雷と雷
まばゆかった光が消え、赤光が薄まって消えていく。
俺の目の前に居るのは――。
「ば、かな、なぜ……」
トールをその身体の中心に突き立てたガビウスの姿だった。
こいつが赤雷を放った瞬間、俺は即座にこのままでは自分がやられるとわかった。
なので攻撃の軌道を無理矢理に変更し、トールでガビウスを叩き斬るのではなく、トールをガビウスに突き込んだ。
俺のトールもこいつの杖も、雷を纏うことのできる魔力の籠もった武器だ。
バリバリと発される雷は食らえば感電するが、使用している俺たちは武器から発される雷を纏っていても、感電して動きが鈍くなるようなことはない。
つまり雷は、本人には無効化される。
だったら使用者であるガビウスに剣を突き込んでやれば、雷のうちのいくらかは無効化してくれるんじゃないか。
咄嗟にそう判断し、一か八かで試してみたが……どうやらなんとかなったみたいだな。
「ガハッ!」
いや、なんとかなったわけじゃねぇかも。
ただやはり全ての雷を受け流せたわけではないようで、身体の中には相当なダメージが入っている。
咳をすると、口から血の塊が飛び出してきた。
全身からはブスブスと煙を発しながら焦げ臭くなっているし、強い光を浴びすぎたからか視界に黒い斑点みたいなものがいくつも見えている。
身体が重い、頭が回らない。
けど……俺は死んじゃいない。死んでないなら、まだ終わってねぇ。
身体は鉛をつけたみたいに重いが、決して動かないわけじゃない。
グリッとトールを突き込んでやると、ガビウスの身体がびくりと跳ねる。
どうやら赤雷を使って雷を使い尽くしたらしく、杖はまったくといっていいほどに沈黙したままだった。
俺と似た感じで使う度に速度や威力が上がってくなら、今が最大の好機と言える。
そのまま剣を押し込もうとするが、体勢が悪い。
足払いをしてガビウスを地面に倒してから、その胸に刺さった大剣のグリップに更に力を籠める。
「がああああっっ!」
「同じ雷の使い手だったからなんとかなったが……正直かなり危ないところだったな」
戦闘が落ち着き周囲を見ると、アイルとメイが黒装束を着た奴らと戦っている様子が見える。恐らく『邪神教団』の構成員だろう。
いつからいたのかは見当もつかない。
ガビウスがやられるとなって、急いで助けに来ようとしているのかもしれない。
まあここまできて、そんなことさせないけどな。
剣に体重を乗せて突き込む。
ズブリと奥深くまで入るが……硬い。まるでオーガの身体に剣を刺してるみたいだ。
よく見れば刺青が光っている。なんらかの魔法的な効果なんだろうか?
だが今の俺の力で、押し込めないほどじゃない。
抵抗を無視して強引に腕の力を加え続ければ、ブツッという感触と共に剣が身体を貫通した。
「ひ、ひいっ、嫌だっ! し、死にたくないッ!」
「……てめぇはそう言ってくる冒険者を、いちいち助けてやったのかよ?」
こいつは既に大量の人間を殺している犯罪者だ。おまけに邪教まで信仰し、人間を生け贄に怪しい儀式なんかまでしている。
残念ながら情状酌量の余地はない。
様子を見てみれば、アイルたちは若干劣勢なようだ。
一応パーティー強化でメイの防御力を増やしてはいるんだが、明らかに手数が足りていない。
このまま邪神教徒たちがやってきたら、満身創痍の俺が戦えるかどうかは怪しいところだ。 本当なら情報を聞き出したりした方がいいんだろうが……そんな時間もなさそうだ。
グリッと更に深く突き入れて、肉体にスペースを作ってから剣を引き抜く。
そして今度こそ頭に当たるように、剣を思い切り振り上げ……そして振り下ろした。
『レベルアップ! チェンバーのHP、MPが全回復した! チェンバーのレベルが23に上がった! レベルアップ! アイルのHP、MPが全回復した! アイルのレベルが20に上がった! レベルアップ! メイのHP、MPが全回復した! メイのレベルが19に上がった!』




