氷の城③
「パパ起きなちゃい。朝でちゅよ。起きなちゃい」
三歳の息子・望の声で明は目覚める。
「おはよう」Yシャツのボタンを留めながら階下へ。
妻の麗子は無言でエプロンを取り席に着く。(ちょっと大人ぽくて素敵。何か怒ってる?)
目玉焼き。明のは黄身がぐちゃぐちゃに崩れて焦げている。(あれ?)
ギスギスした空気の中、黙々と食事をする。望だけがにこにこしている。
「ママ、今度ね」
「黙って食べなさい。行儀悪い」
「おい、そんな言い方・・」耐えきれず明が言うと、
「あなたは黙っていて」睨まれる。
あの日。十字星雲のアスク星の地下遺跡の中で。麗子と二人っきりになった時。
俺は麗子を犯した・・欲望を抑えきれなかったんだ。(ちょっと待て)
そして麗子は妊娠、俺たちは結婚し、望が生まれた。(だからちょっと待てって)
「隣のグレイさん課長になるそうよ」(グレイが隣に住んでるのか?課長?会社員?)
「おい!」
明の声に驚いて望が泣き出す。
麗子は望みをあやす。明を睨みつけて、
「この甲斐性なしが!」
「!」
「あなたは今も美理を・いいえ、麻美子さんを愛している。ああ、あなたとなんて結婚するんじゃなかった」
「!!」
明は飛び起きる。枕元のESPセンサーが反応している。ESP攻撃だ。
「納得いかん(俺が麗子ちゃんを襲った?なぜそのシーンがない?・・違う違う。仲間だぞ。しかも好きな人の親友だぞ。・・あの時、アスク星でふたりきりになった時、俺は・我慢したんだ!確かにもっこりはした。でも敵がいたし。据え膳食わないで必死に耐えたんだぞ!)・・・我慢してよかったあ」
ナトウは隣のベッドで眠っている(耳栓してる)。まだ集合時間まで1時間ある。
もう一度眠る気にならない。明は着替えて廊下に出る。
朝日が眩しい。
「!」麗子と美理がだべっている。
こちらに気付いた麗子が「おはようございます」
「(この甲斐性なしが!)」夢が蘇る。
「わあ~!」明逃走す。
「な何?」
「さあ?・・何の話だったっけ、あカンナさん部屋に戻って来なかったの?」
「明け方に戻って来た。声かけたけど無視された。今はまだ眠っている。悪いことしちゃった」
「あとで謝るしかないよ」
<スペースインパルス>メインブリッジ。
「前方!<ドプラス>接近中!」クリスの声が艦橋に響く。
サライは”シンクロ”コードを自分の身体に繋ぐ。
「左右から<ネーガー>が来ます!」
サライは身構える。その時、流艦長の声がする。
「サライ、明と交代しろ」
サライは目を覚ます。
夢?いや枕元のESPセンサーが赤く点滅している。
「チッ」舌打ちする。ようやく眠れたというのに。
「ふう」ため息をつく。
ベッドから出て窓際に立つ。
青いパメラ星が見える。
「だー」
望が展望室の窓をとんとんと叩く。
衛星軌道上の<スペースインパルス>の眼下にはパメラ星。
「そうよ。美理おばちゃんはあそこにいるの。明くんもよ。いいよねー。うらやましいよねー。望も降りたかったよねー」
啓三じいじの許可が下りなかったのだ。
「まったくだ」
ヨキも待機組。インパルス内にエスパーがいないとまずいからとメンバーから外された。
「いいもん食っていい思いしてるんだろうなー」
パメラ星・氷の城。
キークが部屋のカーテンを開ける。
同室のイグニスはまだ布団の中だ。
「イグニス。そろそろ起きないとやばいっスよ」
キークはイグニスの首筋のあざに気づく。
「き、キスマーク?え?どの娘っとスかあ?」
ガバッとイグニスが起き上がる。キークの首筋に噛みつく。
麗子が部屋のカーテンを開ける。
同室のカンナはまだ布団の中だ。
「ごめんね。でももう起きないと・・」
カーテンを留める麗子の後ろ、音もなくカンナが立ち上がる。その首筋にはあざが!
カンナはくわっと口を開ける。鋭い牙が麗子の白いうなじに迫る。
「あ」
カーテンの留め具を落とした麗子は拾おうとかがむ。
カンナの牙は空振り。転倒する。
「え?大丈夫?」麗子は倒れたカンナに手を差し伸べる。
カンナは麗子の腕を見つめる。口を開ける。牙が覗く。
ばーん。
「れーこちゃん!」扉が開いてリインが飛び込んで来る。
「リイン。そんなに強く扉を開けちゃだめ」続けて美理も。
カンナは牙を隠す。
それを目撃したリインは蒼ざめた顔で美理の後ろに隠れる。
「どうしたの?」
「・・こわい」それっきりリインは黙る。
「敬礼!」
城の別館を借り、一応”研修”と称し新入り補充兵たちに先輩たちがインパルスからリモート講義を行う。内容は艦の説明だったり暗黒星解説だったり様々。明も講義する予定だ。美理はちょっと楽しみ。
イグニスもキークもカンナも出席している。首筋は見えない。
途中一人ずつ呼び出され、ESPセンサーが張り巡らされた部屋でアランの面接を受ける。
麗子の番。イグニスと交代で部屋に入る。あのイグニスが言い寄って来ない?
ドアをノックする。
「入りたまえ」アランの声。
ドアを開け部屋の中へ。
中は真っ暗だ。学園祭でしたお化け屋敷みたい。ちょっと失礼か。
急に映像が映し出される。
宇宙の3D映像。まるで宇宙空間に浮かんでいるよう。
「名前とインパルスに乗艦希望した理由を答えなさい」声の主は見えない。
「はい。山岡麗子です。1年ほど前に大銀河帝国事件の際に助けていただき、一度乗艦しています。その時にこの銀河系で起きている恒星消滅の事を知りました」
映像が変わる。故郷のルリウス星。こちらの考えを投影している?
「自分に何ができるのかはわかりません。でも何かお役に立ちたいと思いました」
「優等生の答えだな。面白みに欠ける」アランの部下Aがつぶやく。
本当に優等生なのだから仕方ない。大きなお世話だ。
「嘘は言っていない。ESP反応もない。シロだな」部下B。ウソ発見器もある。
「(脳の)ESP野の活性化もみられません」部下C。
もちろん彼らの声は麗子には聞こえていない。
オブザーバーのロミも「100パー彼女はエスパーではない」と太鼓判を押す。もう一人のエスパーである明は補充兵らと講義室にいる。
次は美理の番。
「彼女は一年前から乗艦しています。時間の無駄では?」そう言うロミに、
「彼女だけ特別扱いしたら怪しまれる」アランはそう答えた。
入室する美理にすれ違いざま麗子が声をかける。
「何か結構疲れるよ。がんばって」
「ありがとう」
真っ暗な部屋。声が響く。
「名前とインパルスに乗艦希望した理由を答えなさい」
「な流美理です。・・・私がこの船に乗ったのは、信念とか使命感とかではありません。ただ一人の身内である父と離れたくなかった。ひとりになりたくなかったからです」
美理に同情してロミ(の目)はうるうるしている。実は涙もろいのだ。
美理の次はいよいよリインだ。




