは昨夜の明のいびきで機嫌が悪いのかもしれないが、チャラいイグニスが麗子やロミを見て何の反応も示さないのは変だ。
美理はマリアンヌとリインと今夜同室。美理は白いドレスを前に固まっている。
リインが「きれいな服」彼女も着飾っている。ピンクのドレス。少しお化粧も。
「なに躊躇してるの?」マリアンヌが訊く。「ははーん。ほぼウエディングドレスよねコレ。あの王子と結婚させられるんじゃないか?って」
「・・ないですよね」
「わからないわよ~」
「・・・」
美理は覚悟を決めて着替える。
ドアが開き、美理たちが出て来る。
「!」 「わー」
「素敵!美理!すっごい似合ってる」麗子が絶賛。「でもコレ・・」
「あー言わないで」
明は無言。見とれていた。
赤石に呼ばれた流艦長は“科捜研”を訪れる。
開口一番「何か解ったのか?」
「艦長。実際見ていただいた方が早いです」
赤石はワインをグラスに注ぐ。赤ワイン。
ワイングラスを回す。スワリング。上手い。匂いを嗅いだり飲んだりはしない。
「もったいないですが」
赤石はマッチを擦って火をつけてグラスの中にポイ。
グラスからワインが逃げ出す。噴き出すのではなく逃げ出す。
流はあっけにとられる。赤石はハンディ型吸引器でワインを吸い取る。
「何だこれは?」
「このワインは、いえ、ここの水は生きています」
「液状生命体?」
「はい。バルガ星のものが有名ですが、こいつは寄生生物です。組織の99.9%が水でできています」
「寄生?飲んだらどうなる?」
「大丈夫です。胃酸には極端に弱く死んでしまいます。しかし傷口などから人間の血管内に侵入した場合、脳に移動し宿主を操ります」
驚く流に赤石は”那由他”が作成した映像を見せる。マウスに注射した場合の予想映像だ。
マウスは一見普通に見える。が強化ガラス越しに手を見せると鋭い牙が生える。
別のマウスを入れると、それに噛みつき、噛まれたマウスは同じように変貌する。
「力も増しています。普通のマウスの1.5倍」
人間の場合の予想映像。外見は変わらない。牙が長いだけ。
寄生されていない別の人間がいると、首に噛みつく。噛まれた人はまた他の人を襲う。
「まるで吸血鬼じゃないか」
「艦長、古い言葉をよくご存知で。頸動脈より侵入した場合、約3分で脳に達します」
「ではこの星の人間は・・」
「寄生され操られているものと思われます」
「待て」
流は上陸班に至急帰還するよう通信班員に命ずる。
通達を終え、「しかしなぜパメラ王はこのワインを?」
「わかりません。操られての行為なのか?本人のSOSなのか?」
「治す方法はあるのか?」
「那由他が計算中です。まだまだ時間がかかるようです」
「ドクターQにもデータを送って意見をきいてくれ」
メインブリッジから連絡が入る。
『艦長。上陸班と連絡がつきません』




