一方その頃
時を少し戻し、チェンバーがアングリーシープを討伐してからメイを仲間にし、『邪神教団』によって改造されたワイバーンや『邪神教団』の幹部らしき男と戦っていた頃のこと。
チェンバーがただ一人親友であり同時にライバルとも思っているジェインもまた、彼に負けず劣らずの冒険を繰り広げている最中だった。
「気味が悪いな、本当に……」
ジェインがピッとその手に握る聖剣フリスヴェルグを振って、血糊を飛ばす。
彼が冷酷に見下ろすその視線の先では、男たちが倒れている。
皆一様に黒色に統一された服と頭巾を着ている彼らは『邪神教団』の構成員だ。
今回ジェインが受けたのは『邪神教団』のアジトがあると思しき場所の探索だ。
既にかなりの数の誘拐や失踪事件が発生しているため、流石に看過することはできなかった。
実際に向かってみると虚報でもなんでもなく、本当にアジトがあったのだ。
「……」
戦闘は終わったが、ジェインは眉間にしわを寄せて険しい目をしている。
邪教の信徒たちの戦闘能力は、そこまで高いわけではなかった。
ただ、気味が悪かった。
仲間がやられて憤るようなこともなく、彼らはただただ淡々と戦い続けた。
これほどに実力差があればやられにきているようだものだが、どうやら自分がやられることをまったく気にしていないようだったのだ。
まるで人形と戦っているようだ、とジェインは思う。
「しっかし、こやつらと魔物の活性化に本当につながりがあるのかのぅ? 我は正直、かなり微妙だと思うんじゃがの……」
「まあそれならそれでいいさ。こんな馬鹿げたことをしているやつらは懲らしめなくちゃいけないし」
「ジェインらしいのぅ」
そう言ってかかっと笑うのは、龍巫女であるドラグウェルだ。
均整の取れたプロポーションと恐ろしいほどに整った顔をした女性で、現在ジェインが所属している新生『暁』のメンバーの一人だ。
聖剣を見守っていた龍巫女であった彼女は、聖剣を問題なく抜くことができてしまったジェインと旅を共にしている。
最初はずいぶんとつっけんどんなところも多かったが、最近ではずいぶんと打ち解けることができ、軽口を交わすことができるくらいの関係性になっていた。
「しかしここまで探して異常の原因がまったく見つからないというのもおかしな話じゃ……それならここ最近活発化している『邪神教団』と結びつけるのは何もおかしくはあるまい?」
そしてもう一人のメンバーが、老人であるテファン元伯爵だ。
元は賢者とも呼ばれた魔導の深淵の到達者であり、ジェインの勇者としての資質を見込んだのか彼と行動を共にしている。
この三人が現在の『暁』のメンバーだ。
勇者と人造龍と賢者。
それぞれが一騎当千の強者である彼らは、どんな依頼や探索もあっという間に終えることができる。
彼らの現在の目的は、ここ最近魔物が活性化している原因を探ること。
その原因を探ることもかねて強力な魔物と戦っているうちに、彼らは既に冒険者としては最高峰のAランクに上がっている。
けれどそれだけの激戦を続けても、異変の原因は依然としてわからぬまま。
そんな中見つけたのが、この怪しい宗教のアジト襲撃だったわけだ。
中を進んでいくと、目を背けたくなるようなものがゴロゴロと転がっていた。
どうやらこの場所では人体実験か何かをしていたらしく、かつて人だったはずのものが見るも無惨な姿で捨て置かれている。
供養の気持ちからそれらを魔法で燃やしながら、ジェイン達は先へと進んでいく。
「ようこそ侵入者君、君も今から私のモルモットに――かぺえっ!?」
胸くそが悪いものを見せられ続け機嫌が悪くなっていたジェインは、最初から全力で聖剣を使い、あっという間にボスらしき相手を倒してしまった。
そのまま締め上げて尋問をしてみると、彼らも魔物の活性化に関する情報は持っていなかった。
だが彼らが信仰する邪神アジ・ダハーカの加護は、魔物達にまで及んでいる。
それを考えると邪神と魔物との間には、やはり関係性があると考えた方が自然だろう。
「ま、待て、この俺を……ぎゃああああっっ!!」
うるさいことをぎゃあぎゃあとわめいていた相手を、ジェインは容赦なく倒してみせる。
そのまま中にある資料を検分していく中で、彼らはとあるヒントにたどり着いた。
「邪神の復活……」
邪神へ祈りを捧げるために作った祭壇で、人の臓物や魔力を、特定の行程を踏んで供物として捧げ続けることで、邪神に施された封印は徐々に緩んでいくと書かれていた。
「もしこれが本当だとしたら……」
「魔物の活発化しているのは、既に邪神の封印が緩みつつあるから……?」
こうしてジェインたちに新たな目的が生まれた。
それは邪神の封印を再び強固なものにすること、そして邪神の再誕を阻止することだ。
彼らは己の敵を『邪神教団』として見定めながら、邪神にも届きうるだけの強力な聖魔法を使えようになるべく、戦いの日々を送るのだった……。
 




