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悪辣


 惑いの谷を抜けると、ようやく五合目までやってきた。

 ここは霊峰ミヤダケの中でも珍しい、特に何も特徴のない部分だ。

 多くの冒険者達はここで休憩を取り、更に危険度が高くなる上層部を目指していく。


「ふぅ……これでようやく半分か……」


「長い道のりですねぇ……」


 近くにあった切り株に腰掛けながら、ゆったりとする俺達。

 メイは近くにある砂場で、めえぇ……ととろけた様子で横になっていた。


「少なくとも俺達の目の届くところには、聖御影石も竜泉花の花粉も見当たらなかったよな?」


「はい、多分。私もなるべく広い範囲で見ていたはずですけど、見つけられませんでした」


 話では山の中でも浅い部分にある竜泉花なんかは根こそぎ持っていかれてしまっているようだ。

 薬物として使われてしまっているせいで需要が高まっているせいで、かなり奥の方まで進まないと見つかることがないようだ。


「聖御影石に関しては、採掘できるポイントを見つけないことには始まらないしな」


 ギルドの人に聞いたところ、聖御影石の掘れる場所を見つけることは難しくないらしい。

 亀裂の入った断面からうっすらと光を発していれば、それが聖御影石が埋まっているというサインのようだ。


 そんな風に見つけるのが簡単なものだから、霊峰ミヤダケでも一時期乱獲が進んでいたらしく、こちらも奥の方や人が普段行かない方まで出向かないと見つかることはないらしい。


「というか、思ったより人が少ないよな……」


 周囲の状況がわかりにくいというのを加味しても、ミヤダケに人が少なすぎるように思う。 あまり稼げる魔物もいないので、冒険者たちに敬遠されているんだろうか。


「なんでも最近、ミヤダケで失踪騒ぎが良く起こっているみたいですよ」


「……初耳だな」


「教会経由で仕入れてきた情報なので、確度は高いと思います」


 アイルの話によると、ここ数ヶ月の間に何度も、ミヤダケで失踪事件が相次いだらしい。

 冒険者が難易度の高い場所へ行って帰ってこないというのはよくある話だ。

 それなのにどうしてその話が人の口に上っているかというと、いなくなった奴らにはCランクやDランクの冒険者が多かったらしい。


 今までに何度もミヤダケを登ったことのあるベテラン冒険者達が、相次いでいなくなってしまっている。

 どうやらミヤダケには何かが起こっているに違いないと、皆が二の足を踏んでいる状態らしいのだ。


「なるほど、だから受付嬢さんがあんなに親切に対応してくれたのか……」


 無意識のモテ男っぷりを発揮して惚れられたのかと思ったが、どうやらそうではなかったらし。


 ポケットに手を突っ込み、中から地図を取り出す。

 そこに打たれている赤い点は、霊峰ミヤダケに存在している御影石の発掘スポットだ。 


 聖御影石は、元々はただの御影石。そこになんらかの原因によって聖性が加わることによって生まれる素材である。

 なので御影石が掘れる場所を把握しておけば、そこに新たな聖御影石の発掘ポイントができているかもしれないというわけだ。


「にしても失踪騒ぎか……アイルは原因に心当たりはあるか?」


「いえ、まったく……たしかに新人冒険者が初見殺しを食らうことは多そうですけど、ここの探索に慣れてる人であればドジは踏みにくそうですよね」


「たしかにここのギミックは、ある程度対応策も編み出されてるしな。もしかしたら強力な魔物が棲み着いてたりするのかもしれないな……」


 そんな風に結論を出した俺たちは、休憩を終え出発することにした。


 俺たちを待ち受けているものがもっと悪辣であり得ないものだということを、この時の俺たちはまだ知らずにいた……。

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