防具
ブルドの街に帰ってきた俺たちは、自分たちが平穏を取り戻したことをすぐに理解する。
人の流行廃りが流れるのは早く、既にワイバーンのこと自体が話題にならなくなっていたのだ。
なので俺たちもワイバーンを倒した英雄というより、
「ああそういえばあの時はワイバーン倒してくれたよね、ありがと!」
くらいな感じで気安く接してもらえるようになった。
ちなみにメイの人気は相変わらずなので、結果的に俺たちの中で一番顔が売れているメンバーはメイということになった。
少し寂しい気もするが、過ごしていくにはこれくらいがちょうどいい。
街に帰ってきてからすぐにダゴンさんの下へ向かう。
「いよぉし、これだけありゃあ十分だ。そんじゃあ一週間後あたりに来てくれ、最高の防具を仕上げておいてやるからよ」
そう言われたら、ただ待つことしかできない。
ギルドへの報告をしたり、近場の魔物を掃討したりしているうちに時間はあっという間に過ぎていった。
そして気付けば言われていた一週間がやってきていた。
アイルやメイと一緒に、ダゴンさんの下へと向かう。
「よく来たなおまえら、防具の方はとっくにできてるぜ」
そういって鼻の下をかくダゴンさん。
その様子を見る限り、どうやら相当自信があるようだ。
彼についていくと、そこには覆いに隠された三つの防具らしきものがあった。
「まずはそっちのメイの装備だ、こっち来いよ」
「めえっ!」
「おお、なんだかかわいいな……」
どうやらメイのかわいさは、堅物(エロ方面を除く)のダゴンさんすら解きほぐしてしまうらしい。
メイにお手のようなポーズを取らせると、ダゴンさんが最初の覆いを外す。
「メイは防御力の方は問題ないということだから、装備の方を充実させることにした。原種ワイバーンの爪を加工して作った原種翼竜の凶爪だ。固定には同じく原種ワイバーンの革を使わせてもらった」
そういってダゴンさんが装着させたのは、メイの蹄を延長させたような形で突き出ている爪だ。
色は黒っぽく、テカテカと黒光りしている。それが前足と後ろ足の併せて四つ分。
動きを阻害しないよう、後ろ側の爪はかなり控えめに作られていた。
「めえっ!」
メイがぶんっと爪を振る。
風を切るビュウっという音が聞こえてきた。
今までメイには勢いをつけて転がってから体当たりくらいしか攻撃方法がなかった。
強い相手にはそんな風に時間のかかる攻撃をすることができなかったので、基本的にメイの役目はなのであくまで俺やアイルが攻撃をするまでの引きつけとタンク役だった。
だがワイバーン素材を使った原種翼竜の凶爪があれば、彼の攻撃力も一気にぐっと上がることだろう。
「めえっ、めえっ!」
どうやらメイの方も気に入ったようで、ぶんぶんと爪を振り回している。
どこからどう見てもただの羊なメイにしてはつけている装備が物騒だが、背に腹は替えられない。
「めめめめめめめぇ、めめぇめぇ」
今宵の爪は血に飢えている……的な感じで決めゼリフを言ったっぽいメイは、満足したようだ。
「ほいじゃあ次はアイルちゃんの装備だな、フィッティングルームはこっちにあるから着替えてきてくれ」
アイルは言われたまま、着替えに向かう。
ちなみに採寸をしたのもダゴンさんだが、仕事をしている最中はまったくいやらしい視線を向けられることはなかったらしい。
こと仕事ということになると、完全にスイッチが切り替わるタイプのようだった。
「……どうでしょうか?」
やってきたアイルの姿は、奇妙だった。
彼女が着ているのは、黒のローブだった。
使われているのは原種ワイバーンの革であり、ところどころに赤いラインが入っていた。
ワイバーンを模して作られたのかフードの端は牙のようなとがった耳が出ていて、そして彼女の胸のあたりには、赤い十字架型の凹みがある。
見た感じは聖職者というか、それこそ邪心を進行する邪教徒のように見えなくもない。
「革を使った翼竜のレザーローブだ。お嬢ちゃんの意向には最大限答えてみたが……これ修道着として使えそうか?」
「ええ、問題ないです」
「それなら良かった。ローブとしてまるっとワイバーンの皮をくりぬいて作っている関係上、分厚い部分が使えてないから、弱い部分には削った鱗を当てて補強してある。前の鎖帷子と比べると防御力と動きやすさは格段に上昇してるはずだぜ」
「ありがとうございます!」
「そしてこっちが竜骨のロッドだ。一番頑健だった足の骨を使ってるから、鈍器としての耐久度も折り紙付きだぜ」
レベルアップを重ねたことで最近はアイルもある程度素早さと攻撃が上がってきた。
最低限の近接戦闘はできるよう、ロッドの制作も頼んでおいた。
アイルもメイみたいにやってみたかったのか、杖をぶんぶんと振り回し始める。
それを見たメイも、負けじと爪を振り回し始めた。
微笑ましいようでよく見ると物騒な空間が繰り広げられている。
……まあ二人が楽しいなら、それでいいか。
「そしたら最後がチェンバーの装備だ。ほらよ」
そういってダゴンさんが最後の覆いを外す。
そこにあったのは……。
「お、おぉ……」
思わず感嘆の声を上げてしまうほど見事な、漆黒のレザーアーマーだった――。




