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とりあえず


 ひゅーひゅーと周囲にいる人間からはやされながら、俺はギルドに併設されている食堂で彼女と話をすることにした。


 けれど皆今日の飯を食うことにも必死なので、すぐに俺らの方から仕事へと意識を切り替えたようで、好奇の視線はすぐに消えた。

 そういうところだけ妙にプロを感じさせるのが、いかにも冒険者らしい。


「あ、あの、ありがとうございます……ずっとあの場所にいたら、泣いちゃってたかもしれませんでしたので……」


 元メンバーの女が言っていた通り、たしかに見た目はかなりかわいらしい。

 着ているのは青と白の……修道服だろうか?

 にしては少しデザイン性が高すぎる気もするけど。


 となると彼女はプリースト――回復魔法や魔除けの魔法なんかを使う僧侶っぽいな。

 『神託』との相性は、なかなかに悪くなさそうだけど。


「いや、あそこで見過ごしてたら、寝覚めが悪くなってたから。悪いな、俺が手を貸したせいで妙に目立っちゃって」


「いえ……」


 俯く彼女は、目を赤く腫らしていた。

 泣いてこそいないが、涙腺はもう決壊寸前だ。


 まずいな……俺は女の子の涙は、苦手なんだよ。

 得意だという男に会ったことはないけど。


「俺はチェンバー、君は?」


「アイルと申します……一応Dランク冒険者です」


「俺は一応Cだったけど、今はソロになったから実際の実力はDくらいだ」


「それを言ったら追放された今の私なんて、Eランクの実力かもしれません……」


 女の子にある、何を言ってもとにかく悲観的に考える時期ってのがあるだろ?

 今の彼女は、まさにそれらしい。


 こういう時は下手に起こったことを考える時間を与えないよう、これからのことに目を向けさせてやるのがいい。


「でもプリーストなら他のパーティーから勧誘があるさ。俺みたいなタンクは、どうしても欠員補充で雇われるくらいだし」


「私……回復魔法は使えますけど、レッサーヒールだけですよ。別にポーションで賄えますし、ちょっとした節約くらいにしかなりません。報酬頭割りで雇うなら、ポーション使った方が安上がりなこともあったくらいですし……」


 ポーションとヒーラー、どっちが大切か問題ってやつだな。


 ポーションを買って使えば、少々高くつくが戦士も魔法使いも回復手段を持てる。

 ヒーラーがいれば回復魔法を使ってもらえばいいため、その分の出費は浮く。


 どっちを選ぶかは、割とパーティーごとの好みだ。

 どうやら彼女がいたパーティーは、前者だったようだな。


 ちなみに俺のいた『暁』は後者だ。

 前衛に即座に回復を飛ばせるヒーラーが居れば、多少傷を負ってでも全力で相手を潰しにいけるからな。

 うちは選択肢を増やすためにナルを外すなんて考えもしなかった。


「でも魔法は使えば使うほど威力とか効力が増していくって話じゃないか。いつかはハイヒールとかも使えるようになるんじゃないか?」


「プリーストでヒールが使える人間は全体の半分もいません。更に言えば、ハイヒールを使える人間はその半分もいません。プリーストっていうのは一流になるのが難しいんです」


「ああ、それは俺も知ってる。前のパーティーにプリーストがいたからな」


 プリーストというのは、なかなか一流の冒険者にはなりづらい。


 回復魔法や結界魔法を使うことのできる光魔法の才能を持つ人材が少ない。

 だというのに戦場において、プリーストというのは真っ先に狙われる。


 誰だって相手に好き勝手回復されるのが嫌だから、回復ソースを真っ先に潰しに来るからな。

 当然っちゃ当然の話だ。


 だがそのせいでプリーストは戦場に出さずに後方支援に徹した方がいいという考え方は、未だに根強い。


 こうして冒険者になろうとする野良の僧侶さんは滅多にいないのだ。

 そして稀にいるアイルのような子も、別にポーションに頼ればいいしと割と軽視されがちなのが現実である。


「これからどうするんだ?」


「どうしましょう……ふふっ、どうするのがいいと思います?」


 やけっぱちになっているのか、暗い笑みを浮かべるアイル。

 何をしても暗くなるときは……することは決まってるよな。


「ちょっと待ってな」


「え……チェンバーさん?」


 一度席を離れ、数分の後に戻ってくる。

 俺の両手には、なみなみエールの注がれたジョッキが握られていた。


「ほれ、成人したなら酒も飲めるだろ。嫌なことがあった時は、酒でも飲んで忘れちまえ」


「ええ、でも……プリーストの飲酒は推奨されてませんよ」


「プリーストの前に、一人の人間だろ。まあ無理強いはしない、それなら俺が二杯飲むさ」


 とりあえず、クッと一息に呷る。

 中身が半分くらいになって、すぐにふわふわとした気分になってくる。


 別に俺は酒に強いタイプじゃない。

 二杯を飲み干せるかどうかは、正直微妙なラインだった。


 ジョッキをテーブルに置き、アイルの顔を見る。

 すると少しだけ冷静になった。


 俺は突き放された彼女を見て、なんとなく自分と重ねてしまい、手を差し伸べた。


 だがそもそもの話……俺はアイルをどうしたいんだろう?


 何も決めずに、とりあえず話だけ聞いているだけじゃよくない。

 そうだな……と少し考えてみる。


 助けたい……うん、その言葉が一番しっくりくる気がする。


 俺は追い詰められている状態のアイルを、助けてやりたいのだ。

 今はこれからのことを考えられるくらいに、彼女の心にゆとりを持たせてやりたい。


 そのためにできることは、いったいなんだろう。

 女の子がされて嬉しいこと……マーサとナルのことを参考にすれば、話を聞いてあげること、だろうか。



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