次の街へ
「これは……聖御影石か?」
「おうよ。すり潰した粉をまぶすだけだとアジ・ダハーカの呪いが完全に消えなかったからな。ボタンの形にして自然に組み込ませてもらった」
よく見るとレザーアーマーにはところどころにボタンがついていた。
衣装として施されている部分も、各部を繋ぐために打ち込まれているものもある。
そのおかげで鎧も完全に真っ黒というわけでなく、ワンポイントが入っていて少しオシャレな感じに仕上がっている。
着心地を確認するために、着替えていく。
俺は鎧下をつけているので、わざわざフィッティングルームに向かう必要はない。
事前に採寸はしていたので、サイズはバッチリだった。
実際に関節を曲げたり少し激しめの動きをしたりして、細かい調整をお願いしていく。
防具は命に直結するため、ここを妥協することはできない。
何度か微調整を繰り返し、頷く。
うん、これで違和感なく動けるようになった。
「よし、これで問題なさそうだな」
「よそから見ると、問題ありありかもしれません」
そう言われて俺たちの格好を見てみる。
真っ黒なレザーアーマーに身を包む男。
黒と赤の修道着に身を包む女。
物騒な爪を持つ、真っ白なもこもこ。
言われてみると……うん、たしかに。
見た目の怪しさは、『邪神教団』の人間と見間違われてもおかしくない。
攻撃力と防御力を重視しすぎたか……。
結果を求めすぎたせいで、俺たちは大切な何かを見失ってしまったのかもしれない。
まあ防御力は折り紙付きだから、問題は見た目だけだから!
すぐに慣れるだろ、きっと、多分、メイビー。
「あ、そういえばダゴンさん、一つ聞いてもいいか?」
「おう、どうした?」
壁に立てかけていたトールを、軽く振る。
何度か振ると、紫と黒の光が蛇のように絡みつきながら、バチバチという音を響かせだす。
「この魔剣、前は紫色の雷だけだったんだけど、今は黒いのも混じるようになったんだ。こういうのって、よくあることなのか?」
「……詳しく聞かせろ」
『邪神教団』に関することは、民意を考えてあまり口外するなと言われている。
なので上手いこと話の輪郭をぼかしながら、黒い雷を使う敵と遭遇して倒した結果、こんな風になったことを伝えた。
有名な武具職人であり魔剣すら作れてしまうというダゴンさんなら何か知っているかもしれないという俺の予想は見事に的中する。
「魔剣が進化したんだろう」
「進化?」
「ああ、つまりこいつは天然の魔剣なんだろうな……羨ましいぜ」
意味がわからなかったので、詳しい説明を聞かせてもらうことにした。
まず世の中には、二種類の魔剣がある。
一つは魔刃打ちが作ることのできる、人工の魔剣。
そしてもう一つが、迷宮などから産出される天然の魔剣だ。
後者の魔剣には、ある一つの特徴がある。
天然の魔剣は武器自体が進化し、より強力なものに変わることがあるのだという。
もっとも、変わることがあるというだけで、全体で言うと進化する魔剣の方がずっと少ないみたいだ。
「進化の条件はほとんどわかってねぇし、剣によってまちまちだ。だが進化する魔剣は、二度三度と進化を繰り返すことはわかってる」
ダゴンさんがトールを観察している。その表情は真剣そのもの。
黒と紫の混じり合った不思議な雷がバチリと爆ぜ、ダゴンさんの前髪に移った。
「一度進化した魔剣……売ればとんでもない額になる。オークション辺りに競りにかければ、一生遊んで暮らせると思うぞ」
「…………売るつもりはない」
「ちょっと答えるまでが長かったですね」
「めぇ」
一生遊んで暮らすというワードには心惹かれたが、トールを売る気はない。
こいつには何度も助けてもらったし、それに……何度も進化するってことは、こいつも俺と同じようにレベルアップして強くなっていくってことだろ。
どこかで買い換えなくちゃいけないのかと思っていたけど……ずっと使い続けられそうで一安心だ。
「だろうな。それなら仲間だけじゃなく、武器にも目を向けてやるといい。これは俺の推論だが……進化する魔剣っつうのは恐らく、生きている。下手な扱いをしてると、そっぽを向かれちまうかもしれないぞ」
トールのことも考える、か……。
ダゴンさんが言うことには、今回トールが進化したのは間違いなく自分より強い雷をその身に浴び続けたことと、その敵を倒したことが原因だという。
つまりトールを更に強化したいと思ったら、雷を使う強力な魔物と戦う必要があるってことだ。
まずは俺たちのレベルアップが優先だが、そのことは覚えておいた方がいいだろう。
さて、これで俺たちの装備は完全に整った。
そしてこの街周辺の魔物では、俺たちレベルアップがなかなかキツい。
なんやかんや愛着が湧いてきてはいるが……そろそろブルドとも別れを告げるべきだろう。 次の街を……探さないとな。
そういやぁ今、ジェインは何やってるんだろう。
きっと俺の想像もつかないような激戦をくぐり抜けてるんだろうな。
俺はあいつに追いつけてるんだろうか。
レベルアップに向いた街を探しがてら、あいつが何してるか情報収集でもしてみるか……。




