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「オラオラオラオラァッッ!!」


「ちいっ……!」


 追撃の手は緩めない。

 距離を詰め続けなければ、相手の間合いに入ってしまう。


 だとしたら押せ押せ。

 相手の逃げを封殺しろ、打てる手を全て打て。

 手も足も電撃も魔法も、使えるもんは全部使ってとにかく相手とのゼロ距離を保つんだ!


 トールの柄を浅めに持ち替え、攻撃のパターンに工夫を加えていく。

 重くなくていい、勝負を決めにいかなくていい。

 とにかく相手に余裕を持たせず、焦らせる。

 そして勝利のチャンスが来るのを待つんだ。


「――らあっ!!」


 右から左に流すように放った一撃が、ガビウスの持つ杖と激突する。

 相手は後衛タイプなため、当然ながら俺が惜しかった。


 雷を食らうことで服は焦げ、身体が見えている。

 全身にびっしりと彫り込まれている刺青は、見ているだけで気分が悪くなってくる。

 以前会ったあいつの刺青は青だったが、ガビウスの場合は紫色だ。

 いくつもの頭を持つ紫色の生き物が、まるで生きているかのようにうねうねと動いている。 その瞳はこちらを睨んでいるようで、自らを彫り込んでいるガビウスの肉体をねめつけているようでもあった。


「シッ!」


 下段に構えた剣を振り上げる。

 肩にかかるほどに長いガビウスの髪がわずかに切れ、頬に裂傷ができた。

 ぷっくりと球になって浮き出した血の色は、紫色をしている。


 こいつ、完全に人間を止めてやがる。人間を別の生き物に変えてしまう……なるほど正しく邪神の所業だ。


「爆雷!」


 ガビウスの使う雷にはいくつかの種類がある。

 一番気を付けなくちゃいけないのは、この爆雷という攻撃だ。


 これは簡単に言えば、衝撃波を伴う雷を生み出す魔法だ。

 波に乗る形で雷が放射状に広がるため、俺だけではなくメイとアイルにもダメージを与えることができる。


 三人のHPを同時に削られるので、ヒールで回復させるのにも一苦労。

 その隙を突かれてはマズいため、俺はいつも以上に気張らなければいけなくなる。


 ガビウスが俺を通り越し、後ろにいるアイルへと手を向ける。

 ――させるかよっ!


「黒雷!」


 ガビウスが放ったのは、黒い雷である黒雷だ。

 個人用の攻撃で、攻撃範囲が狭いが爆雷と比べると威力が高い。


 帯電状態のトールを振る。

 雷と雷が激突し、眩しい光が辺りを照らす。

 バリバリと浸蝕してこようとする黒雷を、腕の力で強引に押し戻す。

 アイル目掛けて放たれた一撃を押さえる形になったので姿勢は若干崩れているが、それでも分があるのは俺の方だ。


「――らあっ!」


 雷を弾き返すと、ガビウスは舌打ちをしながら杖でガードする。

 自身が放つ雷撃は通らないらしく、杖に雷が直撃しても堪えた様子はない。


 雷が溜まった杖が放電を始めた。

 どうやらあの杖にも、トール同様雷を溜め込む性質があるらしい。


 少しためらったが、俺は前傾姿勢を保ったまま攻撃をし続けた。

 帯電している杖による逆撃が怖いので、防御姿勢に入れる軽い攻撃を加えていく。


 ガビウスの身体は、既に傷だらけだ。

 大剣を何度も叩きつけているので打撲痕や切り傷がいくつもできている。


 接近戦を続けられ不利な戦いを強いられているせいか、こちらを睨む目つきは悪鬼のようだ。


「まさかただの冒険者ごときに、ここまで傷を負わされるとはな……」


「あいにくだけど、俺はただの冒険者じゃない。いずれ最強になる男……チェンバーだ!」


 身体にかけていたリミッターを外す。

 傷を食らうことを覚悟した上で、隙が大きくとも威力のある攻撃へ切り替えていく。


 当然ながら俺の身体にも傷が増えていく。

 けれど今度は、たしかに相手を追い詰めているという手応えを感じることができた。


「ハイヒール!」


「めえっ!」


 ガビウスに攻撃を受ければアイルが俺を癒やし、メイが攻撃を肩代わりしては相手の注意を引いてくれる。

 一対三という数の力で、俺たちはガビウスを追い詰めていくことに成功していた。


「これで――終わりだッ!」


 取った!

 そう確信するだけの不可避の一撃。

 身体を唐竹割りにするだけの威力を込めて放たれた、頭部への振り下ろし。


 相手を追い詰めていることに夢中になっていた俺は忘れていた。

 相手もまた――こちらを倒すために、最善の手を打っているのだということに。


「――赤雷ッ!」


 ここにきて初見の攻撃だ。

 明らかに黒雷よりやばそうな、赤と黄色の混ざったような色合いの雷。


 ガビウスへの攻撃を放ち確かな手応えを感じた、その一瞬の隙をついて放たれた強力な雷を、俺は防御姿勢を取ることもできぬままモロに食らう。


「ぐあああああああっっっ!?」


 光が溢れ、熱が身体を冒す。

 赤の光に、俺の意識は飲み込まれていき――。

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